なぜウサギを一羽、二羽と数えるか1

 言葉は生きていて毎日毎日新しい使われ方をされるようになると言う。さてそれではそれが誤りかと言うと、その判断は後世の人に委ねるしかない。

 動物の数え方も一頭なのか、一匹なのか、一羽なのか、なかなかむずかしい。

 かつて兎は山間部に生活している人達にとって重要な蛋白源であった。そこへ「生類哀れみの令」である。しかし鳥は殺生禁止に含まれなかった。

 ある知恵者が「これは鳥でございます」と言って兎を食べ続けたと。これ以来、兎は一羽二羽と数えるそうな。

 ところが、皮を剥き肉にしたときの兎の足は、実に鳥の足ににている。ヨーロッパでは兎の肉は好んで食べられる。著者が留学していたオックスフォードの病院の食堂でもたまにご馳走の日には兎が出た。残念ながら著者は留学前に日本で行っていた実験にウサギを使っていたため、どうしてもこの日は違うメニューにせざるを得なかったが。

 筋肉には白い筋肉と赤い筋肉がある。白い筋肉は瞬発力は強いが持続力はない。すぐに疲れてしまう。反対に赤い筋肉は瞬発力は無いが、持続力があり疲労しない。前者はエネルギーとして糖を分解するのに大量の酸素が必要であるが、後者では酸素消費量は少なくても糖の分解ができるシステムを持っている。

 鳥の肉、兎の肉を解剖すると、腿肉の外側は白く、中に赤身の肉がある。食べてうまいのは白身の肉である。笹身は翼を動かす胸筋で白身の肉である。

 ヒトではこうした筋肉による差は少なく、一つの筋肉に赤筋と白筋が入り交ざる。最近では陸上選手の競技種目を決定するのに大腿の筋肉を生検し、赤筋の多い者は長距離に、白筋の多い者は短距離選手にするそうである。

 こうした筋肉の分化がなぜ必要なのか?

 瞬発力を必要とする運動とは何か。鳥が空を飛ぶ運動は鳶のように上昇気流をうまく応用しているものは別として、必要な力を必要な時に瞬時に発揮しなければならない。またジャンプ力のある兎の後ろ足は敵から身を護るために、生き残り策として必須である。雪に残った兎の足跡は小さな二つの点が前足のもので、これは左右が互い違いにならぶ。これに比べ、後ろ足の足跡は大きく、左右が同時に接地と跳躍をするため横に並んでいる。

 この歩行方法は、他の四足動物とは随分異なっているものである。雪の中の狐の足跡は小さな四つの点がほぼ一直線上に並ぶ。これは四足動物の普通の歩行である。

 このような歩行の形態からしても、兎の足は鳥の足にその筋肉組成が似ていても不思議ではない。

※このコンテンツは、当科顧問橘滋國先生の著書である「体の反射のふしぎ学ー足がもつれないのはなぜ?」(講談社 ブルーバックス 1994年)を元に改変・編集したものです。

このサイトの監修者

亀田総合病院
脊椎脊髄外科部長 久保田 基夫

【専門分野】
脊椎脊髄疾患、末梢神経疾患の外科治療