許せないもの2

 ヒラメやカレイは体を倒してしまい水底の方の目は意味がないので、これを移動させ「左ヒラメ、右カレイ」(すべてのヒラメ・カレイに当てはまる訳では無いそうだが)と言われる奇妙な顔になってしまった。餌を探して歩くときには彼らは背鰭・腹鰭の連続した鰭で泳ぐ。この鰭を動かす筋肉が「ヒラメの縁側」。満腹の彼らは水底で休む。あるいは待ち伏せか、この時は、保護色だけでは不安らしく、海底の砂のなかに体を沈め目玉だけを出しているヒラメの姿はユーモラスである。これを見つけて脅かすと、一目散に砂から飛び出して違う場所の砂のなかに体を沈める。目も引っ込めてしまうから一度見失うとどこに行ったのか全く分からなくなる。まるで忍者そのものである。その時の彼らの粗大な推進力は依然脊椎を中心にした左右へのくねり運動で得ている。これは許せる。

 ところがコチは目を移動するのが面倒であったらしく、体を立てたまま水底に降りた。体は背腹方向に潰れた。これでは体を左右に振っても強力な推進力は得られない。胸鰭は水底につかえて役に立たない。この不合理がさらなる「適応」への変化を要求した。似たような生活をしているオニオコゼの胸鰭は、こけおどし。しかし、コチの中間にはすでに足としか考えられないような形の胸鰭を持つものが存在する。歩行の開始である。この足の原型がコチから直接地上動物に伝授されたものでは無くても、シーラカンスにせよ肺魚にせよ胸鰭を移動の道具にしたところから地上生活への茨の道が始まった。

 さらに落ちこぼれて水辺に追いやられ潮が引いて汐溜に取り残された肺魚の中間は、もう要らなくなった浮袋をガス交換の道具に変え、胸鰭を足にして地上へと追いやられた。

 そこで我々を待っていたものは、緑のユートピアではなく、1Gという強力な地球の引力そのものであった。

※このコンテンツは、当科顧問橘滋國先生の著書である「体の反射のふしぎ学ー足がもつれないのはなぜ?」(講談社 ブルーバックス 1994年)を元に改変・編集したものです。

このサイトの監修者

亀田総合病院
脊椎脊髄外科部長 久保田 基夫

【専門分野】
脊椎脊髄疾患、末梢神経疾患の外科治療