中枢神経の左右逆転現象2

 シビレが、神経線維のどれを伝わるのかは良くわかっていないのであるが、著者は温痛覚を伝える神経連絡に関係していると考えている。大脳では、右の脳が、視野を含め左の半身の情報収集と、司令に関係すると言う左右逆転現象はすでに述べたが、運動司令や触覚に関係する神経連絡は脳幹で交叉し、脊髄では右のものは右側を左のものは左側を走る。ところが、温痛覚の神経連絡だけは脊髄内ですぐに反対側の脊髄に入り、右の痛みは左の脊髄を、左の痛みは右の脊髄を通って大脳に投影する。

 この患者さんの場合、シビレと運動麻痺が同じ側である。これは責任の場所を脊髄に求めるわけには行かない。病気は大脳にあることをこの所見は意味している。もう一度経過を聞くと、シビレの前に軽い脳梗塞を起こしたと言う。脳梗塞のあとのシビレはなかなか治らない。大切なことはきちんとした生活指導と適切な薬で次の脳梗塞の発作を予防することである。

 なぜ、中枢神経での左右逆転現象が存在するのか良くわからないが、診断には大変重要な鍵になる。
 残念ながら、この患者さんの治療に外科医の出る幕はない。医学的にはこの脳梗塞自体はとても軽症で、次の大きな発作さえ予防すれば天寿を全うすることができると考えられた。しかし、この患者さんにとっては現在のシビレの治療が最重要課題であり、治らないことでの医師不信が増大する。重い重い負担であることを理解してあげねばならない。

※このコンテンツは、当科顧問橘滋國先生の著書である「体の反射のふしぎ学ー足がもつれないのはなぜ?」(講談社 ブルーバックス 1994年)を元に改変・編集したものです。

このサイトの監修者

亀田総合病院
脊椎脊髄外科部長 久保田 基夫

【専門分野】
脊椎脊髄疾患、末梢神経疾患の外科治療