コウモリの耳スイッチ2

 さて、話をもとに戻そう。コウモリの中耳スイッチに似た構造が人の耳にも存在する。アブミ骨にはアブミ骨筋、ツチ骨には鼓膜張筋という小さな筋肉がついている。これらはそれぞれ、顔面神経、三叉神経に支配されている。その生い立ちから考えれば当然の神経支配であるが、こうした解剖学的知識は医学生をひどく悩ませるものである。なぜ、こんな小さな骨にも筋肉が必要なのか。コウモリの鼓膜スイッチについて著者は詳らかには知らない。

 ロックコンサートに行った人はお分りのことと思う。総立ちの大合唱の後、会場から出てきた聴衆の耳は殆ど聴力を失っている。これは何事か。興奮に酔っているためだけではなさそうである。人の耳には、過大な入力を制限するシステムが存在する。鼓膜張筋が収縮すると、鼓膜のインピーダンスは大きくなり、その振動は減衰する。同時にアブミ骨筋の収縮はアブミ骨の可動性を制限する。こうして必要以上に大きな音量が入力されたときに、これを制限するうまい反射が行われている。この反射はアブミ骨筋反射と呼ばれ、反射中枢は脳幹である。

 かつて、脚の綺麗な臨床検査技師がいた。彼女はなかなかの美貌であったが、「三重苦ケリーちゃん」と呼ばれていた。
 1.強度の近視 2.口が悪い 3.都合の悪いことは聴こえないふり!

※このコンテンツは、当科顧問橘滋國先生の著書である「体の反射のふしぎ学ー足がもつれないのはなぜ?」(講談社 ブルーバックス 1994年)を元に改変・編集したものです。

このサイトの監修者

亀田総合病院
脊椎脊髄外科部長 久保田 基夫

【専門分野】
脊椎脊髄疾患、末梢神経疾患の外科治療