耳をそばだてる2

 猫が丸くなっているときに本当に眠っているのか、狸寝入りかを見極めるには耳を観察すれば良い。熟睡しているときには耳は音に反応しない。しかし、狸寝入りでは、新しい音源に対して意識が集中すると耳がその方向に動く。これは反射だから止めようがない。

 他人が何か良からぬ企てをしていそうだったり、自分の噂をしていそうだったりすると、人は「耳をそばだてる」。この語源は、どうやら、猫の耳に見られる反射にありそうである。

 猫の耳には筋肉が7つ付いており、耳の方向をかなり自由に操れる。また戦う時には傷つかないように伏せることすらできる。これに比べ、我々の耳は、特殊な訓練をした人以は、耳介を自由に操ることはできない。筋肉も数が減り、弱々しいものである。もっとも猫のように頭の上にアンテナのように突き出した耳でなければ、動かしたところで大した役には立たないと思うが・・左右非対称の位置に耳を持つフクロウでは耳介を動かす代わりに、首を動かして指向性の確認をするらしい。

 ところがである。人の耳の後ろには、後耳介筋という筋肉があるが、この筋肉の上に電極を張り付け、例えば右の耳であれば、右を見るようにさせると、眼球の動きと同時に、後耳介筋は、ちゃんと、筋活動を行っていることが観察できる。もちろん肉眼的には耳介の動きは見えない。右目を右に動かす右の外転神経と右の耳を後ろに引っ張る後耳介筋を支配する顔面神経の間に神経連絡が残っているのである。この反射の引金は、意識-大脳皮質である。

 まさに、人は「耳をそばだてる」ことができるのである。

※このコンテンツは、当科顧問橘滋國先生の著書である「体の反射のふしぎ学ー足がもつれないのはなぜ?」(講談社 ブルーバックス 1994年)を元に改変・編集したものです。

このサイトの監修者

亀田総合病院
脊椎脊髄外科部長 久保田 基夫

【専門分野】
脊椎脊髄疾患、末梢神経疾患の外科治療