月がとっても青いから2

 瞬きで一瞬視覚情報が途切れても、われわれはそれを意識しない。これは残像現象によるところが大きいが、眼球位置も瞬き前と同じところに有る。ところが、ギュッと目を閉じたり、また目を閉じた状態で無理に目蓋を開けようとすると、Bell現象と呼ばれる眼球の上転が起こる。この現象は、顔面神経麻痺で、目蓋が完全に閉じない状態になると、起こるようになる。またある種の病気で意識的には眼球の上転ができないことが有るが、こうした患者さんに上を見るように指示すると、瞬きが多くなり、無意識にこのBell 現象を利用して、眼球を上転させることが有る。これらの反射には、複雑な神経機構が作用しているが、これらは、基本的な生命保護の目的に叶った反射回路が存在し、ほとんどが意識せず行われている。視覚情報が、最優先のヒトの脳は眼球の運動や、眼球の保護にはかくも多くの反射機構を準備している。眼球そのものは魚のままなのに。

 月明りが有れば問題は無いが、新月の夜は暗い。視覚情報が頼りのヒトは困惑する。むかし、北海道大学が開設された当時、今のように外灯の無い中、予科生はキャンバスの南の端に有る予科の校舎から約1キロメートル北に有る恵迪寮まで北極星の星明かりを頼りに歩いたと言う。ところが札幌の市街は地磁気の東西南北で升目が切られている。幅10メートルの道路は地磁気の北に向かって延びている。地磁気の北は北極星の北に対して約6度西にずれている。北極星を頼りに北に向うと約6度東に向う事になる。Tan 6゜= 0.1であるから、100メートル北に進むと、10メートル東にそれる事になり、寮に帰り着くまでに最低10回は溝に落ちる事になる。あわれ、寮生の溝への転落事故は後を絶たなかったと。そこで、星明りでも地磁気の北に向って歩けるように、背の高く育つホプラ並木が作られたと。これは、伝説。

※このコンテンツは、当科顧問橘滋國先生の著書である「体の反射のふしぎ学ー足がもつれないのはなぜ?」(講談社 ブルーバックス 1994年)を元に改変・編集したものです。

このサイトの監修者

亀田総合病院
脊椎脊髄外科部長 久保田 基夫

【専門分野】
脊椎脊髄疾患、末梢神経疾患の外科治療