飛魚を見たかー見ることとはー2

 残像現象と、動きの解析作業で、映画やテレビは動画として好まれる。しかし、今は禁止されているが、動画を構成する1セットの静止画像の1枚に、コマーシャルを挟んでも、意識上には投影されず、意識下に送り込むことも可能である。動きに対する処理は重大事ではあるが、むしろ、意識との関連においては、予想しているものとのマッチング、すなわち、記憶の中の引き出しとの照合が重要である。従って、能動的な意識の呼び出し無くしてはものを見ることはできない。

 残念ながら、我国では、当局のお達しにより、ハードコアポルノを鑑賞することは許されていない。今や、世界中のどの家庭にも日本製ビデオプレーヤーは行き渡り、我国ではアダルトビデオなるポルノ紛いの代物が街のビデオショップで気楽に借りられる。しかも、最近では、それぞれナンバーカードがついていて、恥ずかしい表紙の附いたテープを、他の客に見られないように、カウンターまで運ばなくても、ごく秘密裏に借りられるようになっていると、聞く。一方、完全な静止画像であるヌード写真集も売れに売れ、高価な装丁の立派なものが売れていると聞く。何故、動画が、静止画像を駆逐しなかったのか。第一には画像のレゾリューションの差が上げられる。それだけであろうか。大脳は莫大な記憶容量を持つコンピューターに例えられるが、それでも限界が存在する。動画が、目の前に映し出された場合、大脳の処理能力は動きの情報処理に多くのエネルギーを消費する。能動的マッチングの作業はごく飛び飛びの荒い作業過程にならざるを得ない。あるいは、その、エネルギーを消耗した演算結果で得られるものは、虚しい疑似体験でしかない。一方、静止画像であるピンナップからの情報は、網膜からの情報量としては、限られたものであるにも拘らず、必要かつ充分な大脳の活動を呼び起こすことができる。妄想の世界である。

※このコンテンツは、当科顧問橘滋國先生の著書である「体の反射のふしぎ学ー足がもつれないのはなぜ?」(講談社 ブルーバックス 1994年)を元に改変・編集したものです。

このサイトの監修者

亀田総合病院
脊椎脊髄外科部長 久保田 基夫

【専門分野】
脊椎脊髄疾患、末梢神経疾患の外科治療