兎は夜行性1

 私自身は、小さいときに、ウサギを一度だけ飼ったことがある。人が飼育しているウサギは昼間活動している。しかし、自然の状態ではウサギは夜行性であると言う。ある条件が整うと、かれらも日中に活動するらしい。ウサギが自然の状態で、日中活動する条件とは、天敵がいないことである。かれらの天敵は、トビ・タカ・ワシと言った猛禽類である。失礼ながら、誰の作品であったか、題名も思い出せないのだが、小説の中で、或る男が島に流れ着き、その無人島で復讐に燃える心と体を癒すために食料としてウサギを取る。その島には猛禽類が居なかったので、ウサギが、日中出歩いていた。主人公はこのウサギを捕らえ食料にする。冬が来ると、北から大鷲が渡ってきて、ウサギが夜行性になる。食料を捕らえることができなくなった主人公はこの島を脱出する。

 先日、ある学校で飼っていたウサギとニワトリが大量に虐殺されたという痛ましい事件が報道された。しばらくたって、後日談が報道された。その真偽のほどは定かではないが、犯人は狸であったと。逮捕された狸は、きつくお灸をすえられて、山に放されたと。狸にすえるお灸はどんなものか良く解らないが・・・狸は犬科であるから、より弱いウサギを攻撃しても不思議ではないが、狸がウサギの天敵とはあまり聞かない。狸自身が敵からを守るために夜行性であることは、自分を弱く見せるための、狸流の騙しのテクニックか。

 特殊な物として、ネズミや猫のヒゲも暗闇のセンサーとしては重要であるが、一般に、夜行性の生物が必用とするものは、暗くてもよく見える視力と、遠くの敵が歩く音がよく聴こえる聴力である。ひ弱な生き物である我ら哺乳類は五感のうちでも、この、視力と聴力が発達している。敵を倒すためには五感のうち何か一つが秀でていれば、獲物を出し抜くことができる。猛禽類は視力に頼った。その解剖学的構造は正確には知らないが、彼らの眼球にはズーム機構が有るという。上空を旋回しながらでも地上の小さな生き物を、ズームアップして見分ける力が有るという。

 しかし、敵から身を守るためには、五感の内の一つだけが優れているよりも、平均的に発達しているものの方が、敵の襲来から身を守る為には有利である。生命の進化は言わば生き残りゲームであり、膨大な弱肉強食の食物連鎖の中で、より旨いものをたくさん食べることより、より強いものから我身をいかに守り、生き残るかの戦いであるように見える。

※このコンテンツは、当科顧問橘滋國先生の著書である「体の反射のふしぎ学ー足がもつれないのはなぜ?」(講談社 ブルーバックス 1994年)を元に改変・編集したものです。

このサイトの監修者

亀田総合病院
脊椎脊髄外科部長 久保田 基夫

【専門分野】
脊椎脊髄疾患、末梢神経疾患の外科治療