ムカデ競争は転ぶのに、なぜムカデは転ばないか1

 筆者の中学・高校の運動会では、「勝手にシヤガレ」なる競技が存在した。これは、号砲一発では直進、二発では逆走するルールで、ゴールには、どちら側から入るか分ら無い。その進行は、ピストルを持った者に任された、随分いいかげんな競技であったと記憶する。さて、ムカデ競争が何時頃から始まったのか、筆者は知らない。しかし、この名前を聞いただけで、どの読者もどんな競技であるか想像できるものと思われ、きわめて、普遍的な競技と言えよう。この競技の醍醐味は、トップを走っていたグループが、ゴール直前に崩れ落ち、大逆転が起こり得ることにある。

 ムカデ競争は転ぶのに、何故本物のムカデは、あんなにも多くの足をつかって、転ばずに走れるのだろうか。その鍵はneuro-neuronal connectionに存在する。

 まず、ムカデの一本の足に注目してみよう。ムカデの足を屈筋群と、伸筋群に分けて考えよう。(この命名法には、何時も悩まされるが・・)ムカデの足をまじまじと眺めたことはあまり無いと思うが、関節は、1.体幹との関節、2.人で言う膝に当る関節、3.人で言う足首に当る関節、4.人で言う指に当る関節で構成されている。我々哺乳類では支持組織である骨が中心にあるのに比べ、彼らの支持組織は、体の最外側にある点で異るが、機能的には、変わらないので、人の筋肉構成で考えたい。進化の過程が全く異なる生物が、きわめて類似した構造を持っていることは驚くばかりである。

 1.については後でふれよう。まず膝の関節である。人では屈曲には、大きく二つの筋肉が作用している。第一に、大腿後面の大腿二頭筋で、第二には、膝関節だけでは無く足関節にも作用するヒラメ筋・腓腹筋である。(これは、二関節筋と呼ばれる。)膝の屈曲は、これら屈筋群で行われるが、屈筋群がうまく作用するためには、伸筋である大腿四頭筋は休んでいなければならない。

 一群の筋肉は、多くの筋線維で構成され、複数の運動神経で支配されている。この神経細胞の群をmotor neuron poolと呼び、これを構成する単一の運動神経は、多数の筋線維を支配し、これは単一運動ユニット(single motor unit)と呼ばれる。脊椎動物では、motor neuron poolは脊髄に存在するが、節足動物では神経節(ganglion)と呼ばれる神経集団として存在する。

※このコンテンツは、当科顧問橘滋國先生の著書である「体の反射のふしぎ学ー足がもつれないのはなぜ?」(講談社 ブルーバックス 1994年)を元に改変・編集したものです。

このサイトの監修者

亀田総合病院
脊椎脊髄外科部長 久保田 基夫

【専門分野】
脊椎脊髄疾患、末梢神経疾患の外科治療