神経の興奮1

 物事には始まりがあり、終りがある。原因があって、結果がある。結果の如何だけに注目しすぎると、大局を失う。

 神経が、どうして興奮するかを科学的に説明するとなると、紙面が足りない。中枢神経を構成する神経細胞は、その形の大小、突起の長さの長短はあるにせよ、機構的には類似している。樹状突起と呼ばれる、数多く枝分かれした突起には、シナプスと呼ばれる小さなボタンが付着している。このシナプスという言葉は、解剖学者が名付けたのではなく、イギリスの高名な生理学者シェリントンの命名によるが、これは、他の神経細胞の樹状突起とは反対側の突起である軸索の先端で、この神経細胞を興奮させたり、抑制したりする信号を伝達する。今日では神経細胞のこうした構造は、当り前の知識として容易に受け入れられるが、正確な構造が認められるまでには、光学顕微鏡では不足で、電子顕微鏡の出現までずいぶんと長い科学者の論争の歴史があった。

 神経細胞に細いガラスの管を差し込んで、その活動を観察する実験がある。有る種の神経細胞は、リズミカルな自己発射をしていることが観察できる。しかし、一般に神経細胞は、それ自身で興奮することはできない。全て、シナプスから伝達された信号の総和として、興奮するか否かを決定している。また前述の自己発射をしている細胞も、他からの情報で発射リズムを変化させる。すなわち、神経細胞は、その神経細胞自身の考えで発火・あるいは自己発火しているものでもその発火リズムを変化させることはできない。こう考えると、「地下鉄が、どこから地下に潜ったのか、考えると夜も眠れない」のである。

 火種はどこか。神経細胞の興奮の始まりはどこか。何か見落としては居ないか。

 単細胞アメーバーが原形質膜を動かし、運動するのはなぜか。多くのものは、化学遊走性と呼ばれる、餌の臭いに引き付けられて運動する。

※このコンテンツは、当科顧問橘滋國先生の著書である「体の反射のふしぎ学ー足がもつれないのはなぜ?」(講談社 ブルーバックス 1994年)を元に改変・編集したものです。

このサイトの監修者

亀田総合病院
脊椎脊髄外科部長 久保田 基夫

【専門分野】
脊椎脊髄疾患、末梢神経疾患の外科治療