神経の興奮2

 神経細胞が必要となった原点は、餌の獲得である。餌の臭いに向けて、いかに効率よく近付けるかが、神経細胞興奮の最終目的である。すなわち、感覚入力が神経細胞興奮の原点である。

 視神経・嗅神経を除き、感覚神経の神経細胞は、脳や脊髄の中にはない。全て、神経節と呼ばれる神経細胞が集団を形成し、これは、脳や脊髄の外にある。その神経突起は、中枢神経とは異なり、T字型の突起の一端を末梢に、もう一端を中枢神経の中に伸ばしている。視神経と、嗅神経だけは、神経細胞は、中枢神経の突起が伸びたものである。しかし、末梢側には、視神経や嗅神経ですら、感覚受容器という、外界からの刺激で、それ自身が興奮し信号を発する装置を持っている。感覚受容器を発火させ得る刺激は、その感覚受容器の種類によって、臭いや味のように化学物質であったり、光であったり、圧力であったり、振動であったり、機械的な引き延ばしであったりする。この外界からの刺激が、感覚神経の線維を伝わり、もう一方の突起の終着駅、中枢神経細胞の興奮を励起する。すなわち、中枢神経は全体として、入力情報の処理器官であり、出力応答の決定を行っている。

 この外界からの刺激こそが、我々の脳細胞を興奮させる根源である。指を動かす職業の人はボケないと言われる。指の運動の司令を出す、脳の部分である運動野の領域は広く、この説はもっともらしく聴こえる。しかし、重要なのは、出力ではなく、入力にあると著者は考える。我々を取り巻く生活環境には、余りにも多くの入力情報となるべき刺激が、溢れている。いつのまにか、これらの入力情報を無意識のうちに取捨選択し、「知っていながら、知らない素振り、これをヤクザの恋と言う」式の生活をしてはいないだろか。

 老人が、入院生活をすると、ほんの数週間ですっかりボケてしまうことがある。外界の刺激から隔離されてしまうからであろう。我々の大学病院では、二十年前の開院当初は、老人の患者さんも、ボケなかったように思うのだが。最近は、老人の数が増えたのも事実であるが、一番大きな違いは、ナースのミニスカートがまぶしかった。あの頃は。

※このコンテンツは、当科顧問橘滋國先生の著書である「体の反射のふしぎ学ー足がもつれないのはなぜ?」(講談社 ブルーバックス 1994年)を元に改変・編集したものです。

このサイトの監修者

亀田総合病院
脊椎脊髄外科部長 久保田 基夫

【専門分野】
脊椎脊髄疾患、末梢神経疾患の外科治療