マクロライド耐性マイコプラズマを考慮すべき場面とは? 〜成人を主体に〜

本邦で、2011年〜2012年にかけて、マイコプラズマ肺炎の流行期がありました。

現在、成人のマイコプラズマ肺炎は、かつての流行期に比べると減少しましたが、特に小児とのシックコンタクトがある市中肺炎で時に遭遇します。

近年、マクロライド耐性マイコプラズマが小児で増加していることもあり、成人でもマクロライド耐性マイコプラズマを肺炎の起炎菌として考慮すべき場合があります。

今回、マクロライド耐性マイコプラズマに関してまとめました。

はじめに

本邦でのマクロライド系抗菌薬の使用量の増加に伴い、マクロライド耐性マイコプラズマは、2000年以降に小児を中心に、日本各地で分離されるようになった。
(BMC Infect Dis 2012:12:126)

マクロライド耐性マイコプラズマは、初期は日本で報告されたが、その後、欧米諸国でも耐性マイコプラズマの出現が報告された。
(J Antimicrob Chemother. 2009;64:52.)
(J Clin Microbiol. 2015;53:124.)

マクロライド耐性マイコプラズマのメカニズム

マイコプラズマのマクロライド耐性機序は、リボソーム50Sサブユニット中の23S rRNA配列の点変異によると考えられている。耐性菌では23S rRNAドメインVの2063番目または2064番目のアデニンの変異、2617番目のシトシンの点変異が見つかっている。
(臨床と微生物 2013;40:253-258)

塩基置換が生じると、マクロライドはドメインVへの親和性が下がり、蛋白合成を阻害できなくなり、マクロライドに耐性となる。
(Antimicrob Agents Chemother. 1995 Dec; 39: 2770-2773.)

マクロライド耐性マイコプラズマの疫学

本邦において、2008年〜2012年の調査では、小児科領域の約80%に及んでいる。
(Antimicrob Agents Chemother. 2013 Aug;57:4046-9.)

国内の多施設共同研究によると、成人(20歳以上)においても、2008年から2011年にかけて、マイコプラズマのマクロライド耐性率が約10%から、約35%と年々増加してきている。
(BMC Infect Dis 2012:12:126)

マクロライド耐性マイコプラズマ出現の原因

本邦でのマクロライド系抗菌薬の使用量が増加した2000年以降に耐性マイコプラズマは報告されてきた。
(Microbiol Immunol 2001; 45: 617)

マクロライドを添加したin vivoの培地でマイコプラズマを培養したところ、一部に耐性マイコプラズマが誘導されたと報告されている。
(日マイコプラズマ会誌 2009; 36: 58-61)

近年、マクロライド耐性マイコプラズマが増加した原因として、マクロライド系抗菌薬の使用増加が一因の可能性がある。安易なマクロライド系抗菌薬の使用は慎むべきである。

成人における耐性マイコプラズマの臨床的特徴

宮下らによる成人におけるマクロライド耐性マイコプラズマ肺炎に関する検討では、背景因子や臨床所見、重症度にマクロライド耐性株と感受性株で差は認めなかった。また、マクロライド耐性株では、48時間以内に解熱を得られた患者の割合が、マクロライド系28%、キノロン系77%、MINO85%であり、キノロン系とMINOがより有効であった。
(Antimicrob Agents Chemother. 2013;57:5181-5.)

マクロライド耐性株であっても、マクロライドによる治療では、有熱期間や咳などの臨床症状が長引くものの、最終的には治癒すると考えられている。
(分子呼吸器病 2014;18:76-78)

テトラサイクリン系、キノロン系薬剤は、マクロライド耐性マイコプラズマにおいても有効である。

耐性マイコプラズマを考慮した上での成人マイコプラズマ肺炎の治療法

基本的にマイコプラズマ肺炎の臨床像から、耐性株か感受性株かどうかを判断する事はできない。

また、耐性マイコプラズマであっても、マクロライド系薬剤で基本的には治癒が得られる事もあり、マイコプラズマ肺炎に対する第一選択は、AZMと考えられる。

しかし、AZM投与開始後も発熱が3日以上持続する場合は、耐性株の可能性を考慮し、MINOもしくはキノロン系薬剤への変更を検討すべきである。

また、重症のマイコプラズマ肺炎においては、初期治療の段階で、MINOもしくはキノロン系薬剤の選択も考慮して良いと思われる。

最後に、マイコプラズマ肺炎では、宿主の免疫反応が重症化の要因になっていると考えられており、ステロイドの有効性も動物実験やケースシリーズで確認されている。本邦の実臨床では、重症例においては、状況に応じて抗菌薬に加えステロイドの併用も行われている。
(Journal of Medical Microbiology 2007;56:1625-1629)
(J Infect Dis. 2008 Oct 15;198(8):1180-8.)


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参考文献

宮下修行 マイコプラズマ感染症〜耐性化の現状と今後の展望〜 分子呼吸器病 2014;18:76-78

このサイトの監修者

亀田総合病院
呼吸器内科部長 中島 啓

【専門分野】
呼吸器疾患