肺動静脈奇形(pulmonary arteriovenous malformations: PAVM)

肺動静脈奇形は、胸部異常陰影で呼吸器内科に紹介されてくることの多い呼吸器疾患です。
大きなシャントを認める場合は、低酸素血症を呈し、酸素投与を行っても酸素化の改善が乏しいというシャント疾患の特徴を示します。
最近経験しましたので、最新情報をまとめました。

概念

・肺動静脈奇形(pulmonary arteriovenous malformations)は、肺動脈と肺静脈が異常吻合をきたす病態である。肺動静脈瘻とも呼ばれる。

・先天性のものは胎児期の血管発生の異常により、多くは常染色体優性の遺伝形式を呈するOsler-Weber-Rendu症候群であり、日本における肺動静脈奇形の約15%を占める。
(巽浩一郎. 肺動静脈瘻.呼吸 2008;27:169-172)

臨床像

・無症状のことが多く、健康診断の胸部X線上の異常陰影として発見される場合が多い。発見は10歳代が多いが、20-60歳代でも発見される。

・シャントが大きい場合には、静脈血が酸素化されないため、低酸素血症、チアノーゼ、労作時呼吸困難を呈する。また、シャントが大きい部位では連続性の血管雑音を聴取する。他の症状としては、破裂による喀血、血胸などがある。
(青島正大 編. 亀田流驚くほどよくわかる呼吸器診療マニュアル 羊土社2015年4月 東京)

・AVMの存在により、血栓、塞栓が肺を通過して脳動脈に飛んで脳梗塞を起こす危険がある。

・Osler-Weber-Rendu病は、肺外症状として、消化管出血、鼻出血、皮膚や粘膜の毛細血管拡張、中枢神経症状などをしばしば認める。

*Osler-Weber-Rendu病の診断基準

A症状
1 鼻出血:自然かつ反復性に出現。
2 末梢血管拡張症:鼻腔、眼瞼、口唇、口腔、手指などに出現する拡張性小血管病変

B 検査所見
1 内臓病変:胃腸末梢血管拡張、肺、脳、肝、脊髄の動静脈奇形
2 家族歴(遺伝性):Osler-Weber-Renduと診断されている1親等の血縁者(兄弟、姉妹は1親等の血縁者に含まれる。)。

C 鑑別診断
以下の疾患を鑑別する。
 単純性肺動静脈奇形など、遺伝性でない各臓器における単純性動静脈奇形

D遺伝学的検査
ENG(Endoglin)、ACVRL1(ALK1)、SMAD4遺伝子の変異

分類

・流入動静脈がそれぞれ1本であるsimple typeと、2本以上の流入動脈があるcomplex typeに分類される。

・約1/3が多発性である。多発性は、Rendu-Osler-Weber症候群に合併する頻度が高く、多臓器における肺動静脈奇形の検索が必要である。
(笠原靖紀ら 肺動静脈瘻,Rendu-Osler-Weber症候群 呼吸器症候群第2版 日本臨牀社 2008年 大阪)

診断

・まず疑うことが重要。疑うヒントは、「胸部画像検査で肺門と線状影でつながる腫瘤状陰影」、「若年で中枢神経症状」、「家族歴」。「鼻出血や消化管出血の反復」。
(青島正大 編. 亀田流驚くほどよくわかる呼吸器診療マニュアル 羊土社2015年4月 東京)

・血液検査では多血症を認めることが多い。

・症状、身体所見と、胸部X線、胸部造影CTで、ほとんどの症例で診断は確定する。

・円形から楕円形の境界明瞭で均一な結節ないし腫瘤状陰影で、時に分葉傾向を示す。肺の内側1/3に存在することが多く、大きさは1cm未満から数cmである。腫瘤状陰影が、線状影で肺門と結ばれ、輸入動脈と輸出静脈を認める。
(青島正大 編. 亀田流驚くほどよくわかる呼吸器診療マニュアル 羊土社2015年4月 東京)

・造影CTの三次元再構築画像により輸出入血管のより詳細な把握が可能。

図 左肺S10に1本の流入動脈と流出動脈からなるsimple typeの肺動静脈奇形を認める。

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治療

・2004年からの複数の研究において脳卒中や膿瘍などの中枢神経合併症の発生率が9-41%と報告されている。診断から6年間の無治療での追跡で死亡率は11%と報告されている。よって、積極的治療を考慮するべきである。
(J Vasc Interv Radiol. 2006;17:35.)
治療適応を表に記す。
表 治療適応
臨床症状を有する症例(低酸素血症、心不全、中枢神経症状)
流入動脈の径が2-3mm以上の病変

*流入動脈の径が2mm未満で無症状であれば、数年後毎にCTでフォローする。

・治療としては、経カテーテル塞栓術(金属コイル)が主体であり、低侵襲性で成功率も高い、98%の効果が報告されており、低酸素血症や息切れの改善がみられる。長期的には再開通は、1-10%程度と報告されている。
(J Vasc Interv Radiol. 2006;17:35.)
(青島正大 編. 亀田流驚くほどよくわかる呼吸器診療マニュアル 羊土社2015年4月 東京)

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参考文献

  1. 青島正大 編. 亀田流驚くほどよくわかる呼吸器診療マニュアル 羊土社2015年4月 東京
  2. 笠原靖紀ら 肺動静脈瘻,Rendu-Osler-Weber症候群 呼吸器症候群第2版 日本臨牀社 2008年 大阪
  3. James R Gossage, MD. Therapeutic approach to adult patients with puomonary arteriovenous malformations. Up To Data. last updated Jun 2017.
  4. 巽浩一郎. 肺動静脈瘻.呼吸 2008;27:169-172

このサイトの監修者

亀田総合病院
呼吸器内科部長 中島 啓

【専門分野】
呼吸器疾患