メトトレキサート(Methotrexate : MTX)による肺障害
(2014年12月4日更新 亀田総合病院 呼吸器内科)
関節リウマチの患者は、間質性肺炎を合併することがありますが、メトトレキサート(Methotrexate: MTX)使用中に急性の間質性肺炎を認めた場合に、MTX肺炎を鑑別に挙げる必要があります。
概念
・メトトレキサート(MTX)は、全世界の関節リウマチ患者の過半数が内服しているRA治療のアンカードラッグである。・我が国の調査では、発症は75%が服用開始半年以内であるが、数年から十数年を経ての発症も時々見られる。用量には依存しない。
(日本呼吸器学会 薬剤性肺障害の診断・治療の手引き2013)
・リスク因子は、60歳以上、胸膜病変、低アルブミン血症、糖尿病、既存の肺病変と報告されている。
(Ann Intern Med 1997:127:356-64)(J Rheumatol. 1995;22:1043)・発症機序は主に過敏反応と考えられているが、再投与で再発しない例も報告され、詳細は不明である。
* 本稿では割愛するが、MTX中にリンパ増殖性疾患(non-Hodgkinリンパ腫など)の発症頻度が上昇すると報告されており、MTX関連増殖性疾患(methotrexate-associated lymphoproliferative disorder ; MTX-LPD) と言われている。
症状としては、発熱やリンパ節腫脹を認め、肺病変の合併も多い。MTXの中止のみで改善する症例もある。
臨床像
・急性、亜急性、慢性いずれの発症形式も取るが、亜急性の経過が最も多い。
(Arthritis Rheum. 1997;40:1829)
・乾性咳嗽、労作時息切れ、発熱、倦怠感などが見られる。
・末梢血白血球増多や血清CRP値の増加がみられ、血清LDHやKL-6、SP-Dも上昇する。
(日本呼吸器学会 薬剤性肺障害の診断・治療の手引き2013)
・亜急性発症のものは、50%に末梢血好酸球上昇を認め、この所見はMTX肺炎の診断を強く支持する。
(Arch Intern Med. 1985;145:2035)画像・病理所見
・HRCTでは広範なすりガラス様陰影が典型的であり、しばしば汎小葉性のモザイクパターンを示す。
(Arch Intern Med. 1985;145:2035)
・気管支肺胞洗浄液はCD8優位のリンパ球増多がみられ、病理組織像もリンパ球や好酸球の浸潤、肉芽腫形成など過敏反応を示唆する所見の他、死亡例では、DADの所見をしばしば呈する。
(Ann Rheum Dis. 1994 Jul;53:434-9)診断
広く受け入れられた診断基準はないが、up to dateにも引用されている診断基準を示す。
・RA 患者におけるMTX肺炎の診断基準(Arthritis Rheum. 1997;40(10):1829.)
Major criteria
・過敏性肺炎の病理所見(原因病原体を認めないもの)
・画像検査におけるびまん性すりガラス陰影、浸潤影
・血液培養と初回の喀痰培養において病原体が陰性
Minor criteria
・8週間以内の息切れ
・乾性咳嗽
・SpO2<90%
・DLCO<70%
・白血球<15000
●確定診断 「(Major criteriaの1)もしくは(2+3)」かつ「Minor criteria 3個」
●疑診 「Major criteriaの2+3」かつ「Minor criteria 2個」
鑑別診断
・ニューモシスチス肺炎
・サイトメガロウイルス肺炎
・細菌性肺炎、非定型肺炎
・原疾患(関節リウマチ)関連の間質性肺炎急性増悪
治療
・薬剤の中止のみで、症状や胸部X線所見の改善が得られる場合も多い。
・低酸素血症を伴うような中等症以上のMTX肺炎においてはステロイド治療を行うのが望ましい。
・ステロイドの投与量
1:prednisolone(プレドニン)30mg/日以上あるいはステロイドパルス療法
(薬剤性肺障害の診断・治療の手引き 日本呼吸器学会)
2:PSL 1mg/kg内服、重症例ではmPSL 1mg/kg 1日1-2回注射
(Methotrexate-induced lung injury: up to date; update Feb 12, 2014.)
このサイトの監修者
亀田総合病院
呼吸器内科部長 中島 啓
【専門分野】
呼吸器疾患