【活動報告】フェニックスAAHPM通信 その5

TH317 The Bridge Between Life and Death: Attempted Suicide at the End of Life
致死的疾患の終末期における自殺(自死)についてのセッションでした。

【まとめ】

  • 致死的疾患終末期患者の自殺のリスクファクターには、病気特有のものと進行する病気に共通するものがある
  • 自殺企図後の医療的意志決定に際して患者の自律原則と善行・無危害原則のバランスをとる必要がある
  • 自殺企図後の患者を急性期で診るとき、生命維持の開始と中止をはじめとした複雑な意志決定が必要である
  • 自殺企図後の患者・家族ケアには様々なストレス源が関連するので多職種チームアプローチが必要である

【内容】

アメリカでは85歳以上の自殺率が他の年齢層に比べて一番高い

一般的な自殺と致死的疾患の終末期における自殺の違い
 予後
  一般的な自殺:自殺しなければ一般的な寿命を全うする
  終末期の自殺:自殺しなくても予後は週〜月の単位
 精神科的病歴
  一般的な自殺:90%以上が精神疾患を発症している
  終末期の自殺:精神疾患はあまり関係ない
 合理性
  一般的な自殺:精神症状があることが多く、合理的でない
  終末期の自殺:合理的なこともある
 動機
  一般的な自殺:可逆的
  終末期の自殺:不可逆 身体機能低下、自律の喪失、近づく死

Physician Aid in Dying
 合法:ワシントン、オレゴン、バーモント、カリフォルニア、コロラド
 議論中:モンタナ

時代や文化による自殺の扱い
 ユダヤ教
  死は人間が決定するものではない
  生命の神聖性
  殉教は容認される
 ギリシャ・ローマ
  エリートの間では広く自殺が行われていた
  哲学者の宗教的・経済的・政治的理由による抗議
  中世キリスト教
  自殺は自然律・道徳律・神聖律の侵害である
 17世紀以降
  いかなる場合にも自殺は誤りなのか、という疑問
  自由意志と自律という考え方の出現
  いまだ認められておらず、非難の対象
 我々の自殺観はユダヤ教・キリスト教に大きな影響を受けている

自殺の文化的側面
 社会的な統合や規範が弱くなると自殺が増加するとみられる
 QOLは社会的・文化的に決定される

医療倫理の四原則における対立:自律vs善行・無危害

終末期の自殺
 共通するリスクファクター
  他者の重荷となっている感覚
  失望
  コントロールの喪失
  自立の喪失
  自律の喪失
  身体機能の低下

自殺リスクの高い疾患:がん、Huntington舞踏病、認知症
 がん患者の自殺
  一般的な自殺の2倍のリスク
  診断(告知)後、転移判明後、治療終了時に多い
  痛みやつらさから解放されるため
  リスクが高いのは・・・
   進行がん
   乳がんの告知後
   膵癌のうつ病併発
   症状コントロール不良
 Huntington舞踏病患者の自殺
  リスクは2-8倍
  遺伝性で、症状が出る前に診断されることがある
  初期〜中期に多い
  自殺につながりやすい症状
   進行性の舞踏症状
   不眠
   落ち着きのなさ
   嚥下困難に伴う体重減少
   エネルギー低下
   集中力低下
   記憶力低下
 認知症患者の自殺
  告知が広まるにつれ、告知後3ヵ月間のリスクが上昇
  自殺につながりやすい症状
   認知機能低下への恐怖
    自尊心・コントロール・社会的地位・役割・機能の喪失
   不名誉さ
   重荷になるという感覚
   活動ができなくなる
   家族・友人を認識できなくなる

自殺後の急性期における課題
 DNR/POLSTはどう扱うか
 どこまで治療するか
 回復した場合、しなかった場合、それぞれ何を考慮するか

DNR/POLSTについて
 尊重すべき立場の意見の例
  意志に反して蘇生されると患者の自律が失われる
  終末期患者への蘇生は合併症・失敗率の観点から推奨されない
  終末期患者では自殺は合理的である場合がある
 無視すべき立場の意見の例
  救急隊や救急医には自殺企図の理由がわかりにくい
  DNR/POLSTは病気の自然経過についてで、自殺は含まない
  自殺は非合理的であり治療が必要

「合理的な自殺」の条件
 患者が臨床状況を現実的に把握している
  死ぬことと終末期患者として過ごすことの比較ができる
  自分の病気についてちゃんとわかっている
 精神症状がなく、意志決定がしっかりできる
 合理性基準を満たす
  患者の属するコミュニティメンバーの多くが動機を理解できる

救急隊は実際どうすべきか
 DNR/POLSTがあるかどうかまずチェック
  施設基準にも注意
 直ちに蘇生が必要な場合
  心肺蘇生術:DNR/POLSTまたは施設基準に従って判断
  全ての生命維持を目的とする治療を行う
 直ちに蘇生が必要でない場合
  誰が緊急通報したか特定し、その理由を聞く
  治療のため病院へ搬送

救急外来ではどうすべきか
 急性期治療
  救急外来では暗黙の同意implied consentを優先する
  生命維持治療のリスクとベネフィットを勘案する
  状況把握のために時間が必要ならばその間は生命維持を行う
 コンサルト:緩和ケア、精神科、倫理

救急における意志決定の倫理的モデル
 「生命の危機があれば侵襲的治療を速やかに行う」
 「蘇生を望まない患者ではその希望や選択を確認し尊重する」
 「患者の希望や指示の正当性が疑わしければ蘇生を開始する」

自殺企図後の対応(患者がそのまま亡くなりそうなとき)
 代理意志決定者と治療のゴールや価値観を相談
  アドバンスケアに関する書類があればチェック
  書類がない→DPAHC作成
   事前指示書や代理意志決定者の意見を参考に
   DPAHC: Durable Power of Attorney for Health Care
  患者の(原病の)主治医に相談、予後を勘案して意志決定支援
  患者自身のQOL指標を踏まえて生命維持の意志決定支援
 治療中止に関する意志決定支援
  治療中止を是とする意見の例
   生命維持中止の倫理性は自殺企図と分けて考えるべき
   生命維持のための治療が患者・家族に苦しみを与える
   治療を続けて後で中止しても死なずにただ衰弱状態になる
   本人の意志を尊重しないと代理意志決定者に負担がかかる
  治療中止を非とする意見の例
   医師が自殺企図の原因や理由を明らかにできない
   原因や理由が明らかになるまで利益になる治療を継続する
  治療中止考慮に関する倫理的コメント
   「自殺でなかったら、生命維持の停止は合理的だろうか」
  自殺企図後の生命維持中止が受け入れられる条件
   代理意志決定者が希望している
   全身状態が(良かれ悪しかれ)安定している
     ※通常は72時間後
 ストレス源の特定:患者・家族・医療者
  患者のストレス
   身体的ストレスがメイン
   精神的・社会的・スピリチュアルストレスは認識できない
  家族のストレス
   罪の意識・悲しみ・怒りの混ざった感情
   これからについての失望と恐れ
   意志決定のストレス
   ※我々はこれらを(ゼロにするのではなく)緩和する
  医療者のストレス
    チームアプローチが重要
    すばらしい医療を行っても自殺する人は必ず出るもの

自殺企図後の対応(患者が回復してきているとき)
 治療のゴールや価値観を相談
  患者および代理意志決定者と
  なぜ自殺に至ったのかに焦点を当てて話を聞く
 今後に関する意志決定支援
  ホスピスへの紹介を考慮する
  その他のケア環境を模索する
 ストレス源の特定:患者・家族・医療者
  患者のストレス
   身体的:痛み・嘔気嘔吐・疲労・全身状態低下
   精神的:うつ・不安・失敗と後悔・怒り・失望
   社会的:寂しい・孤独・社会的サポートの欠如・家族の非難
   spiritual:実存的ストレス・意味/目的・なぜ私が?・後悔
  家族のストレス
   患者が衰弱し、介護がより大変になる
   経済的な問題
   家族内での関係性の変化
  医療者のストレス
   患者・家族の苦しみを目の当たりにする
   必要ない治療を開始したかもしれないという罪の意識
   我々の手に負えない結果もあることを学ぶ

このサイトの監修者

亀田総合病院
疼痛・緩和ケア科部長 関根 龍一

【専門分野】
病状の進行した(末期に限らない)癌や癌以外のあらゆる疾患による難しい痛みのコントロール、それ以外の症状の緩和