vol.42 人工呼吸器治療について

Dr. Tenoらの研究(米国)(JAMA Internal Medicine 2016/10/10に掲載)からの紹介です。

進行期認知症患者が入院時にICUで人工呼吸器治療を受けた割合は、2000年1月から2013年12月までの14年間で1000回の入院あたり39件から78件と2倍に増加していた。しかし、この人工呼吸器治療の増加は生存期間延長には結びついていなかったという結果です。

本研究は、米国のメディケア加入者約38万人の後ろ向きコホート調査によって実施されました。進行期の認知症患者がどのような医療を受け、どのようなアウトカムが得られたか、いわゆるビックデータから有用なデータが得られること示した研究です。認知症が進行する前に、どのような医療を将来受けたいか、医療者と患者(家族)の対話の積み重ねによって事前指示(書)を作成し、カルテ保管しておくことが、自分が望まない延命治療を受けないようにする一つの方策となります。残念なことに、日本では事前指示書は普及していませんし、終末期における話し合いはまだまだ十分行われているとはいえません。

もっとも、米国と異なり、日本では、医療者と家族間で、あうんの呼吸によって、患者自身が苦しまないような治療を場の空気で選択していくような側面があり、そういった双方の常識や良識に頼って日本の医療がこれまでなんとか成りたってきたように思います。それでも、実際には、多くの家族が、患者本人の、最期は苦しみたくないという意向があった場合でも、その本人の意思より周りの目を気にするなどの理由から、できる限りの治療をお願いします、と医療者に訴え、実は、誰にとっても望ましくない延命治療がベルトコンベアーに乗ったように漫然と行われている状況もいまだに根強く残っています。

医療者側も治療の限界について説明をする煩わしさや、すべてやってほしいという家族に押されて、患者にとって苦しい延命治療を行いがちではないでしょうか。もちろん、認知症といっても進行期ではなく、回復した場合の人生の目標をもっているなど、主体的に生き、良い人生を全うしたいと願っている場合などは、ICUにおける人工呼吸器治療を受けて回復のチャンスに駆けることは誰にとっても反論の余地はありません。日本では、進行期認知症の患者に人工呼吸器治療はどの程度実施されているのでしょうか?現状把握のためのデータがまず必要です。今後の研究が待たれるところです。

(関根)

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このサイトの監修者

亀田総合病院
疼痛・緩和ケア科部長 関根 龍一

【専門分野】
病状の進行した(末期に限らない)癌や癌以外のあらゆる疾患による難しい痛みのコントロール、それ以外の症状の緩和