vol.57 『MSWによる外来緩和ケア介入は末期心不全患者の治療ゴールの最適化に有効!』

昨今、心不全患者への緩和ケア介入が注目されています。昨年9月の米国心不全学会から『SWAP-HF研究』を紹介します。これは、外来でフォロー中の末期心不全患者(過去12ヶ月以内に、心不全症状の悪化で入院歴を有する患者が主な対象)に医師の指導の下にソーシャルワーカー(MSW)が治療ゴールに関する話合いに介入した研究です。

主要アウトカムは、介入開始6ヶ月後の、患者が希望する終末期の治療方針(事前指示)が診療録や書式に記載されている割合と、医師と患者間の予測予後の一致の程度に設定。副次アウトカムは、抑うつ、不安、QOLのスコアや医療サービスの利用状況としました。

ここでの緩和ケアプログラムは緩和ケア医とソーシャルワーカーから成り、介入群では緩和ケア医の指導の下、MSWが患者と面談し、決められたフォーマットに沿って、予後の理解、延命治療の希望の有無、苦痛症状、QOLについて定期的に確認し評価しました。その得られた情報は治療医にフィードバックされ継続外来でフォローされアウトカムが測定されました。

介入開始時点の医師の予後予測は、12ヶ月以内に患者が死亡したら驚くか?とのサプライズクエスチョンで、驚かないと医師が回答した割合は対象患者全体の64%でした。一方、患者自身の予後予測は、5年以上生きられると回答した割合が54%、10年以上と回答した割合は28%と、両者には大きな乖離がみられました。

介入開始後6ヶ月時点で、介入群では、事前指示に関するカルテ記載率が65%(対照群:33%)、MOLST(medical orders for life-sustaining treatment)記載割合も58%(対照群:20%)といずれも介入群で、治療方針に関する記載割合が高率でした。もう一つの主要アウトカムである医師と患者の予測予後の一致率は介入群が94%と対照群の26%を大幅に上回り(P<.001)、MSWの介入によって予後への理解が有意に深まっていたことが分かりました。なお、抑鬱、不安、QOL、スピリチュアリティーの項目は、介入群、対照群に有意差は認められませんでした。

まとめ:この研究によって、トレーニングを受けたソーシャルワーカーによって、入院の場のみならず外来の場で末期心不全患者を対象に継続的に治療方針についての話合いを促進する介入が行われれば、治療方針が最適化され、結果的に、患者のQOLが向上する可能性が示唆されました。また、この介入方式は、費用対効果比の観点から、大規模にも実施可能な心不全患者への緩和ケア介入モデルとして注目されます。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
疼痛・緩和ケア科部長 関根 龍一

【専門分野】
病状の進行した(末期に限らない)癌や癌以外のあらゆる疾患による難しい痛みのコントロール、それ以外の症状の緩和