第9話 危険因子と予防(ビタミン・生活習慣・サプリメント)

column2_9.jpg カルシウムと並んで重要な要素はビタミンDです。ビタミンDは骨形成を促進するとともに、消化管からのカルシウムの吸収を助け、腎でのカルシウム排泄を抑制します。ビタミンDは紫外線の働きにより、皮膚でコレステロールから合成されます。家の中で筋トレも悪くありませんが、できれば戸外に出て散歩やジョギングをしてください。筋力が付く上に、ビタミンDも合成される、まさに一石二鳥です。1日日陰で30分くらいが目安です。ビタミンDを含む食品はあまり多くありません。そんな中で魚介類(サンマ、サケ、サバなど)や干したキノコ(干しシイタケ、きくらげなど)はおすすめです。
 ビタミンKは骨質の維持に重要な役割を果たしています。ビタミンKを多く含む食品としては納豆が有名です。納豆1パックで1日のビタミンKの必要量をほぼ満たしています。納豆を毎日食べる人は、骨折リスクが44%も減少するという報告もあります。その他小松菜などの緑色野菜にもビタミンKが含まれています。
 その他に骨の代謝に必要なビタミンとして、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸(ホモシステインの代謝に関係)、ビタミンC(コラーゲンの合成に必要)などがあります。
 ここまでざっと見ただけでも、骨粗鬆症対策はサプリメントで簡単にというわけにはいきそうもありませんね。まずはバランスの良い食事を心がけてください。

 食事以外の生活習慣について簡単に説明します。がんや生活習慣病予防とも関連していますが、骨粗鬆症に対しても「喫煙」は大敵です。ニコチンは骨形成を抑制し、消化管からの骨吸収を低下させます。アルコールやカフェイン(コーヒー、紅茶)は適量であれば問題ありませんが、大量に摂取すると骨折リスクが上昇するといわれています。生活習慣病予防とも関連しますが、アルコールは1日1合程度、コーヒー・紅茶は1日数杯までとしてください。逆に緑茶(カテキン)は骨形成を促進すると報告されています。

 最後にサプリメントについて一言。食事のバランスを気にかけたり、毎日散歩に出かけたり、ちょっと億劫(おっくう)という方もいらっしゃるかともいます。できればサプリメントで気軽に、という気持ちもわからないではありません。
 サプリメントのホームページをあたってみると、定番のカルシウムやビタミンDだけではなく、メーカーが独自に開発したノウハウがあることはわかります。ただ残念ながら、サプリメントで骨折を予防できるという積極的なエビデンス(信頼できる証拠)は報告されていません。骨代謝は皆さんが思っているよりはるかに複雑です。一つか二つの成分を補充しただけで、簡単に骨強度が回復するというほど単純ではありません。
 患者さんとお話をしていて一番問題と思うことは、サプリメントの接取そのものではありません。「私は・・・を飲んでいるから大丈夫。」とサプリメントに任せきっている、患者さんの健康に対する意識です。せっかくサプリメントを飲んでいても、テレビを見ながらおせんべいをかじる、天気が良いのに散歩にも行かない、そんな生活では骨の健康は守れません。
 ちなみに、カルシウムは心臓の働きにも重要な役割を果たしています。サプリメントの過量接取により心血管イベント(心筋梗塞など)を誘発する可能性も指摘されています。取りすぎには注意してください。

2022年6月27日

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