第3話 実際に骨折したら、「ホネが折れる」だけではすまないかも

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 まさか、「心筋梗塞くらいで良かった。」「がんだったから助かったよ。」という人はいないでしょう。
心筋梗塞もがんも命に関わる病気です。
 つらい経験は骨身にしみます。苦労すると骨が折れます。時には骨を休めたくなりますね。骨にまつわる慣用句もたくさんありますね。「ホネが折れた」と聞くと、さぞ大変だったんだろうなあと、その様子が伝わってきます。でも命に別状はなさそう。「辛いけど、死ぬ病気じゃない」、骨折はこんな風にとらえられているのかもしれません。
 最初に受診したかかりつけの先生から、鎮痛剤を処方されて、「家で安静にしていてください。」といって返されてしまうのも、案外そんなところが関係するのかもしれません。
 第1回でもお話ししましたように、骨粗鬆症(=骨強度の低下)のみが原因となって不自由が生じることはありません。しかし骨強度が低下すると、転倒などの軽い外傷でも骨が折れてしまいます。これを脆弱性骨折(ぜいじゃくせいこっせつ)と呼んでいます。重症の骨粗鬆症の患者様では、イスに座るなどの日常生活動作でも、骨にひびが入ってしまうことがあります。「いつの間にか骨折」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
 「骨が折れる」と痛みのために活動性が低下し、徐々に生活の質(QOL)が低下してきます。椎体骨骨折では、「重たいものを持つ」「イスに座る」「棚の上に物を載せる」など、骨折前には普通にできていた日常生活動作(ADL)にも困難を感じるようになります。大腿骨骨折の調査では、骨折前には87%の方がADLが自立していたのに対し、骨折後には50%に低下していました。
 高齢による衰弱をのぞけば、脳血管障害、認知症に次いで、要介護の原因の第3位を占めています(国民衛生基礎調査より)。死亡率のリスクも増加させることが知られています。骨粗鬆症の患者さんの追跡調査によると、大腿骨骨折や椎体骨折を来した場合、死亡リスクも6?8倍に増加すると報告されています。脆弱性骨折があると、ADLの低下などによりさらに骨折が起こりやすくなります。これを「骨折の連鎖」「骨折のドミノ」と呼んでいます。そして、骨折の個数が増えるごとに、QOLの低下は顕著になってきます。まさに「ホネがれた」だけではすまなくなってしまいます。
 しかし、骨折治療に加えて適切な骨粗鬆症治療を行うことにより、生命予後が改善したという報告もあります。痛みを我慢しながら、寝たきりの生活は避けたいものですね。がんや心疾患の予防と同じように、骨の健康も気にしてみてください。

2022年5月16日

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