僕たちになにができるか

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健康の社会的決定要因とアドボカシーおよびアクセス

キーワード

SDH/SDOH(Social Determinants of Health)、COPC (Community-oriented primary care)、地域指向性アプローチ、ウインドシールドサーベイ、交通障害、交通弱者


本日のポートフォリオ勉強会は専攻医3年目の高橋慎太郎先生の6回目の発表でした。

当院では、専攻医全員が研修の一環としてCOPC: community-oriented primary careを経験する機会を設けています。専攻医が一定の期間診療業務を離れて地域に足を運び、地域のことを知るという活動です(ウインドシールドサーベイ)。今回は、高橋先生ご自身のCOPCの研修期間の活動をもとにしたポートフォリオの発表でした。

高橋先生は、高齢化率が高く、なおかつ地元の診療所が閉院してしまった地域を訪問し、高齢者の集いに参加して健康教室を開催してきました。参加者の方たちとの交流のなかで交通アクセスの障害についての訴えを聞き、それについて考察しました。

交通アクセスの障害がもたらす医療アクセスの問題と、それを解決するための地域での現状の取り組み、さらにMaaSを有効活用した他の地域の先行事例をまとめてくださいました。医療アクセスの概念や評価の枠組みに基づいて、ミクロ/メゾ/マクロレベルそれぞれでの解決策を提案くださいました。

ディスカッションでは、出張診療の実現の障壁となる種々の制度上の課題も浮き彫りになりましたが、一方でこの地域をSDHという観点から分析したときの最大の課題が本当に交通アクセスなのかという疑問も提起されました。今回お話を伺った高齢者の集いはむしろ地域の強みであり、本当は地域コミュニティに参加せずに真に孤立した高齢者がたくさんいるのではないか、高齢者の集いに参加できなくなったときのセーフティネットは大丈夫かと、実は更に根深い問題がたくさんあろうことが話題になりました。交通アクセスのような聞き取り調査で表面化しやすい問題だけでなく、より根深い真の課題を探るニーズアセスメントの難しさを痛感させられる議論でした。また、交通障害を解消するために都市構造を改変する試みも検討される中、それによって地域コミュニティを破壊してしまうことのリスクについても議論となりました。ミクロ、メゾ、さらにはマクロレベルで医師として私たちができることについて議論が尽きませんでした。

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学