終わりなき旅

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統合的ケア

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統合的ケア 高次脳機能障害 垂直統合 水平統合


専攻医3年目 高島先生のポートフォリオ発表でした。
今後もこの人との関わりはきっとそれなりに複雑で困難で、終わりなき旅が続くであろう、そんな症例でした。

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患者は9年前から心窩部痛・浮動性めまいなどで当院不定期受診されていた77歳女性。
3年前に交通事故による外傷性くも膜下出血で入院し、退院後当院定期通院されていた。
夫は頸髄損傷で寝たきり、当院の在宅患者で、患者はその妻として関わることも多くあった方だった。

2020年9月の台風の後、「外来受診時に言っていることがおかしい」という理由で非常勤医師から高島先生に担当医変更になった。
初回外来でも近時記憶障害、不眠、体重減少を認め、自分の受診なのに「夫の受診で連れてきました」と話すなど不穏な様子があった。
心療内科へ紹介し急性ストレス性障害と診断された。その後の外来でも変わらず取り繕いがあり核心に切り込めない状態が続いた。
一方、夫の訪問診療カルテには「妻が食事をとっていない、眠れていない、心配」「妻はちゃんと診てもらえているんだろうか」と夫が話している記載や、夫の訪問薬剤師を本人が断わっていたことなどが記載されていた。
患者とのコミュニケーションが思うようにいかず、また妻に感じる違和感を言葉で同僚に伝えることができず、もどかしさを感じていた。
そんな中、夫と長男が突然自分の外来を受診、本人がしばらく心療内科を受診していなかったこと、夫に処方された眠剤を本人が内服していたことが発覚した。また外傷性くも膜下出血後からリモコンを間違えたり、電話対応時に相手の電話番号を正確にメモすることが難しくなった等といったエピソードも発覚した。
受傷直後の高次脳機能評価では異常なしとの結果だったが、リハビリ再評価を行い高次脳機能障害と診断され、STリハビリ開始となった。
現在は精神障害者保健福祉手帳の申請に向けて神経内科に紹介・精査中であり、在宅診療医師と訪問薬剤師により夫の眠剤などの残薬を抜本的に整理、本人もメモを活用して抜け落ちが少なくなっており、以前よりも落ち着いて過ごせるようになってきている。今後は精神科ケアマネや訪問看護を導入して更なる安定化を図っていきたいと考えている。

振り返ると、垂直統合として主に専門医へ本人・家族の代弁者、adovocatortとして機能し、水平統合として多職種と情報共有しながら、本人・家族の目標(穏やかに夫婦で暮らしたい)に向けて協働した。

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全体のディスカッションでは以下のような内容が話し合われました。

・「病名がつかないこと」がどう自分の診療に影響するのか?という軸でも書けるのではないか。
Difficult patient encountorという軸でも書けるのではないか。

・この人が難しかった要因の一つに、在宅チームにとっては旦那さんの経過をよく理解し、協力的な「良い介護者」だったという背景があり、患者でありながら夫のケアをするチームの一員でもあるというDural relationshipがあるかもしれない。
それぞれの医師の立ち位置によって患者の見え方が違っていた可能性がある。
高島先生は途中まで在宅チームの一員として皆で診ている感覚と、自分が患者の主治医として一人で診ている感覚を行き来していた。
→「わかってもらえないなあ」というもやもやが溜まり、自分が一番この患者のことをわかっている、と感じた頃から「自分がこの人のadovocatorとして関わりたい」と主治医として腹をくくったように感じる。

岡田院長からは以下のコメントがありました。

  • 統合≒「ケアの調整」
    ケアの調整はプレーヤーの調整とその人が受けるべきケアの調整の大きく2つに分けられる。
  • 多職種連携も統合に引用されやすい。
    医学教育学会誌で春田淳志先生が総説で多職種連携の基盤となる理論を5−6個紹介されており参考になる。
  • 未分化な健康問題が丁寧に解きほぐされている。

以上です。
文責:栗原(専攻医2年目)

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学