プライマリケア医師の研究に対する態度:横断記述研究(2020年第7回RJC)

ジャーナルクラブ 第7回
2020/8/6
高橋亮太

1 タイトル

「プライマリケア医師の研究に対する態度:横断記述研究」
Primary care physicians' attitudes toward research: a cross-sectional descriptive study
Limor Adler, Linoy Gabay, Ilan Yehoshua
Family Practice, Volume 37, Issue 3, June 2020, Pages 306-313, https://doi.org/10.1093/fampra/cmz075
カテゴリー research journal club
キーワード Academic medicine, academic success, community medicine, practice management, primary care, public health

2 背景・目的・仮説

●背景
何十年もの間、プライマリケア医学における臨床研究は、ヘルスケア改善、予防医療プログラムの発展、医療政策の推進、そして、ヘルスケアシステムの合理化に寄与してきた(ref 1-4)
臨床医にとっては、研究に関わることで、専門家としての自信につながり、知的成長を拡大させ、専門領域の発展につながってきた。(ref 3)
米国では、家庭医療における研究キャパシティは、1969年に専門領域として設立されていこう、徐々に発展を続けてきた。
2015年までに、米国における家庭医療分野のPubMed論文発行数の年間成長率は、全ての論文発表数のほぼ2倍にまで増加した。(ref 6)
その大多数、84%の家庭医療分野のリサーチは、非家庭医療分野のジャーナルで発行されていた。
米国における家庭医療研究部門は、ほとんどが大学や研究期間での研究で特徴づけられ、他の専門領域と比較して、研究資金に対する内部資金が大きい。
世界各国において、家庭医療における研究活動が推進されている。
例えば、
英国におけるResearch Excellence Framework(ref 7)
米国における様々な国家の家庭医療研究機関(ref 8)
Council of Academic Family Medicine Educational Research Alliance (9)
カナダにおけるClinician Scholar Program in Canada (10)
オーストラリアにおけるPrimary Health Care Research, Evaluation and Development strategy in Australia (11).
など
研究活動や支援の増加にも関わらず、家庭医療部門における研究キャパシティは他の専門領域と比べてそれほど伸びていない、そして、想定的に資金が乏しい。
イスラエルでは、異なった研修環境を出た医師が、プライマリケア医師(PCP)として働いている。
すなわち、家庭医(family medicine)、内科医(internal medicine)、GP(general practitioners:専門性なし、の3種類に分かれている。
家庭医療分野は1970年代に設立された。この30年間(1975-2004)で、トータルで1165編の論文が発表さ、67%は英文であり、インパクトファクター3以上のジャーナルは6%であった。(ref 12)
イスラエルにおける家庭医療分野の論文アウトプットは、年間1000家庭医あたり平均85.4論文であった。70%の論文は非家庭医療分野のジャーナルであった。(ref 12)
(この文献12で示された)以降の最近の研究成果は発表されていない。
1995年以降、イスラエルの国家健康保険法により、全国を4つのヘルスメンテナンス組織に分類されている。Maccabi Healthcare Services (MHS) はそのうち、2番目に大きなヘルスメンテナンス組織である。MHSには研究活動を行うインフラが整備されている。
2005年に設立されたMaccabi Institute for Health Services Researchでは、統計解析や疫学を含む研究支援活動を提供している。
競争的研究助成を提供するだけでなく、選抜された研究者に対する研究資金援助なども行っている。これらのサービスの影響力、PCPによる研究活動の質などは発表されていない。
Blandモデル(ref 13)では、発展的な研究組織における、独立的な、学術的な、リーダーシップな特徴を持つ、3つの大きな要素を提案している。モチベーションは、そのうちの最も重要な特徴とされている。

●目的
本研究の一つ目の目的は、MHSにおけるPCPの臨床研究への態度を分析し、
研究に従事するにあたっての、個人レベルおよび組織レベルでの促進要因および阻害要因を明らかにすることである。2つめの目的は、研究に従事している臨床医と、そうではない臨床医とを比較することである。

3 方法・研究デザイン

●研究デザイン 横断記述研究
MHSに加入しているPCPを対象に横断調査を行った。
2018年にはMHSに1,424人PCPが所属。
そのうち、40%は家庭医療、残りは内科、GP、レジデントであった。
MHSに加入している医師は、直接雇用契約か、自身で雇用しているか、両者の組み合わせの場合がある。
今回の研究における「研究者」の定義として、以前に研究に従事したと申告していること、および、2つ以上の科学的会議(学会)での研究プロジェクト発表、もしくは、2編以上の科学ジャーナルでの発表があることをもって、「研究者」と分類した。それ以外は、非研究者と分類している。
2018年9月〜10月にかけて、MHSに加入している全てのPCPに対して、組織のメールアドレスあてに、オンライン質問票を送付した。選択バイアスを避けるため、全てのPCPに対して、2回のリマインダーを送付した。
*質問票
先行研究での調査をもとに、22項目の質問票をデザインした(ref 14-19)
10人の家庭医が、調査開始前に質問票の妥当性を検証し、適切に修正した。
回答者は、22項目の質問に対して5段階評価で回答した(1 強く同意しない 〜 5 強く同意する)
課題ごとに3つのセクションに分類した。
(1)研究の促進要因 表2 項目1-9
臨床医の医学研究への態度 > 具体的には、研究実施の重要性、PCPによるヘルスケアシステムへの貢献、キャリア形成のために研究の重要性などを回答する。
(2)研究の阻害要因 表2 項目10-17
研究をしていることで障害となる要因 > 具体的には、労働負荷、官僚的(学閥?)、専念する時間がないこと、資金援助がないことなどがある。
(3)組織的な研究支援環境 表2 項目18-22
MHSによる研究支援 > 具体的には、コンサルタントへのアクセス、研究実施の資金援助、研究実施している同僚の存在、ジャーナルに発表している同僚の存在、研究助成獲得の難しさなどがある。
質問票では、医師および勤務先の医療機関の情報も収集している。
年齢、性別、場所、プライマリケアの経験年数、専門領域、雇用形態、週あたりの勤務時間
調査への参加はボランティアであり、回答内容は秘密が厳守されている。
質問票への回答をもって、調査に同意したとみなしている。
調査票はヘブライ語で行われた。英語バージョンは、補足資料に添付。
*統計解析
単変量解析 研究者と非研究者の比較に用いた
社会人口統計的な状態、勤務状況、研究への態度などを分析した。
カイ2乗検定 カテゴリー変数の検定に用いた
マンホイットニーU検定 正規分布しない変数の検定に用いた

単変量解析で有意な結果であった変数を、多変量ロジスティック回帰分析に用いた。
有意水準P値は0.05以下で統計学的に有意と判定
効果両は補正オッズ比(AOR)で算出した。
SPSSを統計ソフトとして使用

*Scale construction
質問票に多数の変数があるため、主成分分析(principal component analysis:PCA)を行った。質問項目間の関係性を明らかにするためにバリマックス回転を行った。
主成分分析により6つの因子に分類された。
'importance of research',  'benefits of research to clinical practice', 'prestige',
'time requirements',  'institutional support' and  'co-workers' research habits'.
これらの6項目の項目スコアを計算し、研究者および非研究者間で比較した。
それぞれの因子の信頼性を分析したが、結果には大きな影響はなかった。
クロンバックのアルファは0.70以上であり、信頼性があると判断された。

4 結果

1)図1 調査対象者のフローチャート
1424人のPCPのうち、247人が回答。12人は不完全回答のため、235人で集計。回答率は16.5%であった。
235人のうち、145人61.7% 臨床研究の経験あり、48人20.4% 「研究者」として分類、187人79.6% 「非研究者」として分類、81人32.8% 臨床研究の経験はない。
2)表1 人口統計学的な特徴
女性は男性より多い(57.1% versus 42.9%)。専門領域 家庭医療が半数 53.6%
3)表2 回答者の臨床研究への態度
*質問2 「研究者」と「非研究者」の両者のほとんどが、プライマリケア研究は医学の発展につながることに同意していた。
*質問5 「研究者」と「非研究者」の両者のほとんどが、研究結果は医学状況のマネジメントを改善すると回答
*質問6 「研究者」と「非研究者」の両者のほとんどが、医学研究に携わることでプロフェッショナルとしての名誉につながると回答
一方で、以下の項目は「研究者」の方が、「非研究者」よりも同意する割合高かった
*質問1 PCPにとって研究を行うことは重要
*質問4 研究はPCPの仕事の一部
*質問3 研究は楽しい
*質問8 研究は臨床医のキャリア発展に重要
*質問17 アカデミックな研究は臨床業務との相関が低いとは考えにくい

以下は、「研究者」と「非研究者」の両者が高い割合で同意
*質問10 研究業務はワークロードによって制限されている
*質問12 官僚的(学閥)である
*質問13 従事する時間が足りない

以下は、「研究者」は「非研究者」よりも同意する割合が小さい
*質問11 研究業務に関心が少ない
その他として
*質問16 全体として半数が、研究を行うことでの経済的なメリットはない
*質問15 医師患者関係は患者に研究参加を促すことで障害されるという質問には、
「研究者」はほとんど同意せず、「非研究者」は少数が同意した。
*質問18 約半数が同意 MHSで研究を行うにあたり相談することが出来る人間がいる

4)表3 現在の研究参加状況に影響する要因
「研究者」と「非研究者」における人口統計学特徴を表示
「研究者」は、
・男性が有意に多い  (60.4% versus 37.4%, P = 0.02)
・労働時間が有意に長い 41.7% versus 16.7% worked over 41 hours per week (P = 0.02).
・年齢群が高い  83.3% versus 51.3% were above the age of 40 years (P < 0.001),
・経験年数が長い 81.2% versus 49.2% had at least 11 years of experience.
・雇用形態 自立が多い (66.7% versus 31.6%, P < 0.001).
*専門領域
両者ともに、家庭医療が半数
「研究者」は、内科が多い(31.3% versus 5.9%)
レジデントが少ない(10.4% versus 29.4%).
*研究トレーニング
「研究者」は「非研究者」よりも臨床経験トレーニングが多い
医学文献をより多く読んでいる

5)表4
主成分分析の結果
6つの因子が抽出され、そのうち、3因子が「研究者」と「非研究者」で有意に差があった
(1) 'importance of research' (P < 0.001),
(2) 'benefits of research to clinical practice' (P = 0.009)
(3) 'prestige' (P = 0.018).
その他の3因子は両者で差がなかった
(4) 'time requirement',
(5) 'institutional support'
(6) 'co-worker's research habits'
6つの因子で、全体の59.6%の分散を説明した

6)表3 多変量解析の結果
4つの変数が「研究者」であるための要因といて抽出された
・研究トレーニング P = 0.001, AOR = 8.49, 95% CI [2.49-29.14]
・研究論文を高い頻度で読むこと  P = 0.013, AOR = 14.16, 95% CI [1.76-113.5]
・自己で雇用している医師 (P = 0.05, AOR = 5.92, 95% CI [1.71-20.44]).
因子分析での6因子の中では、因子1「研究の重要性」のみが、有意な関連があった
(P = 0.039, AOR = 1.89, 95% CI [1.03-3.48]).

5 考察

1) 研究結果のまとめ
上記の結果の通り

2) 先行研究との比較
口述

3) 限界
・回答率が低い 選択バイアスの可能性
・興味のある研究者ほど、このアンケートに回答する可能性が高い

6 日本のプライマリケアへの意味

*イスラエルにおけるプライマリケア医師の臨床研究の現状
「研究者」であることの促進因子と阻害因子
「研究者」であるためには、トレーニングと論文頻度が高いこと

*プライマリ医師がリサーチを実践するのに必要な要因
 イスラエルにおける記述研究をもとに、日本にも生かせるのではないかと考えた
 > まさに、リサーチフェローカリキュラムの重要性

*日本における先行研究
 プライマリケア領域の研究成果が少ないとの分析(2017年JPCA 青木先生論文)
 日本でも同様の調査を行ってみると興味深い結果が出るかもしれない

以上

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学