小児プライマリケアにおける診療の場の変化:縦断ポピュレーションベース分析(2019年第11回RJC)

ジャーナルクラブ 第11回
2019/10/10
高橋亮太

1 タイトル

「小児プライマリケアにおける診療の場の変化:縦断ポピュレーションベース分析」
Change in Site of Children's Primary Care: A Longitudinal Population-Based Analysis
Richard C. Wasserman, Susan E. Varni, Matthew C. Hollander, and Valerie S. Harder
Ann Fam Med September/October 2019 17:390-395; doi:10.1370/afm.2416
カテゴリー research journal club
キーワード child health pediatricians physicians, family primary health care workforce

2 背景・目的・仮説

●背景
米国の小児患者のほとんどは家庭医もしくは小児科医によるプライマリケア診療を受けている(ref 1)
先行研究では、家庭医に診療される小児患者割合は減少している(ref 2-5)
これにはいくつかの理由がある
1)家庭医療とプライマリケア小児医療はアプローチ方法が異なる
2)もし、家庭医による小児診療が減少しているのであれば、家庭医療における家族全部を診るというコンセプトに問題があることになり、再検討する必要が出てくる
3)家庭医と小児科医が地理的に同等に分布していないのであれば、このアクセスの違いが健康格差の悪化に影響している可能性がある
4)家庭医診療所に受診する小児患者が少ないことは、多くの小児患者が、小児科だけから、成人ケアへと移行する必要が出てくる。特に慢性疾患を抱える患者に
5)労働力政策の観点から医師分布を考えた場合には、政策決定者はこのシフトを将来の臨床医教育訓練に生かして行く必要があるだろう
しかし、現在までのところ、家庭医における小児患者診療は小児科医よりも少ないと言われているが、人口規模のデータベースでは確認されていない

●目的
本研究の目的は
1)家庭医と小児科医のそれぞれにおける小児患者診療の割合を年単位で記述すること
2)そして、そのトレンドに患者属性および地域性が与える影響について分析すること
である

3 方法・研究デザイン

●研究デザイン 繰り返し横断研究
●方法
*研究対象
米国バーモント州(人口約62万人:2010年)の2009-2016年におけるすべての(診療報酬)請求のうち、小児患者(0歳〜21歳)の請求を対象
8年間の間に2回以上の請求を行った184,794人の小児患者を対象とした
*方法
 先行研究 Christensen and colleagues.(ref 13)における分析方法を採用
 病名 Current Procedural Terminology codesまたはInternational Classification of Diseases Clinical Modification codesをもとに作成
*家庭医もしくは小児科医への割り付け
1)乳児健診のほとんどを家庭医で実施 > 家庭医に割り付け
2)乳児健診をしていない場合 > 外来診療(視力、聴力スクリーニングを含む)で判断
3)それ以外の場合 > どのような理由であれば受診頻度の多さで判断
*統計解析
一般化推定方程式(Generalized estimating equations; GEE)を用いた
(※階層的データに対して用いることのできる回帰分析の一つ)
共変量として、カレンダー年、年齢、性別、保険種類、地域性(Rural Urban Commuting Area (RUCA) category)を投入。
地域性は患者居住地の郵便番号をもとに4つに分類した(urban, large town, small town, and isolated rural) > original RUCA classification system. (ref 15,16)

4 結果

1)表1
各年における家庭医診療所を受診した小児患者数および割合(全患者に占める家庭医の割合)
年次推移を見ると、家庭医に受診する小児患者は減少傾向を認めた
それは、年齢群、性別、地域性、保険種類、すべてにおいて同様の傾向であった
ただし、
・年齢群において年齢が高いグループ
・女性
・離れた田舎
・保険がメディケイド(※低所得者向けの政府による医療給付制度)
は家庭医の割合が高かった
2)家庭医と小児科医の比較
一般化推定方程式(GEE)の結果では、共変量で調整後、家庭医に受診した小児患者は小児科医と比べて前年と比べて5%オッズ比が小さいという結果であった。
3)家庭医により受診しやすい小児患者の特徴
・年齢が高い(odds ratio (OR) = 1.11, 95% CI, 1.10-1.11),
・女性 (OR = 1.05, 95% CI, 1.03-1.07)
・メディケイド (OR = 1.09, 95% CI, 1.07-1.10) 
4)地域性による分析
都会と比べて田舎地域の方がより家庭医に受診しやすい傾向があった
・大きな地方都市 (OR = 1.54, 95% CI, 1.51-1.57),
・小さな地方の町 (OR = 1.45, 95% CI, 1.42-1.48)
・離れた地方の町 (OR = 1.96, 95% CI, 1.93-2.00)
5)表2 地域ごとの層別化
・年齢が高いこと オッズ比 高い
・性別(都市部のみ)オッズ比 高い
・カレンダー年  オッズ比 低い
・メディケイド  オッズ比 高い

5 考察

1) 研究結果のまとめ
・家庭医に受診する小児患者が減少傾向であること
・小児科医と比較して、前年と比べて5%オッズ比が小さい
・しかし、家庭医診療割合は田舎地域で高い傾向があった
2) 今回の結果の要因
・産婦人科サービス提供割合の国家的な低下の影響があるのではないか
・バーモント州に転居してきた家族と子供 より小児科医を選択する 小児科が新規患者の受け入れているから
・バーモント州は全米で2番目に高い年齢中央値の州であり、家庭医がより高齢者診療に従事しなければならない環境にある
・小児診療よりもより慢性化、複雑化した高齢者医療のニーズが高い
・バーモント州では家庭医の数が減少傾向
・新規小児患者を受け入れる家庭医(81%)に対して小児科医(97%)
・小児患者の男女差 家庭医における女性医師の割合についての分析
3) 限界
・ニューイングランド地方の人口での結果であり、米国全体への一般化はできない
・病気のコーディングを行った医師による誤記載の可能性(複数問題の受診であるのに正確に記載していないなど)
・バーモント州以外で診療を受けた小児患者が存在する可能性

6 結論

本研究では、診療報酬請求のデータから小児患者が家庭医もしくは小児科医のどちらに受診したのかを分析した。
年次推移により減少傾向があったこと、小児科医と比較して家庭医が5%オッズ低下があったこと、属性による違い、地域差などが所見として得られた。
先行研究で示された結果を、人口データで検証し明らかにしただけでなく、地域性による違いなど新たな所見も得られた。今後、今回の結果をその他の地域においても確認していくことが必要であると考える。

7 日本のプライマリケアへの意味

・日本においても同様のリサーチは可能か?
 NDBオープンデータベース(厚生労働省)
 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/reseputo/index.html
 > 診療報酬請求データはあるが、家庭医(総合診療医)と小児科医の区分が難しいのか

・バーモント州(人口60万)での事例のようにまずは特定のエリアでの検証を試みること

以上

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学