どの複雑な患者を集中的なケアマネジメントへと紹介すべきか。混合研究法による分析(第9回RJC)

ジャーナルクラブ 第9回
2018/09/12
高橋亮太

1 タイトル

どの複雑な患者を集中的なケアマネジメントへと紹介すべきか。混合研究法による分析
Garcia ME, Uratsu CS, Sandoval-Perry J, Grant RW.
Which Complex Patients Should Be Referred for Intensive Care Management? A Mixed-Methods Analysis.
J Gen Intern Med. 2018 Sep;33(9):1454-1460. doi: 10.1007/s11606-018-4488-5.
https://link.springer.com/article/10.1007/s11606-018-4488-5
カテゴリー research journal club
キーワード ケアマネジメント 複雑な患者 混合研究 プライマリケア

2 背景・目的・仮説

●背景
 2010年 米国人口の5%に全体の約50%の医療費がかかっている(ref 1)
 高コスト患者の大半は、多くの慢性疾患を患う患者である
 Medicare(高齢者および障害者向け公的医療制度)受給者の7分の1が6つ以上の慢性疾患を抱えている(ref 2)
 これらのmultimorbidityによりpolypharmacy、受診予約、検査、内服アドヒアランス低下、等の弊害が生じている(ref 3-6)
 複雑な患者は社会的、精神的、経済的なストレッサーを抱えており、それによりケア利用が増加してしまう(ref 8)
 複雑な患者を効果的にマネジメントすることが、ヘルスケアシステムの課題となっている
 このような背景から、統合化されたケアシステムでは、複雑な患者を効率的に管理し、コスト抑制するために、集中的なケアマネジメントで患者支援を行うが増えている
 複雑な患者へのケアマネジメントチームは、典型的には看護師または有資格の臨床ソーシャルワーカーからなり、以下のような患者支援活動を行う。
・包括的な初期患者アセスメント
・ケアプラン作成
・患者状態の頻回モニタリング
・ケアセッティング移行のサポート
・異なるケア提供者の調整
・教育(患者、家族、介護者に対する)
・支援(患者、家族、介護者に対する)
 適切な患者に紹介された場合には、ケアマネジメントは患者脱落、入院、コストを削減するための強力なツールとなる(ref 15)
 しかし、ケアマネジメントによる文献的なエビデンスは希薄である。(ref 16-17)
 どのような複雑な患者をケアマネジメントに紹介すべきかは十分にわかっておらず、この領域の研究が不可欠である。(ref 18)

●目的
 本研究ではケアマネジメントにおいて最も直接的な役割をもつ、看護師およびソーシャルワーカーを対象にインタビューを行い、それらの結果からどのような要素をもつ患者が最もケアマネジメントに適しているか、を明らかにすることを目的として研究を実施した。

3 方法 研究デザイン

●研究デザイン 混合研究

●研究環境
・Kaiser Permanente Northern California (KPNC)
 非営利統合化ケアシステム
 410万人の会員 17箇所の地域的に分散した外来診療所
 それぞれに集中的なケアマネジメントプログラムを保有
・ケアマネジメントへの紹介方法
 外来担当医からの紹介 もしくは 入院患者が退院時に紹介をうける
 > 標準的な紹介クライテリアがない
・ケアマネジメント
 初期患者アセスメント セルフケア教育 スキル構築 適切なリソースへつなげる
・方法
 診療所受診 電話 家族会議 自宅訪問
・頻度
 2〜6ヶ月間(最長1年間)

●研究参加者
 51人のケアマネジメント担当者(CMs)に研究参加を依頼 
 > 35人のCMs(10ソーシャルワーカー、25看護師)が同意 69%(回答率)
 
●データ収集
 CMs毎に無作為に50人以内の患者(この1年以内に紹介された)をリストアップ
 それらの患者を3つのカテゴリーに分けてもらう
 1)ケアマネジメントによって助けることができた(適している)
 2)集中的なケアマネジメントは必要なかった(必要なし)
 3)より高度な、もしくは、より専門的なケアマネジメントが必要(もっと必要)

●構造化質的分析
 CMsがそれぞれ3つのカテゴリーから数名の患者(そのカテゴリーに典型的な特徴のある)を抽出し、その患者についてのインタビューを行った。
 2名の研究スタッフ(1名はアクティブリスナー、1名は記録者)
 > 構造化質的分析の標準的な手法に基づき実施

●統計学的手法(量的研究)
・全体の患者(1178名)
 患者特性、医療資源の利用について分析
 > ANOVA(3群以上の平均値の比較)カイ二乗検定
・予測モデルの開発
 CMsがあげた要因をもとに、どの複雑な患者が(適している)患者なのか
 EHR (electorical health record)を用いて予測する
 > 二項ロジスティック回帰分析

4 結果

●参加者特性
 35人のCMs(10ソーシャルワーカー、25看護師) 13の診療所に勤務 
 97%が女性 60%が勤務して10年以上

●患者カテゴリー
 全体の患者(1178名)を3つのカテゴリーに分類
 62% > 1)ケアマネジメントによって助けることができた(適している)
 18% > 2)集中的なケアマネジメントは必要なかった(必要なし)
 19% > 3)より高度・専門的なケアマネジメントが必要(もっと必要)
 患者特性 表1
 > 年齢、うつの診断、処方薬剤数、ファーストコンタクト家族の有無、外来、入院、救急利用で3群間に有意差あり

●予測モデルによる(適している)患者の判別
 EHRから年齢、性別、処方薬剤数、救急受診回数、ファーストコンタクト家族の記載等の医療情報を抽出し、分析
 > 年齢が75歳以上、救急入院回数が良い変数としてあがった
   最終モデルのc 統計量0.75(比較的良いモデルとの数字)であった

●CMsインタビューで抽出されたテーマ
 35人のCMs
 > 346人の患者についてインタビュー
 176人 > 1)ケアマネジメントによって助けることができた(適している)
  76人 > 2)集中的なケアマネジメントは必要なかった(必要なし)
  94人 > 3)より高度・専門的なケアマネジメントが必要(もっと必要)
 抽出されたテーマ
 > 12個 4つのドメイン 表2
 A) 患者医療的要素
   > 身体機能 認知状態 精神状態(薬物使用)ヘルスケアニーズ
 B) 患者非医療的要素
   > ソーシャルサポート モチベーション 世話(agency)
 C) 患者trajectory(軌道)
   > 疾患病期・軌道 転居
 D) ケアシステム要素
   > 医療システムへのアクセス 紹介時期 システム資源枯渇

●抽出テーマをもとにした患者の判別 図1
 12個のテーマを検討 特異的(90%以上)を列挙
 1)ケアマネジメントによって助けることができた(適している)
 > 非医療的移行、終末期、身体機能低下
 2)集中的なケアマネジメントは必要なかった(必要なし)
 > 低いヘルスケア、安定した患者軌道
 3)より高度な、もしくは、より専門的なケアマネジメントが必要(もっと必要)
 > 精神疾患、薬物中毒、低いモチベーション、特異的な資源枯渇

5 考察

●本研究のまとめ
 約2/3 ケアマネジメントに適しているという結果
 まだ改善すべき余地はあるという印象
 紹介プロセスにおいて、?患者モチベーション、?ソーシャルサポートの有無、が重要な考慮すべき事項と考えられた
 これらの2つの情報は電子カルテではえられない情報であり、EHRによる予測モデルでは検討できない情報
 EHRによる予測モデル c統計量が0.75という結果
 goodではあるが、excellentではない
 電子カルテで計測できない因子の重要性があるのだろう

●先行研究との比較
 複雑な患者においてソーシャルサポートの有無が重要
 患者モチベーション、世話などの要素も集中的なケアマネジメントによる効果に影響する

●限界点
 17の医療機関 全て同じヘルスケアシステムであったこと

●結論
 EHRでの予測モデルとCMsにおいてのインタビュー > 相違
 結果的にはEHRでの予測モデルでは(適している)患者の抽出には最適とは言えないだろう 
 モチベーション、ソーシャルサポート、非医療的な生活変化、患者軌道などの情報がより適した患者の抽出には重要となってくる
 今後はこれらの電子カルテに通常のらない情報をシステマチックに収集する方法を検討していくべきであろう

6 日本のプライマリケアへの意味

 「高コスト患者への対応」としてケアマネジメントが実施されている米国の背景はあると考えられ、日本の状況と単純に比較できない。一方で、高齢化社会が進行する日本において、医療資源の適切な使用という観点から、「不要な救急受診削減」「不要な入院削減」を目的としたケアマネジメントは今後必要となる可能性はある。
 その際に、どういった複雑性を持つ患者を紹介すべきかというこの論文の視点は非常に重要な示唆を与えていると考えられた。

以上

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学