ヘルスケアサービス頻回利用者に対するケースマネジメントによる介入効果:混合研究(第5回RJC)
ジャーナルクラブ 第5回
2018/06/25
高橋亮太
1 タイトル
「ヘルスケアサービス頻回利用者に対するケースマネジメントによる介入効果:混合研究」
Catherine Hudon, Maud-Christine Chouinard, Marie-France Dubois, Pasquale Roberge, Christine Loignon, Éric Tchouaket, Mireille Lambert, Émilie Hudon, Fatoumata Diadiou, and Danielle Bouliane.
Case Management in Primary Care for Frequent Users of Health Care Services: A Mixed Methods Study.
Ann Fam Med May/June 2018 16:232-239. doi:10.1370/afm.2233
http://www.annfammed.org/content/16/3/232.full
カテゴリー research journal club
キーワード 頻回利用者 (リソースの)有効利用 ケースマネジメント 健康アウトカム 混合研究 多疾病併存 臨床基盤型研究 プライマリケア
2 背景・目的・仮説
●背景
ヘルスケアサービスの頻回利用の問題
複雑化した健康社会ニーズを持つ個人が主体となることがある
慢性疾患を患うことが多く、精神疾患の合併、時に社会的脆弱性も併存することがある(文献1、2)
それらの頻回利用者に対するケアは、断片化され、非統合的で、非効率的なケアとなることが多く、結果的に悪い健康アウトカム、もしくは高いコストがかさんでしまうことにつながりかねない。(文献3)
プライマリケアは、そういった患者に対する医療保健システムの最初の接触点であり、より統合的なケアを提供するために、重要な役割を持っている(文献4)
これまでにも、頻回利用者に対する様々な介入が試みられてきた。例えば、ケースマネジメント、個別のケア計画、自己管理の支援、そして、情報共有など。(文献5)
この中でもケースマネジメントは、エビデンスにより最も支持された介入方法である。具体的には、医療資源の適切な利用、医療コスト削減、集団における幸福感の増強などを支持する研究成果がある(文献5〜7)
米国ケースマネジメント学会によるケースマネジメントの定義(文献8)
頻回利用者に対するケースマネジメントの効果を示すレビュー論文
・Althausら:ケースマネジメントにより救急受診数減少、コスト削減、そして、臨床的・社会的アウトカム改善につながった(文献9)
・Kumar and Klein, Sorilらの総説:ケースマネジメント介入による恩恵(文献5、6)
一方で、
・Stokesら:ケースマネジメントは高齢患者のヘルスケア利用、コストの削減にはつながらなかったが、長期的な患者満足度の向上につながった(文献10)
これまでにも多くのケースマネジメント研究があるが、頻回利用者に見られる特徴の一つである精神的苦痛(psychological distress)および患者活性化(patient activation)を扱った研究はない。
●目的
慢性疾患や複雑なケアニーズを抱えたヘルスケアサービスの頻回利用者を対象として、プライマリケア看護師による介入であるV1SAGE intervention (Vulnerable Patient in Primary Care: Nurse Case Management and Self management Support) による効果を評価すること。精神的苦痛(psychological distress)をプライマリアウトカム。患者活性化(patient activation)をセカンダリーアウトカムと設定した。
3 方法 研究デザイン
●研究デザイン
連続的説明的混合研究(sequential explanatory mixed methods)
(※量的研究の結果を、続けて、質的研究に利用する)
第1段階 pragmatic randomised controlled trial
第2段階 descriptive qualitative approach
●対象者の募集と無作為化
研究に参加した4つの診療所
すべての家庭医が病院受診患者リストを受け取る
*頻回利用者の定義
12ヶ月間で3回以上の救急受診、入院、もしくは、その組み合わせ
さらに、家庭医が頻回利用者と判断した患者を追加登録(複雑なケアニーズを有する患者、ケースマネジメント介入を行うことでの効果があると判断した患者)
18歳〜80歳まで
1つ以上の慢性疾患(糖尿病、心疾患、呼吸器疾患、筋骨格系、慢性疼痛)を持つ
重度の認知機能低下者は除外した
*ケースマネジメントを実施した看護師
6人 50時間以上のトレーニング(自己管理支援技術を含む)
*対象者の募集
ケースマネジメント看護師から電話して参加への関心があるかを確認
関心がある患者は、研究補助者から別途電話連絡し、概要説明、同意を得た
集めた対象者を無作為化:3つの方法で
研究者は、無作為化のプロセスには関与せず、どの患者が介入群か対照群かわからないように(blinded)実施した
●介入群と対照群
<介入群>V1SAGEケースマネジメントを6ヶ月間実施
*4つのコンポーネント
1.患者ニーズと資源の評価
2.患者優先順位にそった個別サービス計画の導入と維持。ヘルスケア、地域協力者と連携して実施。
3.ヘルスケア、地域協力者とのケア統合。
4.患者および患者家族に対する自己管理支援の提供(動機付け面接)
看護師一人につきそれぞれ50人以内とした。
*実施方法
介入期間を通して、ケースマネジメント看護師は患者ニーズと進捗状況を再評価。
看護師との接触頻度は患者要望により対応。多くの場合は対面で実施。可能な場合には電話でも実施。
その後、Stanford Chronic Disease Self Management programを実施。患者と配偶者が6週間毎に2.5時間のグループミーティングに参加。グループミーティングでは、
(1)いらいら、疲労感、痛み、孤独の対処技術
(2)体力、柔軟性、がまん強さを維持するためのエクササイズ
(3)薬物の適切な使用方法
(4)家族、友人、医療従事者との効果的なコミュニケーション
(5)栄養
(6)意思決定
(7)新しい治療の評価方法
などについて扱った。
すべての介入内容は担当の家庭医に報告され、カルテに記録が残された。
ケースマネジメント看護師は、介入期間中は、患者の救急受診、入院の際のコンタクトパーソンとして設定され、受診・入院の情報が知らされた。
<対照群>
プライマリケア看護師(トレーニングを受けていない)からの通常のケア 6ヶ月間
健康増進、全体的な評価、慢性疾患のフォローアップ
通常のケアが終了後にデータ収集。そして、その後にV1SAGEケースマネジメントを6ヶ月間実施した。
●量的データ収集と分析方法
期間 2013年2月〜2014年1月
ベースライン 研究補助員が質問紙を配布。必要に応じて記入を支援。
6ヶ月後に電話でアウトカムを聴取した。
●2つのアウトカム
*精神的苦痛 psychological distress
Psychological Distress Scale (K6)
>13点以上(重症精神障害)を「精神的苦痛(psychological distress)」が存在と判定
*患者活性化 patient activation
Patient Activation Measure (PAM) 積極性評価尺度
> 連続変数で評価
●調整変数
年齢、性別、婚姻状況、教育、職業、世帯収入、経済状況の自己評価
ヘルスリテラシー Newest Vital Sign (NVS) (文献30)
メンタルヘルス Hospital Anxiety and Depression Scale (HADS)(文献31、32)
マルチモビデティー Disease Burden Morvidity Assessment (DBMA)(文献33、34)
●統計解析
intention to treat分析として実施
当初 intracluster 相関がないことを確認(看護師特異的な効果がないことを確認)
マルチレベル分析は実施しなかった
6ヶ月後の精神的苦痛結果でロジスティック回帰分析を実施
患者活性化 ANCOVAで評価
●質的データ収集と分析方法
6ヶ月間の介入後に準構造化した面接を実施
69個の鍵となる情報を収集
面接参加者はmaximam valiation sampling(年齢、性別、かかりつけ診療所など)
> 25人の患者を抽出 6人のケースマネジメント看護師 9人の管理者
3つのフォーカスグループ 8人の患者配偶者
4つのフォーカスグループ 21人の家庭医
●量的データ分析結果と質的データ分析結果の統合
研究者間で量的結果と質的結果を比較して議論
両者で一致した結果だけではなく、一致しなかった結果についても深く検討
4 結果
●量的データ分析結果
図1 今回の研究のフローチャート
247人 募集され、質問紙を完遂
126人 介入群 121人 対照群 にそれぞれ無作為割付
それぞれのベースライン状況は同様であった(表1)
126人の介入群のうち111人が介入を完遂(88.1%)
121人の対照群のうち121人が完遂(100%)
表2 介入後の精神的苦痛と患者活性化の結果
精神的苦痛(K6)
> 介入群 Adjusted OR 0.43 (0.19-0.95)と有意に低下
患者活性化(PAM)
> 介入群 Adjusted OR 0.17 (P value 0.43)と有意ではなかった
●質的データ分析結果
参加者の属性 > Supplemental table1, 2
ケースマネジメント介入に対する参加者の評価 全体的に良かった
多くの参加者が評価したのは、近接性の改善、患者および配偶者の自己管理支援、安全性の担保などの項目であった。患者の不安が軽減されたことを評価する参加者が多かった。
自己管理方法の改善もケースマネジメント看護師から意見が聞かれた。
ケースマネジメント看護師と家庭医が、健康状態(体重減量、血糖値改善、コレステロール値改善など)を確認した事例もあった。
5 考察
●全体のまとめ
量的研究と質的研究において:ケースマネジメント介入の効果として、精神的苦痛の改善、安全性の担保という面では研究結果が合致した
一方で、患者の自己管理という面では結果が異なった。量的研究と質的研究で結果が異なる場合には、今後のさらなる検討が必要とされている(文献40)
●先行研究との比較
・Grinbergらによる質的研究(文献41)
ケースマネジメント介入による医師患者関係への効果が安全性、信頼性、ケアの継続性につながること
・Adamらによるnon randomised controlled study(文献42)
多職種によるケースマネジメント介入により患者幸福感が向上した
・Leightonらによる地域研究(文献43)
ヘルスケアサービスへのアクセスの良さが患者の自信につながる
●量的研究で自己管理に関する結果が有意でなかったこと
今回用いた質問紙(PAM)が患者活性化を測定する指標であったことが原因した可能性
今後はより自己管理を直接測定するような質問紙(the Partners in Health scale(文献46))などを検討すべきか
●長所と限界
<長所>
混合研究であり、複雑な介入および多層性因子についてより深い理解が可能
量的研究 無作為化していることが結果の信頼性を高める
質的研究 共著者のバックグラウンドが多様 質的研究結果の評価に有用
<限界>
質的研究に参加した24人の患者 別の介入にも参加
> co-intervention biasの可能性
6ヶ月間の介入期間が短かった可能性
受診頻度とコストについて評価は困難であった(さらに大きなサンプルサイズが必要であるため)
●結論
V1SAGEケースマネジメントは精神的苦痛を減少させ、患者に安心感を提供する
質的研究では、多くの患者や研究参加者が、自己管理能力の改善を報告したが、量的研究での患者活性化の指標ではその効果を得ることができなかった。
今後の研究の課題として、サービス利用回数、コストの評価、そして、より長期間(1年以上)の介入期間での自己管理改善効果を評価すべきと考えられる。
以上
このサイトの監修者
亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男
【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学