患者特性は降圧剤への個別反応を予測する因子ではない:クロスオーバートライアル(第1回RJC #1)

ジャーナルクラブ 第1回
2018/04/11
高橋亮太

1 タイトル

「患者特性は降圧剤への個別反応を予測する因子ではない:クロスオーバートライアル」(第1回RJC #1)
Van der Wel MC, Biermans M, Akkermans R, Lenders JWM, van Weel C, Deinum J.
Patient characteristics do not predict the individual response to antihypertensive medication: a cross-over trial. Fam Pract. 2018;35(1):67-73. doi: 10.1093/fampra/cmx075

2 背景・仮説・PICO

*論文のPICO(リサーチクエスチョン)
Patient 18-65歳 新規に高血圧(BP > 140/90)と診断 10の家庭医療診療所(オランダ)
登録期間 2007年8月〜2011年2月。 除外基準: 66歳以上。降圧剤開始後。BP > 210/110。オランダ語不能。心血管合併症患者(糖尿病 PAD 虚血性心疾患 脳血管障害 心房細動)
Intervention 降圧剤治療(A)→休薬→降圧剤治療(B)→休薬 (それぞれ2週間ずつ)
Comparison 降圧剤治療(B)→休薬→降圧剤治療(A)→休薬 (それぞれ2週間ずつ)
(A)バルサルタン80mg1日1回 (B)ヒドロクロロチアジド12.5mg1日1回 (AorBは無作為選択
Outcome
・日中の平均収縮期血圧の測定値
・降圧剤開始時点、終了時点で以下を測定(24時間血圧の測定値 職場血圧測定値 血漿レニン濃度 NT proBNP 血漿カリウム濃度 尿中アルブミン BMI 腹囲)

3 研究デザイン・批判的吟味

*研究デザイン・統計解析
cross over trial  > 2群に分ける 休薬期間の設定 それぞれの治療薬を交換する
記述統計 > ベースラインの研究参加者 特徴
ピアソンの相関係数 > バルサルタンの治療効果とヒドロクロロチアジドの治療効果
単変量および多変量解析 > 2剤の効果の差をみるために実施

*サンプルサイズの計算
10の独立因子 それぞれに少なくとも10人の観察者が必要 > 100人以上の対象者が必要 
> 追跡中のドロップアウトを考慮して144人とした

*批判的吟味
抽出バイアス
> 家庭医療診療所への通院という選択バイアスの存在
交絡因子の調整
> 多変量解析にて実施

*研究資金源
Radboud Univ. プライマリ、コミュニティケア部門の研究資金
ノバルティス(バルサルタンの販売元製薬会社)が資金援助、研究デザイン(ARB処方薬の決定含め)、研究実施への提案・支援を実施 > 利益相反の可能性

4 結果

(図1)
159人適合 > 120人同意 > 98人が投薬完了 > 83人 最終分析
(表1)
完結した 98人 / 追跡不可 22人 
> それぞれの特徴を比較
(図2)
降圧剤(AもしくはB)に対する収縮期血圧の変化
> 有意な差なし
(図3)
それぞれの治療時期(もしくは休薬時期)における収縮期血圧の平均値
> 有意な差なし
(表2)
2群の収縮期血圧の差(A)ー(B)をそれぞれの独立変数で単変量解析
閉経による影響 ー6.98 mmHgと大きな差(それ以外の独立変数は有意差なし)

5 コメント

研究背景として、米国と欧州のガイドラインでは、どの降圧剤を選択しても患者特性にかかわらず効果は同等とされていること。一方で、いくつかの先行研究で患者特性を踏まえた降圧剤選択により治療効果が異なる結果。「民族 血漿レニン濃度 NT-proBNP カリウム 腹囲 BMI 性別 年齢 閉経」が降圧剤の効果に影響を与えるという知見があったとのこと。
今回のcross over trialでは、患者特性による降圧剤の効果には差がないとされる結果が出た。
限界点として、解析された人数が少ないことが指摘されている。研究デザインを検討するにあたり、サンプルサイズの確保は重要な課題であり、その結果として解析結果での有意差が出にくい(真実の結果を見ているかどうかの判断が難しい)という事例であった。

6 参考文献

*学びポイント(ミーティング後に追記)
・クロスオーバートライアルの利点と欠点
・結果で有意差がなかった場合において、その要因の鑑別
・サンプルサイズの計算方法
・統計的に有意なのか、臨床的に有意なのかの違い(批判的吟味の一環)
・negative dataでも論文化して報告すること(researcherの責務)

以上

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学