NUTRIREA-2
【論文】
Reignier J, Boisramé-Helms J, Brisard L, et al; NUTRIREA-2 Trial Investigators; Clinical Research in Intensive Care and Sepsis (CRICS) group.
Enteral versus parenteral early nutrition in ventilated adults with shock: a randomised, controlled, multicentre, open-label, parallel-group study (NUTRIREA-2).
Lancet. 2017 Nov 8. pii: S0140-6736(17)32146-3. doi: 10.1016/S0140-6736(17)32146-3. [Epub ahead of print] PubMed PMID: 29128300.
【Research Question】
人工呼吸装着中で昇圧剤のサポートを要するショック患者において早期栄養開始の投与ルートはenteral feeding (EN)、parenteral feeding (PN)のどちらがよいか
【わかっていること】
- CALORIE試験で重症患者におけるENとPNでの予後に差はなく、感染症にも差がないことが示された。
- EN vs PNを比較した18のRCTを組み入れたSR+MAではPNで有意に感染が多い
- SR+MAでは出版バイアスがあるのではないかと言われていた
- ASPEN, ESPEN, SSCG 2016でもENが推奨されている。
【わかっていないこと】
- 重症患者に対して早期の栄養はENとPNのどちらが優れているか。
- 特にショック+人工呼吸のような患者での栄養はどちらがすぐれているか
【仮説/目的】
人工呼吸装着中で昇圧剤のサポートが有るショック患者において早期栄養開始の投与ルートはPNよりもENの方が優れている
【PICO】
P: 中心静脈 (CV)から昇圧剤使用し、挿管から24時間以内の患者
Inclusion Criteria: 18歳以上のICU入室、ショック(CVから昇圧剤(NOA, AD, DOBのどれかが使用)、挿管から24時間以内で48時間以上人工呼吸が必要、
Exclusion Criteria: 24時間以上前に人工呼吸開始、1ヶ月以内の消化管手術、胃切除、食道切除、PD後、減量術後、消化管バイパス術後、短腸症候群、活動性消化管出血、在宅栄養療法、DNAR、他の研究参加、後見人がいる、妊婦、授乳婦、禁忌がある(アレルギーなど)
I:早期EN
C:早期PN
O:28日死亡割合
【期間】2013.3.22-2015.6.30
【場所】フランス 44施設成人ICU
【デザイン】多施設平行群オープランラベルRCT
- 事前プロトコルの有無: Clinical trial.gov: NUTRIREA2
- ランダム化の方法:コンピューターによるランダム生成。各施設でブロックランダム化(サイズは様々)
- 隠蔽化の有無:施設毎にコンピュータランダム表とブロック数を知ることはできないと記載されているためあり(プロトコルにありと記載している)
- マスキングの有無と対象者:患者、医療者はマスクされていない、評価者はマスクされた
【N】2410
【介入】
ENプロトコル
- 20-25kcal/kg/day
- 最低72時間は継続
- Day8以降はSPN可
- 使用製剤は当浸透圧、等カロリー、正常蛋白の高分子製剤
【対象】
PNプロトコル
- 20-25kcal/kg/d
- 最低72時間は継続
- 72時間以降は以下の条件を満たせばENへ変更可能、
1.昇圧剤終了後、24時間以上経過
2.Lac<2
3.腸管使用可能 - Day8以降は全患者ENへ変更する
<両群共通>
- 抜管後:ランダム化からの時間にかかわらず、担当医によって栄養投与ルートが決められる。
- 再挿管後:Day7以内であれば初回割付に従う。Day8以降であればENを選択
- 胃残:測定しない、嘔吐、逆流があったときのみ促進薬を使用、48時間で改善すればそのまま、なければ流速は25ml/hrに減量し、1時間米に合計2時間体向。その後元の量で再開。≦25ml/hrの場合は6時間中止し元の量で再開
- 下痢の対応 定義:水様便>300ml/day、もしくは軟便≧4回/日
下痢がおきれば薬剤チェック、抗生剤使用があればCDチェック、栄養製剤の変更、EN投与速度の減量
【主要評価項目】28日死亡割合
【副次評価項目】
SOFAスコア、体重、カロリー、タンパク質、嘔吐、腸管蠕動促進薬の使用、排便、血糖、インスリン治療、Lac値、Bil、AST/ALT、潰瘍予防薬、抗菌薬使用、prone position、透析、90日死亡割合、ICU死亡割合、院内死亡割合、ICU滞在日数、急性期病院滞在日数、非支持療法非、ICU関連感染、非観先生合併症、
VAPの定義:体温≧38..5もしくは≦35.5、WBC>10000/mm3、もしくは<4000mm3、膿性気道分泌物の2つを満たすかつ末梢気道標本の細菌10^5cfu/mlを踏まえて、独立した評価者が診断
腸管虚血:腸管栄養血管の血流が画像上欠如している。画像上の腸管壁の虚血がCFで確認
【解析】
- サンプルサイズ計算:α0.049、検出力80%として、28日死亡割合をPN37%→EN32%として2854人と計算。1000人、2000人を組み入れた時点で中間解析を予定。欠測は死亡として扱う。
- ITTの有無:あり
- 早期中止:あり、2回目の中間解析の結果をもって結果を大きく変えないため中止。2410人が解析対象
【結果】
- フローダイアグラムの解釈(フォローアップ、除外):10855人のうち、2410人が組み入れ基準をみたした。539が誤って除外されたとあるがこれが意図的でなればランダムに除外されていると思われる。除外もある程度適切。9人が28日までフォローできず、追跡率は99.4%
- 集団特性(内的妥当性・外的妥当性):年齢は66歳、男性67%程度、BMI28,SOFA11、入室理由は急性呼吸不全が50%、ショックの原因は敗血症が60%程度、心原性は19%程度、インスリンは入室時に40%程度、NOAは81%、Ad4%、DOB2%が使用されていた集団。両群に大きな違いはない。
- アドヒアランス:EN群はday1で20kca/dayを達成、PNもday1で20kcal/dayを達成。
- 主要評価項目: 28日死亡割合 EN 37% vs PN 35% ARR2% (95%CI 1.9-5.8), RR2.0(95%CI 0.76-1.16, P=0.33)
- 副次評価項目: ICU死亡、90日死亡、院内死亡、ICU滞在期間有意差なし
血糖:最低値と最大値に有意差なし
インスリン:79% vs 82% P=0.009とPN群でインスリン使用が多い。
低血糖: 2% vs 1% P=0.01でEN群の方が多い
嘔吐: EN群で多い 406 [34%] vs 246 [20%]; HR 1.89 [1.62-2.20]; p<0.0001
下痢: EN群で多い 432 [36%] vs 393 [33%]; 1.20 [1.05-1.37]; p=0.009
腸管虚血:EN群で多い 19 [2%] vs 5 [<1%]; 3.84 [1.43-10.3]; p=0.007
腸管虚血で手術:53% vs 60%
腸管虚血で死亡:74% vs 80%
偽腸閉塞:11 [1%] vs 3 [<1%]; 3.7 [1.03-13.2]; p=0.04
ICU関連感染:14% vs 16% HR 0.89 [95% CI 0.72-1.09]; p=0.25).
VAP: 9% vs 10% HR 0.96 (95% CI 0.74 to 1.24) P=0.75
菌血症: 3% vs 5% HR 0.69 (0.46 to 1.04) 0.08
CVC related infection HR 1.07 (0.64 to 1.81) 0.79
【Strength・Limitation】
- Strength
・多施設
・RCT
・実用的な研究
・28日死亡というHard Outcomeを選択。 - Limitation
・中間解析で早期試験中止
・オープンラベル(パフォーマンスバイアス、発見バイアスがある可能性)
・消化器合併症の発見のバイアスを除外できていない
【論文の結論】
重症成人ショック患者では早期の等カロリーのENはPNと比較して死亡を減らさず、二次性感染を減らさないが、消化管合併症が増える。
・飛躍していないか
していない
【批判的吟味】
<内的妥当性>
- 早期試験中止で効果量が高くでている可能性がる
- オープンラベルのため発見バイアス、パフォーマンスバイアスを考慮しなければならない
- 感染は有意差がないが、PNで多い傾向はある。早期中止しなければ有意差がついたかもしれない。
<外的妥当性>
- 20kcal/kgへの到達が早い。世の中的にはPermissive underfeedingも考える時代。
- PNを行ったことによるインスリンの使用量がわからず、臨床に取り入れても血糖コントロールに難儀するということも考えられる。
【Implication】
早期ENと早期PNを比較しても予後に与える影響に差はない、感染の合併も差はないというのは CALORIES 試験と同じである。CV留置の技術や感染対策の向上により近年では差がなくなってきていることが影響しているのかもしれない。しかし、有意差はないもののPNで感染が多い傾向はあり、症例数が増えれば感染に関して有意差がつく可能性はある。しかし、1%程度の違いであれば臨床的に意味があると考える必要はないだろう。
今回の研究で注目すべきはENによる腸管合併症の増加である。これに有意差がついたことに対しては本研究のデザイン上の問題を考慮する必要がある。1つは早期試験中止による効果量の増大である。もう一つはオープンラベルによる発見バイアスである。仮に腸管合併症が増えることが真実として、NOAが付いている早期、例えば昇圧剤量がどんどん上昇していくような状態で早期経腸栄養として20-25kcal/kgを目指して投与することは流石に日常診療としてやらないのではないだろうか。循環動態不安定で昇圧剤使用中にENを最大量投与すると虚血が増えやすいということは合点がいく。早期経腸栄養はなるべく早く48時間以内に少量開始できればよく、可能であればフルカロリーを目指すが、難しければPermissive underfeedingで良いものと思われる。
一方でPNをためらう理由も少なくなってきていることも確かだ。残るPNをためらう理由は腸管免疫機能の温存、PNによる管理の手間とコストであろう。PNによるインスリン使用や、血糖・TGのモニタリングなど煩雑さを考えるとPN<ENというのはまだ日常診療に根強く残るものと思われる。
ENが優先されることは変わらないが、本研究からも昇圧剤ががんがんついているような患者に20-25kcal/dayでENを行うべきではないと解釈できるかもしれない。ENが行えない時はPNを行ってもさほど問題ではないのだろう。当ICUでもPNのリスクを熟知した臨床医のみ、早期PNを行っている。
【本文サイト】http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(17)32146-3/fulltext
【もっとひといき】
Comment: http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(17)32815-5/fulltext
KMC-ER: https://www.facebook.com/kameda.ccmc/posts/371363669943234?comment_id=390041708075430¬if_id=1515816797164137¬if_t=feed_comment_reply
CALORIES:https://www.kameda.com/pr/intensive_care_medicine/post_6.html
EPaNIC: https://www.kameda.com/pr/intensive_care_medicine/post_5.html
【引用】
ASPEN http://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/0148607115621863?etoc=
ESPEN http://espen.info/documents/enicu.pdf
このサイトの監修者
亀田総合病院
集中治療科部長 林 淑朗
【専門分野】
集中治療医学、麻酔科学