CALORIES

post6.jpg【論文】
Harvey SE, Parrott F, Harrison DA, et al; the CALORIES Trial Investigators. Trial of the Route of Early Nutritional Support in Critically Ill Adults. N Engl J Med. 2014 Oct 1. PubMed PMID: 25271389.

【Research Question】ICU患者において栄養療法の最適な投与経路は何か?

【わかっていること】

  • ENの方が感染が少ないかもしれない
  • ENは胃の不耐性とunderfeedingを招くかもしれない
  • PNは侵襲的だが確実な栄養投与方法だが感染のリスク、合併症がある

【わかっていないこと】

  • PNとENを比較したSR+Meta1-3)では、各研究のサンプルサイズが小さいこと、研究の質が様々であること、選択バイアスがあること、標準的な定義が欠如していること、Timingや投与経路などの様々なパラメーターがあることから、どちらの投与経路が最適化かわかっていない。

【仮説/目的】成人ICU患者において、PNがENに比べて30日死亡割合を改善する

【PICO】
P: 成人ICU患者
 Inclusion Criteria: 18歳以上、2日以上は栄養療法が必要と予測、ICU入室36時間以内で3日以上の滞在が予想
 Exclusion Criteria:PN・ENが施行不能、7日以内に栄養療法を行えない、胃切除、空腸増設後、妊婦、英国に6ヶ月以上いないことが予想
I:PN
C:EN
O:30日死亡割合

【期間】2011年6月22日〜2014年3月2日

【場所】英国33施設ICU

【デザイン】多施設オープンラベル並行群RCT

  • 事前プロトコルの有無:あり、ISRCTNプロトコル_NEJM
  • ランダム化の方法
    ・24時間対応の電話によるランダム化システム
    ・Computerized minimization algorithmを用いて、年齢(65歳以上、65歳未満)術後か(ICU入室前24時間の手術の有無)低栄養状態の有無で層別化
  • 隠蔽化の有無:あり
  • マスキングの有無と対象者
    患者、介入者はマスキングされない
    アウトカム評価・データ解析者のマスキングの記載なし

【N】2400

【介入】経鼻胃管か経鼻十二指腸管を留置しUKガイドラインを参照に施行

【対象】CVからPN。CVの手技に関しては国際ガイドラインに則る。
両群共通:

  • 36時間以内に栄養開始、5日間継続 or 経口摂取可能になる or ICU退室 or 死亡まで
  • カロリーは25kcal/kgを目標として体重は実質体重で計算
  • 48-72時間を目標に目標カロリーに到達するように投与
  • 蛋白やアミノ酸投与に関してローカルプラクティスに一任
  • 血糖コントロールは国際ガイドラインを参照し180mg/dl以下でコントロール
  • プロポフォールなどのカロリーも計算
  • 他の治療や栄養療法に関してはローカルプラクティスに一任

【主要評価項目】30日死亡割合

【副次評価項目】90日死亡割合、臓器サポート期間、治療対象となった感染症、非感染性の合併症、ICU滞在期間、病院滞在期間、生存期間、ICU死亡割合、院内死亡割合、90日死亡率、1年死亡割合、副作用に関しては30日間の発症をモニタリング

【解析】

  • サンプルサイズ計算
    ・EN群の30日死亡割合を32%ととして、SR+MAの結果を参考(サプリメントFigS1)にRRR20%、ARR6.4%、検出力90%、αレベル0.05、2%がクロスオーバーするかプロトコルから逸脱し2%が脱落するか研究をやめるかことを想定し各群2400人とサンプルサイズを計算した。
    ・中間解析は1200人が30日死亡率を出せるようになった時点で行うこととした。
    ・早期中止はHybittleーPeto stopping rule4
  • ITTの有無:あり

【結果】

  • フローダイアグラムの解釈(フォローアップ、除外)
    ・11108人をスクリーニングし、6195人が除外基準を満たし、2513人が組み入れを満たしたが、除外され、そのうち716人が臨床医によって除外された。2400人が組み入れられた。12人がwithdrawした。5人が脱落し99.8%の追跡率。
  • 集団特性(内的妥当性・外的妥当性)
    ・ベースラインはほぼ同等
    ・63歳前後で、APACHE2 PN 15.1 vs EN 15.2の集団
    ・EN群でより栄養が少ない傾向があった
    ・ENの胃残は253ml/day、より多く腸管蠕動薬を使用
    ・目標の25kcal/kgは達成されていない
  • アドヒアランス:97%が決められた投与ルートから栄養療法を受けた。プロトコールバイオレンスは両群とも同等
    ・開始遅れ:PN 3.1% vs EN 3.4%
    ・クロスオーバー:PN 6.8% vs EN 1.5%
  • 主要評価項目:30日死亡率はPN群393/1188(33.1%)、EN群で409/1195(34.2%)で有意差なし。群間差で調整後(RR 0.97; 95% CI, 0.86 to 1.08; ARR, 1.15; 95% CI, −2.65 to 4.94; P=0.57)
    5人の脱落者を加えても解析結果は変わらない。
  • 副次評価項目
    ・低血糖: PN 3.7% vs 16.2% P=0.006
    ・嘔吐: PN 8.4% vs EN 16.2% P<0.001
    ・感染症発症、90日死亡割合、他の16の副次評価項目、副作用で有意差は無し。
    ・カロリーの摂取量は両群で有意差なし
    ・重大な副作用がおきたのはPN群4.9%、EN群で4.8%
    ・PNで腸管虚血、低血糖、消化管出血、AMI
    ・ENで下部消化管出血
  • サブグループ解析
    ・サブグループ解析の30日死亡率も有意差なし
    ・ノンアドヒアランスで調整しても有意差なし

【Strength・Limitation】

  • Strength
    ・多施設
    ・RCT
    ・層別化
    ・大規模
  • Limitation
    ・オープンラベルによりソフトアウトカムはバイアスの影響をうける
    ・クロスオーバーが起きている
    ・両群ともカロリーの到達量は25kcal/dayに達していない。

【論文の結論】
早期栄養投与のルートとしてPNはENに劣ってもいないし勝ってもいない

  • 飛躍していないか
    いない

【批判的吟味】
<内的妥当性>

  • 716人がスクリーニングで除外されており選択バイアスの可能性がある
  • 目標カロリーに到達していない(PN 21.3 kcal/kg vs EN 18.5 kcal/kg )のでこのカロリーを前提とする必要がある
  • クロスオーバーが起きている

<外的妥当性>

  • ICU患者として標準的な集団

【Implication】
 成人ICU患者において25kcal/mlを目指した早期のPNとENを比較して30日死亡に差はなかった。ENの方が低血糖や嘔吐などの有害事象が多い傾向があり、以前から報告されていたPNでの感染症の増加は本研究では認めていない。栄養投与の技術が向上したことのほか、バスキュラーアクセスの技術が発展したことやVAP予防がされるようになったことがこれに貢献しているかもしれない。
 ICU患者の栄養療法に関してはASPENもESPENも第一選択にENを推奨しているが、ENを行えない場合の早期投与に関しては意見が分かれている。ASPENではPNは感染が増えるとして1週間はまつことを推奨しており、ESPENでは早期のPNも許容されるという意見の対立が背景としてある。この研究により、以前から言われていた感染症のリスクは差がなさそうであり、早期栄養に関する効果は一見、EN≒PNととらえられる。しかし、コストやインスリンコントロールの煩雑さを考えればまだまだEN Firstで行うべきであろう。CALORIESのPN群では期間中のインスリン使用は154±223Uであったのに対してEN群では122±204Uであり、インスリンコントロールの煩雑さは増えそうである。ただし以前ほど、PN=悪として避ける必要もなく、早期栄養療法としてENができなければ、管理が煩雑になること(世の中には適切な血糖コントロールができないICUも存在する)を承知の上でPNも考慮してもよいだろう。当ICUでもPNのリスクを熟知した臨床医のみ、早期PNを行っている。
 そのほか、下痢に関してもPNで16.2%、ENで21%であり、経管栄養による下痢は5%程度だとすると、経管栄養の中止や変更では下痢はそんなに良くならないのではないかとも思う。
 今回の研究では投与量、カロリー量、タンパクや、アミノ酸の投与などはまだ最適化されていない。そもそも栄養一つで何か予後が大きく変わるとは思えない。コスト、臨床の煩雑さが優先されても良いのではないかと思う。

【本文サイト】http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1409860

【もっとひといき】
PNは感染を起こす?http://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa1102662
EPaNICでちょっとひといき: https://www.kameda.com/pr/intensive_care_medicine/post_5.html

【引用】

  1. Gramlich L, Kichian K, Pinilla J, Rodych NJ, Dhaliwal R, Heyland DK. Does enteral nutrition compared to parenteral nutrition result in better outcomes in critically ill adult patients? A systematic review of the literature. Nutrition 2004;20:843-848
  2. Heyland DK, Dhaliwal R, Drover JW, Gramlich L, Dodek P. Canadian clinical practice guidelines for nutrition support in mechanically ventilated, critically ill adult patients. JPEN J Parenter Enteral Nutr 2003;27:355-373
  3. Simpson F, Doig GS. Parenteral vs. enteral nutrition in the critically ill patient: a meta-analysis of trials using the intention to treat principle. Intensive Care Med 2005;31:12-23
  4. Grant AM, Altman DG, Babiker AB, et al. Issues in data monitoring and interim analysis of trials. Health Technol Assess 2005;9:1-238

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このサイトの監修者

亀田総合病院
集中治療科部長 林 淑朗

【専門分野】
集中治療医学、麻酔科学