EPaNIC

post5.jpg【論文】
Casaer MP, Mesotten D, Hermans G, et al. Early versus late parenteral nutrition in critically ill adults. N Engl J Med. 2011 Aug 11;365(6):506-17. doi: 10.1056/NEJMoa1102662. Epub 2011 Jun 29. PubMed PMID: 21714640.

【Research Question】
ENで目標カロリーが不十分な重症患者にPNを追加し目標カロリーを早期に達成することは、しないことに優るか

【わかっていること】

  • 先行する観察研究では投与カロリーは目標値達成が早いほど重症患者の転帰が改善すると報告されている
  • ESPENでは経腸栄養(Enteral Nutrition: EN)だけで改善が見込めない重症患者への早期の経静脈栄養(Parenteral Nutrition: PN)が推奨されている。
  • ASPEN、米国・カナダのガイドラインでは後期(入室後1週間以上あけて)のPN開始が推奨されている。

【わかっていないこと】

  • ENだけでは栄養状態の改善が見込めない重症患者に対して、PNをICU入室後、早期・後期,どちらに開始するのが好ましいのかは不明

【仮説/目的】
ENにPNを組み合わせて早期にカロリー目標に到達する戦略の方が、EN単独で行う戦略に比べてICU滞在・病院滞在期間を短くする

【PICO】
P:低栄養のリスクのあるICU患者
Inclusion Criteria: ICUに入室したNRS(nutritional risk score:栄養状態のリスクスコア‐3以上で低栄養のリスクと関連)3点以上
Exclusion Criteria: DNR、12時間以内に死亡が予期される、ICUに再入室した患者、他の研究に酸化、7日以上他のICUに滞在していた、ケトアシドーシスか高浸透圧性昏睡のある患者。BMI<17、短腸症候群のため自宅でPNを施行、在宅人工呼吸、CVの相対的禁忌がある、NRSが2以下、経口摂取可能
I: 48時間以内開始の早期静脈栄養群(ESPEN)
C: 8日目から開始の後期静脈栄養(ASPEN)
O:ICU滞在日数

【期間】2007年8月1日から2010年11月8日

【場所】ベルギー 7ICU

【デザイン】多施設オープンラベル、平行群RCT

  • 事前プロトコルの有無: あり protocol
  • ランダム化の方法: ブロックランダム化、17の入室カテゴリーに分類し層別化
  • 隠蔽化の有無:封筒法、隠蔽化されている
  • マスキングの有無と対象者:治療者・患者はマスキングされていない。評価者はマスキングされている

【N】4640

【介入】早期PN

  • 20%Gluを投与:day1 400kcal, day2 800kcal, day3からOil Clinomel of clinimix
  • Daxter投与とEN(day3より可能であれば開始)で目標カロリーの100%を投与する。
  • 投与カロリーはIBW、年齢、性別から計算

【対象】後期PN

  • 5%Gluを早期群と同量負荷を使い、可能となった段階でENもしくは経口摂取を行い、栄養が目標カロリーに到達しなければ8日目よりPNを行う。
  • 1-4時間おきに血糖測定をABGで行い血糖コントロールは80-110mg/dlで行う。

【主要評価項目】ICU入室期間、ICU滞在日数
退室条件を客観的規定:臓器サポートが必要ない、必要カロリーの2/3を経口摂取できる

【副次評価項目】感染症合併数、抗菌薬期間、炎症、CRP推移、人工呼吸期間、AKI、RRT期間など

【解析】

  • サンプルサイズ計算:ICU滞在日数のベースラインを平均8±13日、中央値を4日で1日の違いを検出しかつ、3%のICU死亡の差を発見するために必要なサンプルサイズを計算し4640人と計算。
  • ITTの有無:あり
  • 中間解析: 1500例で行う

【結果】

  • フローダイアグラムの解釈(フォローアップ、除外): 8703人がスクリーニングされ、4640人が組入れられた。除外は適切。追跡率は100%
  • 集団特性(内的妥当性・外的妥当性): 64歳、BW75kg、BMI≧20が90%以上、APACHE23程度、敗血症が21.7% vs 22.1%の集団。
  • アドヒアランス: 後期PN群で15/2328人のプロトコールバイオレーションがあった。
  • 主要評価項目:
    ICU滞在日数: Late 3(2-7) vs 4(2-9) P=0.02
    ICU退室までの時間:HR 1.06(1.00-1.13) P=0.04
  • 副次評価項目
    ・ICU死亡・院内死亡・90日生存率は有意差なし
    ・後期PN群では感染が減少(後期群 22.8 vs 早期群 26.2% P=0.008)
    ・コレステロール減少頻度が少ない (22.8% vs. 26.2%, P=0.008、P<0.001)
    ・人工呼吸が2日以上必要な患者の割合は4.7%減少  (P=0.006)
    ・RRT期間の中央値は3日減少(P=0.008)
    ・コストは後期PN群で ?1,110 (about $1,600) (P=0.04)減少。

【Strength・Limitation】

  • Strength
  • 大規模
    ・多施設
    ・RCT
  • Limitation
    ・オープンラベル
    ・PNに用いた製剤にはグルタミンやその他の製剤が含まれていなかった
    ・タンパク質量が通常の栄養療法よりも低い
    ・カロリーの計算量に間接熱量計などを用いていない

【論文の結論】
集中治療患者に対して不十分なENを補うために行うICU入室後1週間以内の早期の軽静脈栄養は8日目までPNをまつ戦略に劣る。後期PNの方が感染が少なく、回復が早く、コストが少ない
・飛躍していないか
やや飛躍している。「ENだけでは栄養が不十分な集中治療患者に対して早期のPNを行うのと8日目までPNをまつ戦略とを比べてICU滞在日数は変わらない」がこの論文の結論。副次評価はいくつか差があるが、多重検定の問題があるためあまり強くはいえない。

【批判的吟味】
<内的妥当性>
オープンラベルのためパフォーマンスバイアスがある
結果に差はないがサンプルサイズ計算は適切で、症例数も足りている
ICU滞在
<外的妥当性>
心臓外科術後60%、腹部手術7.5%の集団でありほぼ術後患者といえる。
BMI<17の集団は除外されている。
血糖コントロールが80-110mg/dlと厳格なコントロールを採用しているが2009年のNICESUGAR trial1)でこの血糖目標値は否定されている

【Implication】
Figure2は美しいため必見
EN投与中にPNを足すか足さないかが大きな主眼点であり、単独PNを早期と後期で比べているわけではない。
ENが投与できていれば目標カロリー到達のためにPNを追加する必要はない。

【本文サイト】http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1102662#t=article

【もっとひといき】CALOLIES、NUTRIREA2

【引用】

1) The NICE-SUGAR Study Investigators* N Engl J Med 2009; 360:1283-1297March 26, 2009DOI: 10.1056/NEJMoa0810625


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このサイトの監修者

亀田総合病院
集中治療科部長 林 淑朗

【専門分野】
集中治療医学、麻酔科学