TITRe2
【論文】Murphy GJ, Pike K, Rogers CA, Wordsworth S, et al. TITRe2 Investigators.
Liberal or restrictive transfusion after cardiac surgery.
N Engl J Med. 2015 Mar 12;372(11):997-1008. doi:10.1056/NEJMoa1403612. Erratum in: N Engl J Med. 2015 Jun 4;372(23):2274. PubMed PMID: 25760354.
【Reviewer】山本良平
【Research Question】
成人の心臓血管外科術後患者において、赤血球輸血の戦略として制限輸血(Hb>7.5g/dl)と非制限輸血(Hb>9g/dl)のどちらが3ヶ月後の合併症やコストを減らすか
【わかっていること】
- 心臓外科周術期において、貧血は顧問で、合併症と死亡のリスクと相関する。
- 心臓外科手術での急性貧血に対しては赤血球輸血が好まれ、50%の患者が輸血を受ける。
- 観察研究では心臓外科手術において輸血により、感染、心拍出量低下、AKI、死亡などの害と関連する。
- 急性疾患や外科手術では制限輸血(例えば低いHbレベルで輸血)と非制限輸血では有害事象や30日死亡で差がないことがRCTで示されている。
- このため多くの疾患でガイドラインやステイトメントなどで制限輸血が推奨されている。
【わかっていないこと】
- 心臓外科術後において制限輸血と非制限輸血のどちらが優れているか
【仮説】
心臓血管外科術後患者において制限輸血戦略は非制限輸血戦略と比べて、合併症や死亡、医療費を減少する
【PICO】
P:16歳以上患者で非緊急の心臓外科手術を受けた患者
Inclusion Criteria: 16歳以上、80歳未満、心臓血管外科(バイパス手術、弁手術、大血管手術、うっ血性心疾患の修正手術)、同意取得、術後のHbが9.0g/dlもしくはHct 27%を下回った患者。
Exclusion Criteria: 宗教上の理由で輸血が困難、遺伝性もしくは二次性に赤血球輸血、血小板輸血を必要とする患者(鉄欠乏は除く)、繰り返す敗血症もしくは敗血症患者、四肢虚血のある患者、緊急心臓外科手術、他の介入研究に参加、インフォームド・コンセントを行えない患者
I: Hb7.5g/dl で輸血する制限輸血戦略
C: Hb9g/dl で輸血する非制限輸血戦略
O: 3ヶ月後の感染および虚血イベントの複合アウトカム
【期間】2009年7月?2013年2月
【場所】UK17施設の心臓外科センター
【デザイン】多施設、並行群オープンラベルRCT
- 事前プロトコルの有無:あり、NEJM
- ランダム化の方法:施設毎の層別ランダム化
- 隠蔽化の有無:あり、インターネットシステム(Sealed Envelope Ltd)を利用
- マスキングの有無と対象者:
評価者のみマスキング
介入者、看護師、患者はマスキングされていない
(ただし患者にどちらの群に割り付けられたと思うか確認しわかっていなかったことを確認している(退院時15.1%が気づいたと答えて75.6%が正解、3ヶ月後に27.5%が気づいたと答えて56.6%が正解))
【N】2007
【介入】制限輸血群では7.5g/dlを下回ったら1U輸血を行う
【対象】非制限輸血群ではランダム化後に1Uの輸血をすぐに施行する。以降はHb9.0g/dlを下回ったら直ちに輸血。
臨床医は戦略を守るようにするが、理由を記載すれば臨床医の判断で輸血することができる。術後管理は施設の方針に一任。
【主要評価項目】ランダム化後から3ヶ月以内の重症感染症(敗血症か創部感染)か虚血イベント(脳梗塞、心筋梗塞、腸管虚血、AKI)発症の複合アウトカム
【副次評価項目】輸血単位数、感染の発症率、虚血イベント、AKI、ICU滞在期間、HCU滞在期間、入院期間、全死亡、有害事象。6週間、3ヶ月後の健康状態(EQ-5D)、費用対抗効果
後に、肺合併症(NIV装着)を追加、
【解析】
- サンプルサイズ計算:先行研究から非制限群で11%、制限群で17%の腫瘍評価の差がうまれ、α5%、検出力90%で1468人と算出。ノンアドヒアランスを加味し2000例が必要と考えた。
- 交互作用の確認:あり
- 感度分析:あり
- ITTの有無:あり
【結果】
- フローダイアグラムの解釈(フォローアップ、除外):11483人がスクリーニングされ、8428人が組入基準を満たし、最終的に2007人がランダム化された。この過程(Supplementary Appnedix)では恣意的な除外はない。3ヶ月時点での脱落は25人で4.2%。
- 集団特性(内的妥当性・外的妥当性):
両群はほぼ同等。年齢の中央値は70.3歳で、68.5%が男性、BMI28、Euro SCORE5.0程度、透析患者は0.7%でほぼいない集団。40.7%がバイパス術、30.5%が弁手術、ランダム化前に25.7%が輸血を受け、8割はトランサミン投与をうけていた。退院までに15.1%が割付を知っていると思っており、75.6%が正解していた。制限輸血群で中央値1U、非制限輸血群で中央値2Uの輸血を受けていた。Hbの推移は以下
本文から引用
- アドヒアランス
制限輸血群で53.4%、非制限輸血群で92.2%が輸血されており、重篤なノンアドヒアランスは制限輸血群で9.7%、非制限輸血群で6.2%、すべてのノンアドヒアランスは30.0%と45.2%であった。 - 主要評価項目:制限輸血群35.1% vs 非制限輸血群 33.0% odds ratio, 1.11;95% CI, 0.91 to 1.34; P = 0.30
- 副次評価項目
感染: 25% vs 25% 有意差なし
虚血イベント: 14% vs 16% 有意差なし
ICU・HCU滞在期間: 有意差なし
肺合併症: 有意差なし
30日死亡: 2.6% vs 1.9% HR 1.38; 95% CI, 0.76-2.51; P=0.29
90日死亡: 4.2% vs 2.6% hazard ratio, 1.64; 95% CI, 1.00 to 2.67; P = 0.045 ARI1.61%, NNH63
EQ-5Dは有意差なし、
重篤な有害事象は35.7% vs 34.2% - サブグループ解析
制限群でAKIが多い傾向(odds ratio, 1.20; 95% CI, 1.00
to 1.44; P = 0.04)
輸血コスト: £287(479ドル)vs £427(713ドル)
3ヶ月の医療費:£10636 (17762ドル) vs £10814(18059ドル)
【Strength・Limitation】
- Strength
- 多施設
- ランダム化
- 心臓外科集団に対する大規模なRCT
- Limitation
- 介入者、看護者のマスキングはされていない。この点でパフォーマンスバイアスがあるかもしれない
- ノンアドヒアランスが非制限輸血群で多く、両群でノンアドヒアランスに差がある
- Cre値に関しては前向きにデータ取得できなかった。
【論文の結論】
心臓血管外科術後の制限輸血戦略と非制限輸血戦略を比較した結果、合併症やコストの面で制限輸血戦略は非制限輸血戦略よりも優れなかった。
- 飛躍していないか
飛躍していない
【批判的吟味】
<内的妥当性>
- よくデザインされたRCTである
- マスキングされていない
- 患者をマスキングしたわけではないが、75%程度が気づいていなかった。
- ITTされている、脱落もすくない
- 感度解析もされている
- 交互作用も検討されている
- 複合アウトカムであること
<外的妥当性>
心臓外科術後として一般的な集団であり適用可能
【Implication】
TITRe2研究では7.5g/dlで輸血する制限輸血戦略と9.0g/dlで輸血する非制限輸血戦略を比較し、感染・虚血イベントの複合アウトカムを改善しなかった。
今回の研究では長期生存で差がついたが、サブグループ解析であり、解釈に慎重になる必要がある。なぜなら、検定を繰り返せば、5%はPositiveになる可能性があるからだ。他のサブグループには差がつかなかったのになぜ死亡だけ差がついたのだろうか。通常、輸血がたらない→酸素供給が下がる→虚血イベント→死亡を想起するが、副次評価で虚血イベントが増えているわけではない。また個人的感覚ではあるが輸血量が中央値1U vs 2Uで死亡に差が出るというのはいささか信じがたい。
長期生存では非制限輸血戦略の方が予後が良いのではないかという仮説が立つが、まだ仮説段階と言える。一方で、死亡のアウトカムの変化はインパクトがおおきく、コストも200ドル程度の差で合併症は増えないのであれば、心臓血管外科輸血のターゲットを9.0g/dlにしておくというのは妥当な戦略である。
【本文サイト】
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1403612#article_supplementary_material
【もっとひといき】
- Letter http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1403612#article_letters
- TRICC 工事中
- TRISS 工事中
- TRICS3 工事中
【引用】
- The Bottom line http://www.thebottomline.org.uk/summaries/icm/titre2/
このサイトの監修者
亀田総合病院
集中治療科部長 林 淑朗
【専門分野】
集中治療医学、麻酔科学