ROSE
【論文】
Early Neuromuscular Blockade in the Acute Respiratory Distress Syndrome.
The National Heart, Lung, and Blood Institute PETAL Clinical Trials Network, et al.
N Engl J Med. 2019 May 23;380(21):1997-2008. doi: 10.1056/NEJMoa1901686. Epub 2019 May 19. PMID:31112383
【Reviewer】Kenta Ogawa
【Summary】
- high PEEPで管理された中等〜重症ARDS患者(P/F<150)において早期から深鎮静とcisatracuriumの48時間持続投与をしても、浅鎮静で管理した群と比較して90日院内死亡率を有意には下げない。
- 中等〜重症ARDS患者(P/F<150)に深鎮静とcisatracuriumの48時間持続投与をしても、ICUAWは増加させない。
【Research Question】
- 中等〜重症ARDS患者(P/F<150)に対し早期から深鎮静とcisatracuriumの48時間持続投与をすることで浅鎮静患者と比較して死亡率を改善させるか。
【わかっていること】
- 中等〜重症ARDS患者(P/F<150)にcisatracuriumの48時間持続投与をすると120時間後のP/F比を有意に改善する。(1
- 中等〜重症ARDS患者(P/F<150)にcisatracuriumの48時間持続投与をすると炎症性サイトカインを減らす。(2
- low PEEPで管理された中等〜重症ARDS患者(P/F<150)において早期から深鎮静とcisatracuriumの48時間持続投与をすると、同様に深鎮静で管理した群と比較して90日院内死亡率を有意に減少させる。(3
【わかっていないこと】
- 中等〜重症ARDS患者(P/F<150)において早期から深鎮静とcisatracuriumの48時間持続投与をすると、浅鎮静で管理した患者と比較して死亡率を改善するかどうかはわかっていない。
【仮説/目的】
中等〜重症ARDS患者(P/F<150)に対し早期から深鎮静とcisatracuriumの48時間持続投与をすることで浅鎮静患者と比較して90日院内死亡率を改善させる。
【PICO】
P:18歳以上のPEEP≧8でP/F<150のARDS患者
Inclusion Criteria:
気管挿管され人工呼吸管理を受けてから48時間未満で以下の基準を満たす患者
1、PEEP≧8でP/F<150mmHg
2、the Berlin definitionを満たす(胸部画像で両側性 浸潤影+心不全や溢水で説明のつかない呼吸不全)
Exclusion Criteria:
妊婦
ECMO
1年以内の骨髄移植
血管炎によるびまん性肺胞出血
cisatracuriumに対するアレルギー
6ml/理想体重(kg)を使用したくない
頭蓋内圧更新に対して治療を受けている
他のARDS関連trialに参加
ランダム化前にP/F>200
筋弛緩薬増強または自発呼吸を減じる神経筋疾患患者
enrollment時に持続性の筋弛緩薬が既に使用(ARDSに対して以外での使用を除く筋弛緩薬の2回のボーラス投与 or 3時間以上の持続静注)
全体表面積70%を超える熱傷
重度慢性肝不全(Child-Pugh=12-15)
在宅人工呼吸器使用(睡眠関連は除く)
肥満(実体重>1kg/cm of height)
informed consentが得られていない
人工呼吸器気管が48時間未満と見積られる
延命希望なし(心肺蘇生以外full codeは除く)
慢性呼吸不全患者(PaCO2>60mmHg)
24時間以上生存しないと見積もられる
気管挿管が120時間より長い
肺移植待ち
I:深鎮静をしながらcisatracuriumを48時間投与
C:浅鎮静を含めた一般的な管理
O:90日院内死亡率
【期間】2016年1月〜2018年4月
【場所】米国の48病院
【デザイン】multicenter, prospective, randomized, open-label trial
- 事前プロトコールの有無:有(NCT02509078)
- ランダム化の方法:中央コンピュータによるランダム化、ランダムブロックランダム化、施設ごと層別ランダム化
- 隠蔽化の有無:中央割付
- マスキングの有無と対象者:統計処理と長期フォローアップ評価者は有り。治療医、看護師などの医療者は無し。
【N】1006人
【介入】
- 介入群:深鎮静をしながらcisatracuriumを48時間投与
- コントロール群:浅鎮静を含めた一般的な管理
※両群で共通してlow tidal volume ventilation、high PEEP、輸液制限が行われた。
※腹臥位、48時間を超えた筋弛緩薬投与は各臨床医の判断に任された。
※プラトー圧>30の場合は両群でcisatracuriumのボーラス投与が許容された。
【対象】18歳以上のPEEP≧8でP/F<150のARDS患者
【主要評価項目】90日院内死亡率
【副次評価項目】
- 臓器障害(SOFA)
- 28日院内死亡率
- Days free of organ dysfunction
- 非ICU滞在日数
- 人工呼吸器離脱期間
- 28日目での非病院滞在日数
- 3・6・12ヶ月後の生存やADL、認知機能など
【主要安全性評価項目】
- Recall of paralysis (the modified Brice questionnaire)
- 28日目までのICUAW(MRC scale)
- 身体活動の制限(the ICU Mobility Scale)
- 新規Af or 上室性頻拍
- Barotrauma
- Investigator-reported adverse events
【解析】
- サンプルサイズ計算:1408人
介入群の死亡率27%(先行研究からの見積もり)
コントロール群の死亡率35%(先行研究+疫学研究からの見積もり) power=90%, α=0.05 - ITTの有無:有
primary end pointはWald test - 中間解析:有
どちらかの群が優越性を示したら終了 - Pre-specified analyses
ARDSの重症度(P/F <120 mm Hg or ?120 mm Hg)
ARDSの期間(inclusion からランダム化までのthe median timeよりも長い or 短い)
Enrollment時に筋弛緩薬の使用があり除外された患者が多い施設 or 少ない施設 - Interactions
性別、人種、ethnic group
【結果】
- フローダイアグラムの解釈(フォローアップ、除外)
4848人がeligibilityを評価され、3840人が除外(P/F比がランダム化時点で改善、enrollment時に筋弛緩薬を使用など)された。1008人がランダム化されたが各群で介入前に脱落したため1006人がprimary outcomeの評価を受けた(介入群:501人、コントロール群:505人) - 集団特性(介入群/コントロール群)
年齢:56.6/55.1歳, 女性:41.9/46.7%, ショック 55.1/61.2%, enrollment〜ランダム化:8.2/6.8時間, inclusion〜ランダム化までのNMB使用:11.4 vs 10.3%, 背景疾患(肺炎:58.3/59.%, 誤嚥:18.2/14.9%, 敗血症:13.6/14.1%), APACHE:103.9/104.9, SOFA:8.7/8.8, P/F:98.7?99.5
※下線部は有意差がついた項目 - アドヒアランス
介入群:501人中13人が最初の48時間でcisatracuriumの投与を受けず
コントロール群:505人中86人が最初の48時間で筋弛緩薬の投与を受けた
TV:両群とも6ml/理想体重(kg)前後
high PEEP:両群とも遵守率65-75%程度(Day1, 2では介入群で有意に高い) - adjunctive therapy(介入群/コントロール群)
腹臥位:16.8/14.9%, ECMO:0.6/2.0% - 主要評価項目: 90日院内死亡率(介入群/コントロール群)
両群で有意差なし(42.5/42.8%[Between-group difference -0.3: 95%CI -6.4 to 5.9, P=0.93]) - 副次評価項目(介入群/コントロール群)
すべて有意差なし
28日院内死亡率(36.7/37.0%), 28日人工呼吸器離脱期間(9.6/9.9days), 28日非ICU滞在日数(9.0/9.4days), 28日非病院滞在日数(5.7/5.9days) - 主要安全性評価項目
28日目でのICUAWが介入群で有意に多い(46.8/27.5% ([Between-group difference-19.4,: 95%CI -38.2 to -0.6])
心血管関連の重度副作用が介入群で有意に多い(14/4件, P=0.02)
上記以外で有意差はなし - 長期フォロー(12ヶ月時点)
身体的ADL, 心的トラウマ, 認知機能, 日常活動に与える影響(ADL, IADLなど)に有意差なし
【Strength・Limitation】
- Strength
プロトコールに対する遵守率が高く、筋弛緩薬使用のクロスオーバーも少なかった - 先行研究(ACURASYS trial)と結果が異なった要因
1, 両群でhigh PEEPを用いたこと。high PEEPは死亡率を低下させるかもしれず、筋弛緩薬の潜在的な治療効果が鈍った可能性
2, コントロール群がACURASYSと違い浅鎮静であること。介入群で心血管関連の重度副作用が多かったのは深鎮静の結果の可能性があり、結果としてコントロール群で死亡率が減った可能性がある。
3, 腹臥位が死亡リスクを減らした。このtrialでの腹臥位は最近の疫学研究と同等であったが、ACURASYS trialより少ない。 - Limitation
1, Enrollmentの段階で筋弛緩薬が使用されていたことで多くの患者が除外された(N=655)。治療医が筋弛緩薬でより利益が得られる患者に投与した可能性が示唆された。しかし、上記理由でほとんど患者が除外されていない施設に限って検討しても予後は変わらなかった。
2, 人工呼吸器不同調の改善が筋弛緩薬投与による死亡率改善の要因である可能性があるが、それをsystematicに測定することは困難でありかつ今回は測定されていない。しかし、筋弛緩薬は本質的に不同調を改善するためその懸念は不要。
3, 盲検化が不十分。看護師、治療医、他の医療スタッフが割付を知っている。特に患者の身体能力評価や副作用に影響を与えた可能性あり。
【論文の結論】
high PEEPで管理された中等〜重症ARDS患者(P/F<150)において早期から深鎮静とcisatracuriumの48時間持続投与をしても、浅鎮静で管理した群と比較して90日院内死亡率を有意には下げない。
・飛躍していないか:していない
【批判的吟味】
<内的妥当性>
○Strength
- ランダム化試験
- enrollからランダム化が早い
- ARDSの予後に影響を与える治療介入に対しては両群で適切にプロトコール化されかつ遵守率も高い。その他の治療介入についても両群で大きな差はない。
- 介入自体は筋弛緩薬の用量調整なし。鎮静も適切なスコアリングで調整されている。再現性は高い。
- Primary outcomeは死亡率であり客観性が高い。
- 介入群での非介入はごく一部。
○Weakness
- 中間解析で終了。事前に決められていない基準で終了した。
- 筋弛緩薬の延長およびその際の選択が臨床医に委ねられた
- open label trial
- ランダム化前に多くの患者が除外されている
<外的妥当性>
○Strength
- コントロール群を浅鎮静にした(より実臨床に近いコントロール群)
- 腹臥位療法の比率が妥当
- 背景疾患も肺炎が多く一般疫学とも合致している。
○Weakness
- cisatracuriumが本邦で使用できない
- アジア人の割合が不明
- 年齢層がやや若年
- 比較的よく遭遇する慢性呼吸不全の患者が除外されている
【Implication】
- 中等〜重症ARDS患者(P/F<150)へルーチンでのcisatracurium投与は?勧められない
- 少なくとも48時間以内の使用はICUAWを長期的にみても増加させなそうで使用にそこまで躊躇する必要はなさそう
- cisatracuriumが本邦で使用できずそれが最大限の懸念
山本追加コメント
ARDSの治療選択肢として、Hihg PEEP、Low tidal、pPlat<30、輸液制限戦略、Prone position、筋弛緩薬、VV-ECMOがあるが、今回はVV-ECMO以外の要素を揃えてのRCTである。アドヒアランスをみると、High PEEP, Low tidal, pPlat,輸液量、Prone positionの割合は両群で同等であり、筋弛緩薬の有無で転帰に差が出るかが比較可能な状態にできているといえる。難しいのは、筋弛緩薬の有無とは、筋弛緩薬有りと浅い鎮静ないし無鎮静の比較になるということだ。筋弛緩薬は深鎮静の最たるもので、これと浅い鎮静を比較したといってもいいだろう。ACURASYSでは筋弛緩薬使用で死亡が改善したが、対照群では深鎮静がされていた。つまり筋弛緩薬+深鎮静>深鎮静単独というのがACURASYSの結果である。
今回のROSE trialからは浅い鎮静≧筋弛緩薬+深鎮静>深鎮静単独ということが言えるのかもしれないが、非同調が測定されてらず、どのくらい非同調を抑えたらいいのかの疑問は解決されない。
問題は、非同調で浅い鎮静管理ができない時であり、このような集団での浅い鎮静(非同調を無視する) vs 深鎮静(非同調をなるべく抑える) vs 深鎮静+筋弛緩薬(非同調をなくす)というのが気になるところである。
これまでは日本で使える筋弛緩薬がcisatracuriumでなくステロイド環をもつロクロニウムであり、よりICU-AWを発症する懸念があること、浅い鎮静で管理することが多いことから、筋弛緩薬を使うpracticeはほとんどしてこなかったが引き続き、ARDSに対しては筋弛緩薬投与をルーチンに行わない診療をしていくつもりだ。
【本文サイト】
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1901686
【もっとひといき】PReVENT study
【引用】
1. Crit Care Med 2004;32(1):113-9.
2. Crit Care Med 2006;34(11):2749-57.
3. N Engl J Med 2010;363:1107-16.
このサイトの監修者
亀田総合病院
集中治療科部長 林 淑朗
【専門分野】
集中治療医学、麻酔科学