SCARLET

post53_1.jpg【論文】
Effect of a Recombinant Human Soluble Thrombomodulin on Mortality in Patients With Sepsis-Associated Coagulopathy The SCARLET Randomized Clinical Trial
JAMA. 2019;321(20):1993-2002.
PMID:31104069

【Reviewer】Hideki Ueda, Toshiyuki Karumai

【Summary】

  • 凝固障害がある敗血症患者にrTM投与しても、プラセボ群と比べて28日全死亡率は改善しない。

【Research Question】

  • 凝固障害がある敗血症患者にrTM投与すると28日全死亡率は改善するか。

【わかっていること】

  • 敗血症は重症患者の死亡原因として最も頻度が高い。1)
  • 敗血症の生物学的経路をターゲットにした様々な治療が試されたが、死亡率には影響しない。2)3)4)
  • 敗血症で凝固障害を伴う場合は死亡率が高くなる。 5)
  • rhsTM(トロンボモジュリン遺伝子組み換え型製剤)はトロンビンと結合して抗トロンビン作用を発揮する。加えてトロンビン-トロンボモジュリン複合体が凝固阻止因子であるプロテインCを活性化させることで抗凝固活性を発揮する。また炎症や臓器損傷を抑制する。7)8)9)10)11)
  • 感染症、少なくとも1つの臓器障害(循環,呼吸)、凝固障害がある場合、rhsTM投与群で死亡率が減るかもしれない。1)2)

【わかっていないこと】

  • rhsTMは凝固障害がある敗血症患者の死亡率を減らすかは不明。

【仮説/目的】

  • 凝固障害がある敗血症患者へのrTM投与は28日死亡率を低下させる。

【PICO】
P 18歳以上の凝固障害がある敗血症患者

Inclusion Criteria
1) ICU/急性期ケア(ERなど)で治療を受ける
2)

  • 細菌感染がある
  • 点滴で抗菌薬治療
  • WBC>12000 もしくは <4000 もしくは(>10%)
  • 体温<36℃ もしくは >38℃

3) 少なくとも1つ臓器障害(循環不全もしくは呼吸不全)がある

  • 循環不全:MAP>65維持するのに適切な輸液と昇圧剤の両方が必要な状態。
    -適切な輸液(1.もしくは2.):1. 6時間以内に少なくとも晶質液20mL/kg もしくは 膠質液10mL/kg投与
                 2. CVP>8もしくはPAWP>12
    -昇圧剤:ドパミン使うなら5γ以上で用いる、バソプレシン使うなら他の昇圧剤と一緒に用いる
  • 呼吸不全:人工呼吸器が必要な状態でP/F比<250(もしくは呼吸器感染があればP/F比<200)

4) 凝固障害がある(PT-INR>1.4、抗凝固薬や肝硬変などの他の要因がない)
5) 血小板減少を伴う(3-15万 もしくは 24時間以内に30%以上の低下)

Exclusion Criteria

  1. 同意を得られない
  2. 妊婦もしくは授乳中もしくは研究参加28日以内に妊娠する可能性がある
  3. 入院後に出産する可能性があるもしくは妊娠反応陽性
  4. 18歳未満
  5. ART-123もしくは他の薬剤にアレルギーがある
  6. 輸血を希望しない
  7. 患者自身が医学的な決定できない状態
  8. 以前ART-123の治療を受けた
  9. 体重>175kg
  10. 敗血症が原因ではない血小板減少(<3万)やPT延長
  11. 参加前12時間以内の出血を引き起こすような手術(開胸術、開腹術や非外傷性整形外科手術(大腿骨や骨盤))
  12. 3ヶ月以内に出血リスクある外傷既往あり(頭部外傷、脊髄外傷など)
  13. 3ヶ月以内の脳血管障害
  14. AVM,脳動脈瘤や脳腫瘍の既往
  15. 先天的出血素因ある人(血友病、遺伝性出血性毛細血管拡張症など)
  16. 6週間以内の内視鏡的止血が必要な消化管出血
  17. 過凝固状態
    -プロテインC活性/V因子活性低下
    -プロテインC/S欠乏症
    -抗カルジオリピン抗体、抗リン脂質抗体、プロトロンビン遺伝子変異
    -3ヶ月以内のDVT/PE
  18. 肝硬変もしくは慢性肝障害(Child-Pugh C 10-15)
  19. 門脈圧亢進症や食道静脈瘤出血の既往
  20. 6ヶ月以内に臓器移植
  21. 感染合併していない急性膵炎
  22. 腎障害
    -透析導入中
    -急性腎障害(研究参加前に48時間以上の乏尿(<0.3mg/kg/hr)がある、透析は問わない)
  23. 72時間以内の抗凝固薬、抗血小板薬、抗血栓薬、血栓溶解薬の使用(下記除外)
    -ヘパリンロック/フラッシュ
    -DVT予防
    -アスピリン325mgまで(心疾患予防のみ)
    -RRTのための抗凝固薬
  24. 90日未満の生命予後(悪性腫瘍、慢性呼吸障害、心停止前、終末期の神経疾患)
  25. 骨髄抑制を引き起こすような化学療法中
  26. 他研究への参加(研究参加前30日以内、研究参加後28日以内)
  27. 感染性心内膜炎(疑いも含めて)

I rhsTM(0.06mg/kg/day 6日間)
C プラセボ(0.9%生理食塩水)
O 28日全死亡率

【期間】2012年10月〜2018年3月

【場所】26か国159施設のICU(北米、ヨーロッパ(イスラエル含めた)、南米、アジア/オセアニア(日本を除く)、ロシア)

【デザイン】

  • 多国間 多施設 二重盲検 無作為 プラセボ対照 並行群間比較試験
  • 事前プロトコルの有無:有 NCT01598831
  • ランダム化の方法:1対1割り付け、ブロック法(block size 4)、IVRS/IWRS(interactive voice/web response system)
  • 隠蔽化の有無:有
  • マスキングの有無と対象者:二重盲検(患者、介入者(専従看護師もしくはICU看護師))
  • COI:Asahi KASEI

【N】800人

【介入】rhsTM(0.06mg/kg/日(最大用量6mg/日)6日間)

【対象】プラセボ群(0.9%生理食塩水 50mL)
投与方法:
・アンプルは2-8℃で保存 
・保存中は遮蔽
・50mL生食に溶解して15分かけて
・他の薬剤と同じ静脈ルートから行く必要があれば、少なくとも5mL0.9%前後フラッシュ

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【主要評価項目】
■Efficacy
・28日全死亡率
■Safety
・28日以内の有害事象
・28日以内の重篤な出血
 -頭蓋内出血
-生命を脅かす出血
-評価者が深刻だと判断した出血
-2日連続6単位以上の赤血球輸血が必要な出血

【副次評価項目】
■Efficacy
・3ヶ月 全死亡率
・28日以内の臓器障害改善
-ショック離脱期間
-人工呼吸器離脱期間
-透析離脱期間
■Safety
・rhsTMのADA(抗薬物抗体)

【探索的評価項目】

  • 凝固:D-dimer、プロトロンビンF1、2、TAT
  • 炎症:CPR、微小粒子、C5a
  • rhsTM濃度
  • 臓器障害
  • 副作用

【解析】

  • サンプルサイズ計算:800人(28日死亡率(非介入群)が24%とした時、28日死亡率(介入群)が16%と想定。α level 0.05、1-β level(=Power) 0.8)
  • ITTの有無:有
  • 中間解析:有

【結果】

  • フローダイアグラムの解釈(フォローアップ、除外)
    946人が組み入れて130人が除外。除外理由は適切。816人がランダム化され、16人がランダム化の失敗で除外。395人がrhTM投与群、405人がプラセボ群。
  • 集団特性(内的妥当性・外的妥当性)
    両群間に差はない。
    平均年齢 63/62歳、男性 54.7/54,6%、平均INR 1.8/1.8、平均血小板 123/121×102/L、平均APACHE score 22/22、 感染源:腹腔内感染 31.1/29.4%、ヘパリン使用 51.4/52.6%
  • 主要評価項目:
    ■Efficacy
    28日死亡率 rhsTM群 106/395(26.8%) vs プラセボ群 119/405(29.4%)
    Absolute risk difference 2.55%(95%CI,-3.68% to 8.77%)
    ■Safety
    28日以内の重篤な出血 rhsTM5.8%(23/396) vs Placebo 4.0%(16/404)
  • 副次評価項目:

【Strength・Limitation】

  • Strength
    1.多国間多施設二重盲検ランダム化試験
    2.主要評価項目はハードアウトカム
  • Limitation
    1.サンプルサイズが不十分
    2.サブグループ事後解析は当初予定されておらず、解析には注意する必要がある
    3.最後のフォローアップがまだ終わっておらず、データ収集が進行中で長期間の死亡率などのいくつかのエンドポイントはまだ解析されていない

【論文の結論】

  • 飛躍していないか:いない

【批判的吟味】
<内的妥当性>
●positive
・二重盲検/ランダム化比較試験
・隠蔽化:有
・患者背景:同等
・ITT解析
●negative
・ヘパリン(DVT予防)が5割で使用
<外的妥当性>
●positive
・多国間 多施設(ただし日本は含まれていない)
●negative
・除外項目が多い
・凝固障害の定義が急性期DICスコアとは異なる
・敗血症の診断基準がsepsis-3ではない

【Implication】
・凝固障害のある敗血症患者にはrhTMを使わない

【本文サイト】https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2733995

【もっとひといき】

【引用】

1) N Engl J Med. 2003;348(16):1546-1554.
2) N Engl J Med. 2012;366(22):2122-2124.
3) N Engl J Med. 2012;366(22):2055-2064.
4) Crit Care Med. 2014;42(7):1714-1721.
5) Crit Care Med. 2018;46(5):736-742.
7) Cardiovasc Drug Rev. 2006;18(4):312-325.
8) Thromb Haemost. 1999;82(6): 1687-1693.
9) Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2008;28(10):1825-1830.
10) Curr Drug Targets. 2012;13(3):421-431.
11) PLoS One. 2013;8(9):e75961.
12) Crit Care Med. 2013;41(9):2069-2079.


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このサイトの監修者

亀田総合病院
集中治療科部長 林 淑朗

【専門分野】
集中治療医学、麻酔科学