SPICE-3

post55.jpg【論文】Early Sedation with Dexmedetomidine in Critically Ill Patients. Yahya Shehabi, et al. The New England Journal of Medicine. May 19, 2019
PMID:31112380 DOI:10.1056/NEJMoa1904710

【Reviewer】 Ami Fukumoto, Toshiyuki Karumai

【Summary】

  • ICUの人工呼吸管理の重症患者において、デクスメデトミジンの単剤あるいは第1選択薬としての早期投与はその他一般の鎮静薬と比較して90日死亡率を低下させなかった。
  • デクスメデトミジンは単剤、あるいは第1選択薬としては至適鎮静レベルを達成するのに不十分であり、他の鎮静薬と比較して低血圧・徐脈といった副作用が多かった。

【Research Question】
デクスメデトミジンは人工呼吸管理患者の初期鎮静薬として有用か、また単剤投与が可能か?

【わかっていること】
人工呼吸管理導入時は深鎮静になりやすく、抜管までの期間延長と死亡率増加に影響する。 (SPICE study)
DEXは適度な覚醒を保ちつつ使用できる鎮静薬として抜管までの期間短縮やせん妄を削減させる。
低血圧、徐脈の副作用がある。

【わかっていないこと】
人工呼吸器管理における鎮静薬の第一選択薬は定まっていない。
デクスメデトミジンによる浅鎮静の生命予後や認知機能への影響は不明である。

【仮説/目的】
人工呼吸器管理の重症患者でデクスメデトミジンによるEarly Goal-Directed Sedationは90日後の全死亡率を改善させる。

【PICO】
P:人工呼吸器管理を要するICU患者
Inclusion Criteria:

  1. 気管挿管による人工呼吸管理をされている
  2. 翌日以降も人工呼吸管理が必要
  3. 安全・安静のため早急に持続的な鎮静薬使用が必要

Exclusion Criteria:

  1. 18歳未満
  2. 妊婦・授乳中
  3. 組み入れの時点で人工呼吸時間が(手術・移送時間を除いて) 12h以上
  4. 急性の脳損傷(頭部外傷・頭蓋内出血・低酸素脳症など)
  5. 脊髄損傷などによる長期的な脱力
  6. 薬剤過量投与・熱傷
  7. 筋弛緩薬の持続的な投与
  8. 十分な蘇生処置と昇圧剤使用にも関わらずMAP<50mmHg
  9. β-ブロッカーの使用orペースメーカー未使用の高度AV-Block以外の原因でHR<55
  10. 本研究で使用する薬剤に対するアレルギー
  11. 劇症肝炎
  12. ADL全介助
  13. 生命予後が悪く、担当医、患者、意思決定代理人が積極的治療を望まない
  14. 基礎疾患で90日以上の生存が見込めない
  15. 以前のSPICE研究に組み込まれている

I:デクスメデトミジンによる鎮静導入
C:デクスメデトミジン以外の鎮静
O: 90日後の全死亡率

【期間】2013/11-2018/2

【場所】8カ国のICU71箇所
Australia, Ireland, Italy, Malaysia, New Zealand, Saudi Arabia, Switzerland, and the United Kingdom

【デザイン】prospective, multinational, open-label, randomized, controlled trial

  • 事前プロトコルの有無:あり
  • ランダム化の方法 : block randomization with variable block sizeで1:1割付

Stratificationは施設と敗血症の有無

  • 隠蔽化の有無:あり password-protected website
  • マスキングの有無と対象者: なし

【N】4000人

【介入】

  • デクスメデトミジン1mcg/kg/hで鎮静導入
  • デクスメデトミジンは1.5mcg/kg/hまで増量可
  • それ以上の鎮静が必要な場合はプロポフォールの追加を許容する

【対象】

  • 担当医判断でプロポフォールやミダゾラムで鎮静
  • 原則DEXは禁止だが、上記薬剤でコントロール不能な不穏などにDEXのレスキューが可能

※介入群・コントロール群の両群

  • クロニジンとレミフェンタニルの使用禁止
  • 使用中の鎮静薬で不十分なときは抗精神病薬(ハロペリドール、クエチアピン)は活動型せん妄に投与可能
  • 鎮静目標:RASS-2から+1(4時間ごとに評価)

【主要評価項目】
90日後の死亡率

【副次評価項目】
180日後の死亡率
療養型病院あるいはリハビリ病院への転院率
180日後の認知機能(IQCODEの平均値)
180日後の健康関連QOL(EQ-5D-3Lの平均値)
28日後までの非昏睡・非せん妄状態の日数の中央値
28日後までの呼吸器離脱状態の日数の中央値

【解析】

・サンプルサイズ計算
90日死亡率をコントロール群26%、デクスメデトミジン群21.5% (ARR4.5%) と推定。
αエラー 0.05、power 90%:サンプルサイズ 3750人
5%の脱落を許容:ターゲットサイズ 4000人

・ITT解析
2項アウトカムはロジスティック回帰(オッズ比)とbinominal regression with an identity-link(リスク比)、敗血症・施設条件で調整
連続変数のアウトカム:分位点回帰(中央値)
認知機能とQOL:敗血症の有無で調整した線形回帰
感度分析:あり
患者背景情報で両群間に有意差があった項目を共変数として調整したロジスティック回帰

【結果】

・フローダイアグラムの解釈(フォローアップ、除外)
29502人がスクリーニングされ、除外基準に基づき25502人が除外された。4000人がランダム化され、2001人がデクスメデトミジン群、1999人がコントロール群に割り付けられた。その後デクスメデトミジン群で53人、コントロール群で43人が同意撤回、フォローアップデータ不足で除外されそれぞれ1948人と1956人の結果が評価された。

・集団特性(介入群/コントロール群)
年齢(61.2歳/61.4歳)、男性(60.6%/62.7%)、体重(81.8kg/83.5kg)、APACHEIIスコア(22.1/21.9)、敗血症の有無(63.9%/64.0%)、ランダム化までの時間(4.7h/4.4h)、インスリン使用の糖尿病(9.5%/10.4%)、ICU入室理由(外科;内科=27.4%/28.0%; 72.6%/72.0%)

・アドヒアランス:?

・主要評価項目:90日後の全死亡率はデクスメデトミジン群で29.1%、コントロール群で29.1%(P=0.98)

・副次評価項目:
非せん妄・非昏睡日数や非人工呼吸器管理日数がデクスメデトミジン群で1日長かった
(それぞれ24日vs. 23日、23日vs. 22日)
その他項目に有意な差はなかった。

【Strength・Limitation】

Strength

  • 多施設多国籍大規模ランダム化比較試験
  • 主要評価項目がハードアウトカム

Limitation

  • 使用薬剤の盲検化なし
  • 深鎮静を必要とする患者を除外していない
  • どちらの群も鎮静薬を複数種類使用されている
  • 鎮静薬のdaily interruptionを必須としていない
  • 昇圧剤の使用、輸液量、腎代替療法などのICU管理を評価していない

【論文の結論】

  • ICUの人工呼吸管理の重症患者においてDEXの単剤あるいは初期治療としての早期投与は90日死亡率を低下させなかった。
  • DEXは単剤、あるいは第1選択薬としての使用では至適鎮静レベルを達成するのに不十分であり、従来の鎮静薬と比較し低血圧・徐脈といった副作用が多かった。

【批判的吟味】

<内的妥当性>

  • 盲検化されていないため情報バイアスが懸念される(ハードアウトカムを扱っているので影響は小さいかもしれない)。
  • 両群で鎮静薬が多剤併用されており、純粋なDEX vs.その他の鎮静薬の比較ではない。特に介入群ではデクスメデトミジン単剤投与で鎮静を得るのは困難で、プロポフォールが86%の患者で追加されている。

<外的妥当性>

  • 多施設・多国籍RCTである
  • 鎮静のプロトコールが現実的
  • 日本の添付文書の使用量と異なる
  • 臨床上深鎮静の必要な患者も含まれており、この患者群に浅鎮静プロトコルを当てはめることには疑問がある

【Implication】

  • DEX単剤での管理は十分な鎮静が得られず、有害事象も多かった。
  • 死亡率への影響はなく、副次評価項目でみられたせん妄・昏睡期間の減少や抜管までの日数短縮効果も1日程度であり、DEXを鎮静の第1選択薬に採用するには至らない。
  • 年齢で交互作用があり、高齢者のサブグループでDEX群の死亡率が低下していた。今後高齢者をターゲットにした研究が組まれることが期待される。
  • この研究によって、ルーチンでの鎮静は行わず第1選択としてプロポフォールを使用する当ICUのプラクティスは変わらない。

【本文サイト】

https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa1904710

【もっとひといき】SKY-DEX

【参考】

  • Early Intensive Care Sedation Predicts Long-Term Mortality in Ventilated Critically Ill Patients [Sedation Practice in Intensive Care Evaluation (SPICE) Study]
  • https://www.atsjournals.org/doi/full/10.1164/rccm.201203-0522OC

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このサイトの監修者

亀田総合病院
集中治療科部長 林 淑朗

【専門分野】
集中治療医学、麻酔科学