脊髄腫瘍

1.脊椎および脊髄について

 脊柱は7個の頚椎、12個の胸椎、5個の腰椎、5個の仙椎が一体となった仙骨、および3〜5個の尾椎により構成されています。脊柱は頭部および体幹を支える支持組織であり、また可動性のある運動組織でもあります。さらに、脊柱のほぼ中心に中枢神経である脊髄を納め、これを保護しています。
 脊髄は脳とともに中枢神経系に属する神経組織です。全体の長さは約40〜45cmあり、断面は直径が約1cmの楕円形をしています。頚髄・胸隋・腰髄・仙髄・尾髄に大別されており、それぞれ8、12、5、5、1髄節を有し、各髄節から左右1対ずつの脊髄神経がでています。脊髄は外側より丈夫な結合組織である硬膜、薄い半透明なくも膜および軟膜と呼ばれる、3層の膜に包まれています。くも膜下腔は脳脊髄液で満たされています。

2.脊髄腫瘍について

 脊柱を構成する椎骨、脊髄を保護している膜組織、脊髄実質や脊髄神経から発生した腫瘍を、脊椎・脊髄腫瘍と総称しています。脊椎・脊髄腫瘍の発生頻度は、毎年人口10万人に対し1〜2人程度と推定されています。同じ中枢神経系の腫瘍である脳腫瘍の1/10?15程度の頻度です。脊椎・脊髄腫瘍は発生した場所により、硬膜外腫瘍(硬膜の外側に発生した腫瘍)、硬膜内髄外腫瘍(硬膜の内側で、脊髄実質外に発生した腫瘍)、髄内腫瘍(脊髄実質内に発生した腫瘍)に大別されます。おおざっぱに言って、硬膜外腫瘍が約半数、残りの70%が硬膜内髄外腫瘍、30%が髄内腫瘍といわれています。腫瘍の発生場所により腫瘍の種類や治療方針が異なります。
 多くの患者さまは、腫瘍の発生した脊髄の場所に一致した、様々な強さ・性質の頚部痛・背部痛・腰痛で発症します。脊髄神経に一致した痛み(根性疼痛)やしびれ感などで発症することもあります。比較的良性の腫瘍では数ヶ月?数年の経過で、悪性腫瘍では数週間?2ヶ月ほどの経過で、歩行障害・上肢の巧緻運動障害・知覚障害など脊髄症状が出現してきます。悪性度の高い腫瘍や腫瘍内に出血した時などは、症状が急速に進行することがあります。MRIが診断の決め手になりますが、腫瘍の種類まで鑑別することは必ずしも容易ではありません。術前の神経症状が進行した場合、手術も困難になり術後回復も思わしくないため、早期診断・治療が望ましいと考えています。

3.硬膜内髄外腫瘍

 硬膜内で脊髄の外に存在する腫瘍をいいます。脊髄や神経根を圧迫して症状を発現します。組織学的には、神経鞘腫が最も多く、次に髄膜腫が続きます。この他、稀ですが、類皮腫、類上皮腫、転移性腫瘍なども発生します。

神経鞘腫・神経線維腫について
 神経鞘腫は、全脊髄腫瘍の約30%を占め、最も頻度の高い腫瘍です。神経根より発生する腫瘍で、多くは後根由来です。良性の腫瘍ですが、神経根由来の痛みや、脊髄を圧迫して手足の麻痺を起こします。神経根に沿って発育するため、硬膜の内外や、硬膜外に存在することもあります。稀には、脊髄内に発育する場合もあります。腫瘍はゆっくりと発育するため、脊椎管や椎間孔の拡大がみられる場合があります。神経線維腫も、神経鞘腫と同様に神経根から発生する良性の腫瘍ですが、画像診断では神経鞘腫との鑑別は困難です。

髄膜腫について
 全脊髄腫瘍の約20%を占め、2番目に多い脊髄腫瘍です。硬膜から発生します。中高年の女性に多く、胸椎レベルに発生頻度の高い腫瘍です。脊髄を圧迫して、歩行障害などの脊髄症状を示します。

診断
 硬膜内髄外腫瘍の診断には、神経学的診察と画像診断が行われます。MRIは最も良く腫瘍を描出します。CTでは、腫瘍の石灰化や、脊椎骨の圧迫による変化が診断されます。脊椎管の内外に存在する亜鈴型神経鞘腫では、椎間孔の拡大がレントゲン撮影で描出されることもあります。確定診断には、腫瘍の病理組織診断が必要になります。

治療
 腫瘍の性質によって治療方針は異なってきます。頻度の高い神経鞘腫や髄膜腫では、症状が明瞭な場合には、手術によって腫瘍の摘出を行います。手術は通常、後方からアプローチをし、椎弓切除(あるいは椎弓形成)を行い、硬膜を切開して腫瘍を摘出します。腫瘍と脊髄との位置関係や、脊椎のレベル、腫瘍のサイズ等で、手術方法は変わります。症状は軽度でも、診断を確定するために手術が行われる場合もあります。症状がなく、画像診断で発見された小さな腫瘍は、経過観察のみが行われる場合もあります。

4.髄内腫瘍

 脊髄の中に存在する腫瘍です。脊髄は中枢神経であり、脳に発生する腫瘍の殆どは脊髄にも発生します。脊髄の中から脊髄外に発育することも珍しくありません。組織学的には、神経膠腫が最も多くみられます。この他、血管芽腫、脂肪腫、髄内神経鞘腫、海綿状血管腫、脊髄内転移性腫瘍などがあります。

神経膠腫について
 神経膠腫には多くのタイプがあります。組織型によって腫瘍の進行や悪性度は異なります。このうち、上衣腫が成人では最も多い髄内腫瘍です。脊髄内の中央に存在しますが、脊髄円錐部ではしばしば髄外への発育を示します。腫瘍の周囲には、脊髄内の空洞(嚢胞)をしばしば伴います。腫瘍の圧迫によって脊髄症状(手足のしびれや脱力)を示しますが、症状の進行はゆっくりとしたものです。上衣腫は、腫瘍内や周囲へ出血を示すことがあり、その場合は症状が急速に進行することがあります。次に多い髄内腫瘍は、星細胞腫です。腫瘍は周囲の脊髄組織に浸潤性に発育することが多く、その悪性度は4段階(グレード1から4)に分けられています。

診断
 画像診断は、MRIが行われます。造影剤(ガドリニウム)による腫瘍の増強像は、脊髄内での腫瘍の存在診断と、その性質の判断に有用です。脊髄は腫瘍によって腫大し、時に嚢胞を伴います。しかし、脊髄が腫大する病変は髄内腫瘍以外にも多くの疾患があり、神経症状とその進行の程度、経過を併せて総合的に診断します。確定診断は、腫瘍の病理組織診断が必要です。

治療
 腫瘍の組織によって治療は異なります。脊髄内に発生する腫瘍は、腫瘍の摘出が可能なものと困難なものがあります。例えば、上衣腫は、マイクロサージャリー下に脊髄の後正中切開を行い、全摘出あるいは亜全摘が可能です。部分摘出例には、術後に放射線治療が行われる場合もありますが、多くは手術のみで腫瘍のコントロールが可能です。星細胞腫では、正常脊髄組織との境界が不明瞭のことが多く、マイクロサージャリー下でも全摘出は困難です。その場合、腫瘍の可及的摘出が行われます。腫瘍の摘出度と病理組織診断によって、術後の治療方針を決めます。グレード1および2では、腫瘍の摘出度が高い場合は経過観察のみとすることもありますが、摘出度が低い場合は、放射線療法や化学療法を併用することがあります。グレード3および4では、診断が確定次第、放射線治療や化学療法が行われます。この他、血管芽腫は、マイクロサージャリーによる摘出術が可能です。脊髄の海綿状血管腫は、髄内の出血による症状を示している場合、摘出術を行います。転移性髄内腫瘍では、経過から診断が明らかな場合、放射線治療をはじめから行うこともあります。

手術方法
 神経症状の進行を予防する目的で、手術用顕微鏡を用いた腫瘍摘出術を行います。腫瘍と正常組織の境界が明瞭な腫瘍では全摘出が可能ですが、浸潤性に発育した腫瘍では腫瘍を摘出することにより神経症状が悪化する可能性が高く、部分摘出にとどめざるを得ないこともあります。手術の安全を期すために、SEP(感覚誘発電位)やMEP(運動誘発電位)をモニターしながら手術を行います。また手術所見だけではなく、術中病理診断により腫瘍の摘出範囲などを判断します。
 脊髄を縦切開し腫瘍摘出を行いますので、術後足の麻痺や感覚障害が悪化する。あるいは新たに出現する可能性があります。部分摘出に終わった場合や、悪性の脊髄腫瘍に対しては、術後放射線治療や化学療法が選択されます。

(1)体位:全気管内挿管をし、腹臥位(はらばい)で手術を行います。レントゲン透視下に腫瘍の存在する椎体レベルを確認します。
(2)皮膚切開および椎弓切除範囲:術前にMRIおよびCTスキャンより決定します。
(3)腫瘍摘出:硬膜を縦切開し、さらに脊髄を切開して腫瘍の摘出を行います。腫瘍と正常組織の境界が明瞭な腫瘍では全摘出が可能ですが、浸潤性に発育した腫瘍では腫瘍を摘出することにより神経症状が悪化する可能性が高く、部分摘出にとどめざるを得ないこともあります。手術の安全を期すために、SEP(感覚誘発電位)やMEP(運動誘発電位)をモニターしながら手術を行います。また手術所見だけではなく、術中病理診断により腫瘍の摘出範囲などを判断します。
(4)閉創:止血を確認し、術野をよく洗浄します。硬膜、皮下組織、皮膚を縫合して手術を終了します。

5.術後の注意事項

 術翌日からスケジュールに従って徐々にベッドをあげます。できるだけ早期の離床を目標とします。術後全く問題がなければ、最短で2週間程度の入院になります。術後麻痺が出現した場合には、麻痺の程度に応じてリハビリが必要になります。また、病理結果により放射線治療が必要になることもあります。その他予期せぬ合併症が発生した場合には、合併症の種類と程度に応じて入院期間が必要になります。

◎ちょっとためになる話◎

ちょっとためになる脊椎脊髄と末梢神経の話28:脊椎脊髄腫瘍の話1
ちょっとためになる脊椎脊髄と末梢神経の話29:脊椎脊髄腫瘍の話2