圧迫骨折

1.骨粗鬆症(こつそしょうしょう)について

 骨は堅くて変化しないように見えますが、毎日こわされては新しく作られています。「骨粗鬆症」は骨の新陳代謝のバランスが崩れて、こわされる(吸収される)骨の方が作られる(形成される)骨より多くなってしまうために、骨がもろく壊れやすくなってしまう疾患です。骨粗鬆症の原因には、加齢・生活習慣(運動不足、食生活、喫煙など)、女性の場合には閉経後のホルモンバランスの変化などがあります。特に加齢による骨密度の低下は、程度の差はありますが、誰にでも起こりえます。
 1991年にコペンハーゲンで行われた「骨粗鬆症のコンセンサス会議」では「低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし、骨の脆弱性が増大し、骨折の危険性が増加する(骨がもろくなった結果、骨折のリスクが高くなった)疾患」と定義されています。レントゲンで測定された骨密度が、若い人と比較して(「YAM値 (ヤム:young adult meanの略です)」と呼んでいます)70%以下に低下した場合を「骨粗鬆症」と呼んでいます。日本では現在、1100万人を超える骨粗鬆症患者がいると推定されています。
 骨粗鬆症の初期には、痛みなどの自覚症状が現れにくく、病気が進むにつれて、次第に背中や腰の痛み、背骨が曲がる、身長が縮むといった症状が現れ始めます。さらに骨粗鬆症が進むと、骨密度の低下によって、骨折を起こしやすくなります。

2.骨粗鬆症性椎体骨折(圧迫骨折、破裂骨折)について

 骨密度が減少すると骨がもろくなり、しりもちや転倒などちょっとした衝撃で容易に骨が折れてしまうことがあります。背骨は椎骨(ついこつ)が積み重なって構成されていますが、もろくなった骨が加重に耐えかねてつぶれてしまうのが「(骨粗鬆症性)椎体骨折」です。椎体骨折は高齢者では多く見られる病気で、70歳代の約30%に椎体骨折が認められると報告されています。下部胸椎から上部腰椎が好発部位です。
post22_1.jpg 骨折が椎体の前壁にとどまる場合には、つぶれた椎体はくさび状に変形しますが、通常は神経症状を伴いません。この状態を「圧迫骨折」と呼んでいます。
 しかし、骨折が進行し椎体後壁が破壊されると、骨片が後方(脊柱管方向)に突出し、脊髄や馬尾神経を圧迫するようになります。この状態を「破裂骨折」と呼んでいます。破裂骨折は圧迫骨折に比べて格段に治療が難しくなります。圧迫骨折と診断されたら、早めに医療機関を受診し、適切な治療を受けてください。

3.圧迫骨折の臨床症状

(1)急性期症状
ある時突然、背中や腰に強い痛みが起こります。前屈みになったり、動作をするときに特に痛みが強くなります。また、寝返りが打てなくなったり、仰向けに寝ることができなくなったりします。骨折部位を軽く叩くと、痛みが誘発されるのが特徴です(巧打痛)。動けなくなるほどの痛さでは無く、「ちょっと痛い」くらいの痛みで、気がつかないうちに骨折が起こっていることがあります。
(2)慢性期症状
つぶれた骨が固まると、痛みは次第におさまってきます。通常、つぶれた状態で骨が固まってしまうため、背中が後方に湾曲して丸くなったり(後弯変形)、背が低くなることがあります。後弯変形を来すと立位バランスがとりにくくなり、杖やシルバーカーなどに頼らないと、歩行が困難になってきます。骨折した骨がうまく固まらないことがあり(偽関節:ぎかんせつ)、いつまでたっても腰痛や背部痛が残ることがあります。また、骨がつぶれたり変形したりして、脊髄や馬尾神経を圧迫すると(破裂骨折による遅発性神経麻痺)、難治性のしびれ・痛みや下肢麻痺などの神経症状が残ることがあります。

4.圧迫骨折の画像診断

 通常はレントゲン検査で診断可能です。レントゲン写真では椎骨がつぶれて、楔状(くさびじょう)に変形して見えます。しかし、レントゲン写真はあくまで「骨が変形した結果」を見ているので、骨折の急性期にはレントゲンでは診断が出来ないことがあります。そのような場合にはMRI検査を行います。骨の形は保たれていても、MRI上輝度変化があり骨折と診断できます。時に一つの椎体だけではなく、いくつも骨折していること(多発性骨折)がありますが、そのような場合でも、MRI検査を行うと、新しい骨折と古い骨折の鑑別が可能となります。診断当初に骨に変形は無くても、後になって徐々に骨がつぶれてくることがありますので、間隔を開けて何度かレントゲンを撮る必要があります。外科的治療を行う場合には、CTスキャンが必須となります。

5.保存的治療について

 麻痺などの神経症状が無い場合には、まず保存的治療を行います。椎体圧迫骨折の治療の原則は「安静と疼痛コントロール」です。圧迫骨折と診断されたら無理をせず、できるだけ安静を保つように心がけてください。多くの患者さんは保存的治療で症状の改善が見られます。
 コルセットの着用は必須です。できれば市販のものでは無く、自分の体に合わせた医療用コルセット(ダーメンコルセットなど)を作成してもらった方が良いでしょう。横になって安静を保ち、脊椎にかかる負担を減らすことにより、骨が変形するのを防ぐことができます。痛みが軽くなってきたら、徐々にリハビリテーションを開始します。
 2〜3ヶ月の保存的治療により、約80%の患者さんでは骨癒合(こつゆごう、折れた骨が固まること)が得られるといわれています。保存的治療の有効性は実証されたものですが、いくつかの問題点も指摘されています。前述のように圧迫骨折は高齢者に多く、保存的治療による長期間のベッド上安静により、認知症の症状が進行したり、足腰が弱ってしまい、痛みが取れても寝たきりのままになってしまうことがあります。また肺炎や褥瘡(じょくそう)などが起こりやすいのも、この保存的治療の問題点としてあげられています。

6.バルーン椎体形成術(Balloon Kyphoplasty:BKP)

 十分な保存的治療(通常2週間から3ヶ月)を行っても痛みが取れない場合には、経皮的椎体形成術(「Balloon Kyphoplasty(BKP)‐バルーン カイフォプラスティ‐(略して「ビーケーピー」と呼んでいます)」)の適応となります。BKPはアメリカで開発された新しい治療法で、日本でも2011年1月より公的保険が適用されるようになりました。BKP施行の条件として「脊椎外科の専門知識を有し、BKPシステム特定のトレーニングを受けた医師のみが行うこと」と薬事法にて定められており、当院でも所定のトレーニングを終了し、2012年1月よりこの治療法を行っています。
post22_2.jpg BKPは簡単に言うと、圧迫骨折によってつぶれてしまった椎体を、バルーン(風船)を椎体の中で膨らませて、バルーン(風船)を抜いてできたその空洞にBKP専用の骨セメント(メチルメタクリレート)を充填し、椎体を安定させ痛みをやわらげる治療法です。BKP治療の特長は、短時間の手術(約1時間以内)で、早期に痛みの軽減が行えること、生活の質(QOL)の向上が期待できることです。全身麻酔下の手術が保険診療の条件とされています。基本的には2泊3日の入院(手術前日に入院、手術翌日に退院)で治療が可能ですが、全身麻酔に影響するような全身合併症が危惧されたり、術後のリハビリが必要な場合にはその分入院期間が長くなります。

手術術式の説明
 入院前にレントゲン写真、CTスキャン、MRI、血液検査、心電図を行います。既往歴や全身合併症のある患者様は、専門医の先生に全身麻酔の可能性をコンサルトしたり、術前に追加の検査が必要なことがあります。
post22_3.jpg 手術前日に担当医・麻酔医・理学療法士による診察と手術・麻酔についての詳しい説明があります。入院2日目に経皮的椎体形成術による治療を行います。治療の当日は朝食が摂れません。術後感染を予防するために、手術開始前に抗生物質の点滴を行います。
 治療は手術室で行います。全身麻酔下、腹臥位(うつぶせの姿勢)で手術を行います。
post22_4.jpg レントゲン透視装置を2台使用し、目的とする椎体および椎弓根の正面像と側面像を正確に合わせます。次いで、適切な位置に皮膚の小切開をおき(1cm程度)、レントゲン透視下に専用の穿刺針を椎体内に挿入します。透視で方向や深さを確認しながら徐々に針を進め、骨折部位まで進め、椎体への細い経路を作ります。そこへ小さなバルーン(風船)のついた器具を入れます。椎体の中に入れたバルーン(風船)を徐々に膨らませ、つぶれた骨を持ち上げて、できるだけ骨折前の形に戻します。バルーン(風船)を抜くと、椎体内に空間ができます。その空間を満たすように、BKP専用の骨セメントを充填します。
 骨セメントが脊椎骨の外に出て神経を圧迫したり、静脈に詰まったりしない様に、慎重に観察しながら充填します。充分に骨セメントが入ったら、針を抜いて治療終了です。この段階から早くも痛みが軽くなる患者さまが多いようです。骨セメントが脊椎骨の外にでていないかを確認するためにCTスキャンを行い病室に戻ります。
充填した骨セメントは約15分〜20分程度で固まりますが、安全のために術後2時間は安静にします。

7.退院後の生活について

 退院後は、手術後の骨の状態を見るために、定期的にレントゲン、CTスキャンなどの検診を行います。退院後の日常生活に大きな制限はありませんが、無理な姿勢や重たい荷物を持つなどの動作はできる限り避け、転倒には特に気をつけてください。より快適な生活を送るためにも、日頃からバランスの取れた食事や適度な運動を心がけてください。
 圧迫骨折の再発を予防するために内科的治療が重要です。骨粗鬆性圧迫骨折に対して当科の専門外来として「骨粗鬆症・圧迫骨折外来」を開設しました。骨粗鬆症が心配な方、骨粗鬆症と言われたことがある方、圧迫骨折と言われた方、圧迫骨折で痛みが長引いている方は一度受診をお願いします。
詳しくはこちら → 骨粗鬆症・圧迫骨折外来

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このサイトの監修者

亀田総合病院
脊椎脊髄外科部長 久保田 基夫

【専門分野】
脊椎脊髄疾患、末梢神経疾患の外科治療