成人の季節性インフルエンザ 2017/2018シーズン update 〜その3 ワクチン(4価ワクチン、PPSV23との同時接種、担癌患者)〜

季節性インフルエンザワクチン -4価インフルエンザワクチン-

・日本のインフルエンザワクチンは約50%の発病予防効果がある。
(管谷憲夫.感染と抗菌薬 2016;20:302-308)

・3価インフルエンザワクチンには1種のB型インフルエンザウイルス株しか含有されていなかった。そのため、ワクチン株に含まれていないB型ウイルス株による合併症や死亡の増加を認めていた。

・世界保健機関(World Health Organization; WHO)では、2012/2013シーズンからB型2系統を含んだ4種類のワクチン株から構成される4価インフルエンザワクチンを推奨した。本邦では2015年3月に生物学的基準が改正され、2016-2016シーズンから4価インフルエンザワクチンが導入された。
(中島啓,青島正大.感染と抗菌薬 2017;20:309-313)

・4価インフルエンザワクチンの有効率を評価する研究として、3-8歳の小児(N=5220)を対象とした、不活化4価インフルエンザワクチンと不活化A型肝炎ワクチン(コントロール)の無作為化比較試験が行われた。4価インフルエンザワクチンの有効率は、全ての重症度において、55.4%(95%信頼区間 39.1 - 67.3)の有効を認め、中等症から重症に関しては、73.1%(97.5%信頼区間 47.1 - 86.3%)であった。
(Jain VK et al. N Engl J Med. 2013;369:2481-91.)

インフルエンザワクチンと23価肺炎球菌ワクチン(PPSV23)の同時摂取

・PPSV23とインフルエンザワクチンの同時接種は、「同一日に両方のワクチンを別の部位に接種すること」を意味する。PPSV23の接種率を上げる有効な方法として期待されている。
(Flore AE et al. MMWR Recomm Rep. 2011;60(1):1-64)

・PPSV23とインフルエンザワクチンの併用接種は、各々の単独接種よりもインフルエンザ感染症、入院、死亡を減らし、医療費抑制効果もあると報告されている。
(Nichol KL. Vaccine. 1999;17 Suppl 1:S91-3.)

・複数の先行研究がPPSV23と3価インフルエンザワクチンの同時接種の免疫原性が逐次接種と比較して認容されることを報告している。
(Fletcher TJ et al. BMJ. 1997;314:1663-5.)

担癌患者におけるインフルエンザワクチン

・CDC(アメリカ疾病管理予防センター)は、すべての成人癌患者にインフルエンザワクチン接種を推奨している。

・1990年〜2000年の報告では、癌患者の抗体陽転率は、24-78%と報告されているが、各種癌における近年のデータは十分ではなく、また、基礎疾患や抗がん薬の強度、ワクチン接種のタイミングによって異なると考えられている。
(Br J Cancer. 1999;80(1-2):219. )
(Leuk Lymphoma. 1999;32(3-4):369. )

・接種のタイミングについては、抗がん薬投与中より、抗がん薬のコースのインターバルに打つ方が抗体産生能は良いと報告されている。
(Annals of internal medicine. 1977;87:552-7.)

・特に、リツキシマブなどの抗CD20モノクローナル抗体が、投与されている患者ではワクチン接種における抗体産生能が著明に落ちるため、治療終了6ヶ月以降のインフルエンザワクチン接種が推奨される。
(Clin Infect Dis. 2014;58(3):e44. Epub 2013 Dec 4. )

・亀田総合病院呼吸器内科では、厚生労働省科学研究助成(H23-SHINKO-IPPAN-017)を得て、肺癌患者におけるインフルエンザワクチンの免疫原性を評価する前向き研究を2013/2014年に行い、2017年に論文報告した。
Immunogenicity of trivalent influenza vaccine in patients with lung cancer undergoing anticancer chemotherapy.
Nakashima K, Aoshima M, Ohfuji S, Suzuki K, Katsurada M, Katsurada N, Misawa M, Otsuka Y, Kondo K, Hirota Y.
Hum Vaccin Immunother. 2017 Mar 4;13(3):543-550.
http://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/21645515.2016.1246094

肺癌患者25名とCOPD患者(コントロール)26名のインフルエンザワクチン接種前と接種4〜6週後の抗体価が評価された。肺癌患者におけるワクチン接種後の抗体保有率は、A/California/7/2009 (H1N1) pdm09、A/Texas/50/2012 (H3N2)、B/Massachusetts/2/2012(山形系統)において、それぞれ84%、84%、64%であり、欧州医薬品審査庁(EMA)の基準値である60%以上を満たした。ただし、多変量解析でB(山形系統)では、肺癌患者における抗体保有に対するオッズ比は、COPD患者と比較して有意に低下していた。また、プラチナダブレットの殺細胞薬が投与された肺癌患者では、1剤の殺細胞薬を投与された肺癌患者よりも、抗体価が低下する傾向にあった。
(Hum Vaccin Immunother. 2017 Mar 4;13(3):543-550.)

・現状では、殺細胞薬投与中の固形癌患者では、インフルエンザワクチン1回接種で十分な抗体価が得られる可能性が高いと考えられる。ただし、可能な限り抗がん薬の各コースのインターバルで接種するのが望ましい。

・近年導入されている免疫治療(ニボルマブなど)中の、インフルエンザワクチンの免疫原性についての報告はほとんどない。有害事象については少数の報告だが、インフルエンザワクチン接種時に、PD-1阻害薬を少なくとも6週間投与されていた23例の患者おいて、irAEのgrade 3、grade 4をそれぞれ、52.2%、26.1%に認め、一般患者集団よりも高かったことが報告されている。
(Annals of Oncology 2017;28:ii28-ii51)

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このサイトの監修者

亀田総合病院
呼吸器内科部長 中島 啓

【専門分野】
呼吸器疾患