びまん性肺胞出血の診断と治療

びまん性肺胞出血は、重症の呼吸不全を呈する病態です。様々な原因で発症しますが、代表的なものはSLEや血管炎に関連したびまん性肺胞出血だと思います。このような自己免疫疾患による病態では、ステロイドパルス療法や血漿交換療法が施行されます。

概念

・ びまん性肺胞出血は様々な原因により肺胞毛細血管や肺動静脈などの小型血管に障害をきたし、そのために肺胞腔内に血液が充満する病態を呈する臨床的な症候群である。
(呼吸器症候群第2版 日本臨床社)

・ まれな病態であるが、一旦発症すると重篤な呼吸不全を呈することが多く、迅速な診断と治療が必要な病態である。死亡率は25-50%と報告されている。

(Curr Opin Pulm Med. 2000;6(5):430)

臨床像

・ 突然の発症や1週間以内の短期間での発症が多く、血痰、咳嗽、発熱、進行性の貧血、息切れを認める。人工呼吸管理が必要な重篤な呼吸不全を認める患者もいる。

・ 基礎にある膠原病(SLEなど)や全身性血管炎の所見を認める。

検査所見

・ 炎症所見(赤沈亢進、CRP上昇、白血球数増加)や貧血を認める。

・ 急速進行性糸球体腎炎とびまん性肺胞出血が組合わさった肺腎症候群を呈してくる場合は、血清クレアチニンの上昇を認める。

・ 胸部CTでは、両側にびまん性のすりガラス陰影、浸潤陰影を認める。


(当院で経験したびまん性肺胞出血のCT所見) 20150109a.jpg

診断

・ 画像上肺胞出血を疑う陰影のある肺葉で、気管支肺胞洗浄(BAL)(50ml×3回)を行い、気管支肺胞洗浄液(BALF)の色が、1回目から3回目にかけて、出血による赤色が濃くなることで、びまん性肺胞出血の診断となる。

・ BALFの細胞診で、ヘモジデリン貪食マクロファージを認めることも、びまん性肺胞出血の特徴である。
(Am J Respir Crit Care Med. 1995;151(1):157)

・ ただし、BALは、びまん性肺胞出血の診断に有用だが、原因の特定に役立つ事は少ない。

原因の特定

・ びまん性肺胞出血の原因となる代表的疾患を記す。


びまん性肺胞出血の診断と治療

・ 原因特定のためのポイント

・ びまん性肺胞出血を起こすような薬剤(アミオダロン、プロピルチオウラシル、抗凝固薬)への暴露がないかを確認する。またARDSを起こす病態や、膠原病、血管炎、僧帽弁疾患を認めないかどうか確認する。

・ 膠原病を主体とした採血パネルを提出しておく。
MPO-ANCA, PR3 ANCA, 抗GBM抗体、抗核抗体、抗dsDNA抗体、抗Sm抗体、抗CCP抗体、抗SSA抗体、抗SSB抗体、抗セントロメア抗体、抗Scl-70抗体、抗RNAポリメラーゼ抗体、抗Jo-1抗体,クリオグロブリン、補体など

治療

・ 原因が判明すれば、原因を治療する。つまり、薬剤の中止、抗凝固療法のリバース、感染症の治療など行う。

・ 膠原病や薬剤性のびまん性肺胞出血では、ステロイドなどによる免疫抑制療法を行う。

ステロイドパルス療法

ソルメルコート(コハク酸メチルプレドニゾロン)500mg+生食50ml 100ml/h 1日2回 3日間 点滴静注 その後、PSL 1mg/kg内服による後療法を行い、徐々に漸減

エンドキサンパルス療法(当科ではANCA関連血管炎のびまん性肺胞出血に用いている)

エンドキサン(シクロフォスファミド)15mg/kg 点滴静注 月に1回、年齢と腎機能に応じて減量

〜 入院中のエンドキサン投与法(当科での使用例)〜
  出血性膀胱炎予防目的に、下記の如く十分量の輸液、ウロミテキサン投与を行う。
  

ソルデム1 500ml 1本 (250ml/h) → エンドキサン15mg/kg+生食 250ml(100ml/h)
→ ソルデム3 500ml 4本(100ml/h)
* 出血性膀胱炎予防目的に、ウロミテキサン 200mg静注 を下記のタイミングで6回行う
(エンドキサン投与直前、エンドキサン投与終了 2・4・8・12・24時間後)


血漿交換療法
一般的に、グッドパスチャー症候群[抗GBM抗体病]で施行されることが多い。また、再発性の血管炎や膠原病関連のびまん性肺胞出血でも施行される場合がある。
(Br Med J (Clin Res Ed). 1986;292(6516):301)
(Chest. 2009;136(4):1101)

参考文献

・ The diffuse alveolar hemorrhage syndromes; Up to date last updated: Oct 18, 2013.

・ 呼吸器症候群第2版 日本臨床社

* 注意
亀田総合病院、呼吸器内科で行っている診療の概要を示したものです。実際の診断・治療の判断は主治医が責任を持って行って下さい。

このサイトの監修者

亀田総合病院
呼吸器内科部長 中島 啓

【専門分野】
呼吸器疾患