抗がん薬投与中の癌患者においてインフルエンザワクチン接種は有効か?

インフルエンザのシーズンに入ってきており、多くの施設では、インフルエンザワクチン接種を、基礎疾患を有する患者さんたちに積極的に推奨しているところだと思います。

今回は、「抗がん薬投与中の癌患者におけるインフルエンザワクチン接種は有効か?」というテーマについて書かせて頂きます。

世界的に癌の罹患者は増加しています。

日常臨床でも肺癌や消化器癌などの癌をもった患者さんの診療を行っている医師は、内科・外科を問わず多いことだと思います。

そのような中、「抗がん薬を使用している患者さんにおいて、インフルエンザワクチン接種で、有効な抗体産生がなされているのか?」という疑問が出てきます。

日常臨床では、特に肺癌や消化器癌など固形癌の患者さんの場合、不活化インフルエンザワクチンの1回接種が行われている施設が多いと思います。

CDC(アメリカ疾病管理予防センター)は、すべての成人癌患者にインフルエンザワクチン接種を推奨しています。2回接種の有効性を支持するデータは十分にはありません。

1990年〜2000年の報告では、癌患者の抗体陽転率は、24-78%と報告されておりますが[1-3]、各種癌における近年のデータは十分ではなく、また、基礎疾患や抗がん薬の強度、ワクチン接種のタイミングによって異なると考えられています。

接種のタイミングについては、抗がん薬投与中より、抗がん薬のコースのインターバルに打つ方が抗体産生能は良いと報告されていますが[4]、実臨床では、インフルエンザシーズンとの関連、患者の都合などから、抗がん薬投与中に打たざるを得ない場合もあると思われます。

次に基礎疾患による違いについて述べます。

最近の本邦における検討では、血液悪性腫瘍の患者では、抗体産生能は落ちており、2回接種を考慮すべき、と考察されています[5]。

特に、リツキシマブなどの抗CD20モノクローナル抗体が、投与されている患者ではワクチン接種における抗体産生能が著明に落ちるため[6]、治療終了6ヶ月以降のインフルエンザワクチン接種が推奨されます[1]。

肺癌などの固形癌においては、抗がん薬投与中であっても、健常人と大きな差は認めないという報告がありますが[1]、本邦の患者におけるデータはありません。

そこで、われわれは前向きに「抗がん薬投与中の肺癌患者におけるインフルエンザワクチンの免疫原性の研究」を行い、多変量解析を行っても、抗体産生能(抗体保有)に関して、肺癌患者と対照としたCOPD患者に有意な差はないという結果を、2014年12月6日〜7日に行われた第18回日本ワクチン学会で報告しました。

現状では、抗がん薬投与中の固形癌患者では、1回接種で十分な抗体価が得られる可能性が高く、可能な限り抗がん薬の各コースのインターバルで接種するのが望ましいと考えられます。

抗がん薬投与中の癌患者においてインフルエンザワクチン接種は有効

1. Anderson H, Petrie K, Berrisford C, Charlett A, Thatcher N, Zambon M. Seroconversion after influenza vaccination in patients with lung cancer. British journal of cancer. 1999;80:219-20.

2. Brydak LB, Calbecka M. Immunogenicity of influenza vaccine in patients with hemato-oncological disorders. Leukemia & lymphoma. 1999;32:369-74.

3. Gribabis DA, Panayiotidis P, Boussiotis VA, Hannoun C, Pangalis GA. Influenza virus vaccine in b-cell chronic lymphocytic leukaemia patients. Acta haematologica. 1994;91:115-8.

4. Ortbals DW, Liebhaber H, Presant CA, Van Amburg AL, 3rd, Lee JY. Influenza immunization of adult patients with malignant diseases. Annals of internal medicine. 1977;87:552-7.

5. Ide Y, Imamura Y, Ohfuji S, Fukushima W, Ide S, Tsutsumi C, et al. Immunogenicity of a monovalent influenza a(h1n1)pdm09 vaccine in patients with hematological malignancies. Human vaccines & immunotherapeutics. 2014;10:2387-94.

6. Yri OE, Torfoss D, Hungnes O, Tierens A, Waalen K, Nordoy T, et al. Rituximab blocks protective serologic response to influenza a (h1n1) 2009 vaccination in lymphoma patients during or within 6 months after treatment. Blood. 2011;118:6769-71.

このサイトの監修者

亀田総合病院
呼吸器内科部長 中島 啓

【専門分野】
呼吸器疾患