プライマリケアアウトカム質問表(PCOQ):新しい心理テストの検証研究(第4回RJC)

ジャーナルクラブ 第4回
2018/06/13
高橋亮太

1 タイトル

「プライマリケアアウトカム質問表(PCOQ):新しい心理テストの検証研究」(第4回RJC)
Mairead Murphy, Sandra Hollinghurst, Sean Cowlishaw and Chris Salisbury.
Primary Care Outcomes Questionnaire: psychometric testing of a new instrument.
Br J Gen Pract June 2018 68:e433-e440.
doi:10.3399/bjgp18X695765
http://bjgp.org/content/68/671/e433.abstract

カテゴリー research journal club
キーワード ヘルスサービスリサーチ 患者中心のケア 患者報告アウトカム プライマリケア 心理テスト ケアの質 質問票

2 背景・目的・仮説・PICO

●背景
 プライマリケア 近年における人々のニーズと期待の変化に対応すべき
 新しい介入方法の開発 電子診察、ヘルスコーチ、行動科学的治療など
 これらの介入を評価する方法として 患者報告アウトカム指標(Patient Reported Outcome Measures: PROMs)の開発が進められている
 これまでのPROMの問題点 症状もしくは機能に限定していること
 しかし、プライマリケア患者は、それら以外の問題点や慢性長期的な状態を訴える
 包括的PROMの代表的な例として
 SF-36(Short Form 36 Health Survey)
 EQ-5D(European Quality of Life 5 Dimensions)
 などがあるが、これまでの先行研究ではプライマリケア介入で変化が見られなかった
 これらの理由により、プライマリケアに特異的な新たな調査票の開発が進められている
 例えば、
 MYMOP(Measure Yourself Medical Outcome Profile)があるが、MYMOPはインタビュー調査であり、多数対象者の研究に実現可能性は低い
 PEI(Patient Enablement Instrument)は幅広く、対処能力、理解、健康への自信度などを評価出来るが、一方で、症状と機能は評価出来なかった
 このような背景の中で、PCOQ(Primary Care Outcome Questionnaire)は開発された
 (文献26−28)
 当初は患者および臨床医のインタビュー等を経て開発
 この質問票は、健康状態アウトカム、健康エンパワメントの内的要因(理解、セルフケア能力)、外的要因(周囲のサポートなど)、健康認識アウトカムなどを含む内容
●目的
 今回の研究はPCOQ開発の最終段階

★PCOQ質問票開発の流れ(全体像)
 文献26 質的研究 患者および医療者に対するインタビュー
      > 最も重要なアウトカムは何か
 文献27 デルファイ法で適切な質問項目の設定
 文献28 設定された質問項目 cognitive interview studyでのフィードバック
 これらのプロセスで開発された質問票の「量的な担保」を今回の研究でされている
 (模範的な開発プロセス)

3 方法 研究デザイン・批判的吟味

●研究デザイン 横断研究
●対象
 成人患者 イングランド南西部の5つの診療所
 都会および田舎 裕福なエリアおよび裕福でないエリア 異なった人種背景
●調査票
*Primary Care Outcome Questionnaire (PCOQ)
 自記式の質問票 24項目 5段階形式
 先行研究(文献26)の質的研究をもとに作成
★4つのドメインに分かれている
・Health and Well-being: Q1-8
・Confidence in Health Provision: Q9-14
・Health Knowledge and understanding: Q15-18
・Confidence in Health Plan: Q19-24
*実施方法
 診療所の受診患者をリクルート 待合室にて質問票への記入を依頼
 その場でPCOQへの記入いただく
 フォローアップの質問票(PCOQ+対照PROM※)は持ち帰り、1週間後に記入して郵送いただく(5日後にリマインドのメールを送信)
 ※対照PROM:7種類(EQ-5D, PAM, IPQ, Last appointment score, Recommend GP item, Support for LTCs, Change in main problem)
●評価方法
 下記の5項目で評価
 *feasibility 実現可能性
  欠落データの量とパターンで評価
  対象者が質問票を完遂出来るかどうか
  ベースラインとフォローアップでの回答率の変化
 *structural validity 構造的妥当性
  探索的因子分析 exploratory factor analysis
  Kaiser's rule
 *internal consistency 内的整合性
  一貫性による信頼性を追及する方法(信頼性の尺度)
  クロンバックのα係数を使用して評価
 *construct validity 構成概念妥当性
  事前指定された仮説検証(PCOQドメインと対照PROMの関連性)
  スピアマン相関係数を用いて
 *responsiveness 反応性
  グラスのΔ(デルタ)を比較検証すること

4 結果

 *feasibility 実現可能性
  718名の登録患者のうち602名が回答(84%)
  欠落データ 全体で2.5%のみ
  フォローアップ調査 264名(44%)が回答
  研究対象者の特徴(表1)
 *structural validity 構造的妥当性
  ベースラインデータをプロマックス回転(斜交回転)して評価(表2)
  PCOQスコアの分布(表3)
  一部、天井効果が見られた
 *internal consistency 内的整合性(信頼性の尺度)
  クロンバックのα係数
  4つのドメインともに標準的な数字である0.70以上であった
 *construct validity 構成概念妥当性
  PCOQドメインと対照PROMのスピアマン相関係数(表4)
  収束的かつ識別的 
 *responsiveness 反応性
  主な問題点に対して対象者が前向きな回答をすることを仮説としていた
  PCOQベースラインからフォローアップ値への効果量(グラスのΔ)は正(表5)

5 考察

 ●全体のまとめ
  厳正なプロセスでの検証作業
  患者がプライマリケアで享受を希望する項目
  医師が提供したいと考える項目 をそれぞれ評価可能であったと判断した
 ●強みと欠点
 ・強み データ収集に成功
 ・欠点 回答率 選択バイアス ゴールドスタンダードの欠如
 ●過去の研究との比較
  PCOQの4つのドメイン 以前の研究と類似
  天井効果 EQ-5Dより少ない 
 ●今後の研究に向けての提言
 PCOQは、今回のプライマリケア患者に対して妥当性、内部整合性、反応性がある調査法
 他のPROMでは今回のような特徴は見られない
 今後、研究活動、政策評価などの場面でこの新しい指標がさらに活用されることを願う

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学