前立腺全摘後の尿失禁に対するPRP治療 〜3回治療後の経過〜
前立腺がんの治療の一環として行われる前立腺全摘除術。この手術後に起こる合併症のひとつが尿失禁(Post Prostatectomy Incontinence: PPI)です。特に、歩いているだけで漏れてしまうなど、日常生活の質(QOL)に大きな影響を及ぼすことがあります。
治療経過のご紹介
当院で行ったPRP(多血小板血漿)尿道括約筋注入療法の実際の治療経過をご紹介します。
2024年11月(治療前の状態)
- 症状: 「散歩していると知らない間にびっしょりになる」
- パッド使用: 25mlパッドを交換しながら使用、1日約200gの尿漏れ
- VAS(Visual Analog Scale): 8(歩行時に50%以上の漏れ)
- 治療: 【PRP尿道括約筋注入療法 1回目】
2024年12月(1回目治療後)
- 症状: 「ちょっと良くなったか、変わらない感じ」
- GRA評価: 1(少し良くなった)
- VAS: 6(歩行時に50%未満の漏れ)
- 治療: 【PRP尿道括約筋注入療法 2回目】
2025年1月(2回目治療後)
- 症状: 「以前よりびしょびしょにはならなくなった」
- パッド使用: 1日20g
- GRA評価: 2(良くなった)
- VAS: 6(歩行時に50%未満の漏れ)
- 治療: 【PRP尿道括約筋注入療法 3回目】
2025年2月(3回目治療後)
- 症状: 「お陰様で楽になりました」
- パッド使用: なし
- GRA評価: 3(かなり良くなった)
- VAS: 1(強くいきんだ時のみわずかに漏れる)
- 治療: 【PRP尿道括約筋注入療法 4回目予定】
4回目の治療評価は2025年3月末に予定
PPIの治療法とPRP療法の可能性
前立腺全摘後の尿失禁(PPI)の治療には、内服治療や人工尿道括約筋などの方法が保険診療で認められています。しかし、
• 人工尿道括約筋の適応がない方
• 自分の力で回復したいと考える方 にとって、新たな選択肢としてPRP療法が注目されています。
PRP治療は、2021年にScientific Reportsに報告された論文によると、92.9%の患者に何らかの改善が認められたとされています(Lee PJ, et al. 2021)。
ただし、
• 歩行時に半分以上尿失禁がある方には効果が低い
• 軽度〜中等度のPPIには非常に良い治療法 と示唆されています。
まとめ
今回の症例では、3回のPRP治療でパッド不要のレベルまで改善しました。PPIに悩む方にとって、PRP治療はQOLを大きく向上させる可能性があります。
PPIでお悩みの方は、「人工尿道括約筋以外に方法がないのか?」と悩む前に、PRP治療という選択肢を知っていただきたいと思います。
4回目の治療結果も引き続き報告予定です!
◆参考文献
Lee PJ, et al. A novel management for post prostatectomy urinary incontinence: platelet-rich plasma urethral sphincter injection, Scientific Reports, 2021; 11:5371.
このサイトの監修者
亀田総合病院
泌尿器科部長 安倍 弘和
【専門分野】
泌尿器疾患一般 腹腔鏡下手術