粘膜下腫瘍?膀胱部分切除術を考える。

定型的な治療方針は?

【症例1】55+α歳、男性
【既往歴】なし
【アレルギー】:硫化水素:喘息
【生活歴】喫煙:なし 飲酒:機会飲酒
【現病歴】: 2週間前から肉眼的血尿。6月初旬に前医で浸潤性膀胱がんの診断。
【職業】元外科医
【IPSS】0120010=4 QOL2

ご本人からの相談:前医でTUR→病理結果→部切あるいは全摘の流れと言われた。
自身としてはTURによる細胞播種が心配で、できれば部分切除を希望。

210922img1.jpg 膀胱鏡所見

【膀胱がん治療経過】
201α/6/  【CT】後壁左側に筋層、周囲脂肪層、内部に突出する28mm大腫瘍。
      腫瘍は早期濃染され、造影では壁外浸潤の腫瘍と判断できる。
201α/6/ 【膀胱鏡所見】広基性非乳頭状粘膜下腫瘍
201α/6/ 【腹腔鏡下膀胱部分切除術】 手術時間3時間7分 出血量70ml
     【病理診断】SCC,pT2b
201α+1/7/ 【膀胱鏡】再発無し
      【CT】【MRI】転移なし
【考察】
膀胱がんの治療は、TURBTによる腫瘍切除が基本となります。診断、深達度を病理組織診断し、次の治療に繋げます。消化管腫瘍を内視鏡切離する際はen block resection(一塊切除)が強く勧められています。1)腫瘍を分割切離する際に腫瘍細胞がこぼれ落ちるからです。膀胱腫瘍は低悪性度でも約50%が再発すると言われ、一つの理由として、腫瘍を分割切除せざるを得ない状況も考えられます。そのため、単発の腫瘍であれば、できるだけTURBO(一塊に切除)するようにしています。
この方は、粘膜下腫瘍(神経内分泌腫瘍など)を強く疑いました。術前の尿細胞診は陰性で、膀胱鏡所見も、非乳頭状で粘膜下に腫瘍を認めました。通常であればTUR→病理→全摘でしょう。しかし、ご本人から、元外科医で消化器内科医の目線をもって、腫瘍を分割切除することはしたくない。TURをすれば腫瘍が露出するため部分切除は難しくなり、腫瘍を粘膜下に包んだまま部分切除すれば根治の可能性と全摘を避けられるのではと提案を受けました。
当科のカンファレンスでも、術中、腫瘍を崩壊させないような方法で部分切除の方針としました。
実際の手術では腫瘍を播種させないように、腫瘍に触れない鉗子操作、切離ラインなど充分に配慮し、肉眼的に腫瘍浸潤がないラインで切離ができました。
のちの病理カンファレンスでは、免疫系の細胞が腫瘍を取り囲むように存在し、病理医より大丈夫と言われたことで、ほっと胸をなでおろしたことを鮮明に思い出します。膀胱のSCCは1.2%と言われ、予後が悪い癌腫です。2)
1年のフォローアップで膀胱鏡、CT、MRI、SCC(腫瘍マーカー)すべて陰性で、とても喜んでいらっしゃいました。TURをまず診断のために行っていたら、同じ結果であったかどうかはわかりません。
野球、サッカーやゴルフなどでのプロスポーツでもデータや基本的な戦術・技術を駆使するのは当たり前ですが、打てないピッチャーをどう攻略するか「アレンジ力」を常に考えていかなければならないと思います。

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【参考文献】

1)Pimentel-Nunes P, Dinis-Ribeiro M, Ponchon T, Repici A, Vieth M, De Ceglie A, Amato A, Berr F, Bhandari P, Bialek A, Conio M, Haringsma J, Langner C, Meisner S, Messmann H, Morino M, Neuhaus H, Piessevaux H, Rugge M, Saunders BP, Robaszkiewicz M, Seewald S, Kashin S, Dumonceau JM, Hassan C, Deprez PH.Endoscopic submucosal dissection: European Society of Gastrointestinal Endoscopy (ESGE) Guideline.Endoscopy. 2015 Sep;47(9):829-54.

2)Matulay JT, Woldu SL, Lim A, Narayan VM, Li G, Kamat AM, Anderson CB. The impact of squamous histology on survival in patients with muscle-invasive bladder cancer. Urol Oncol. 2019 Jun;37(6):353.e17-353.e24.

このサイトの監修者

亀田総合病院
泌尿器科部長 安倍 弘和

【専門分野】
泌尿器疾患一般 腹腔鏡下手術