神経興奮の伝導1

 最近は、外国で今行われている戦争の映像を、テレビニュースで、同時に茶の間で見ることができるようになった。これは、伝達手段の発達に負うところが多い。光や、電磁波は、現在考えられる伝達手段の中で、最も速度の早いものであろう。人類は、これを制御する方法を考え、手に入れた。科学の発達はすばらしい。

 生物の情報の伝達は科学物質、特に、蛋白質を用いるのが常套手段である。しかし、科学物質が体液を循環して到達する情報伝達の方法には時間がかかる。びっくりすると、1-2秒経って、心臓が高鳴る事を経験したことはないだろうか。神経細胞は、気が短く、こうした伝達方法にごうを煮やし、自ら突起を伸ばして、情報源のすぐそばで情報収集を行い、また、伝達する相手のそばで情報を発信するようになった。

 ヒトの体の中でも、神経が司る情報伝達は、即時性がたいへん重要である。神経機構は、その突起内を伝達速度の最も速い電気的な信号としてその興奮を伝える。これを手に入れるまでに、生命の進化は何と悠長な時間経過を必要としたことだろう。

 電気的信号といっても、ヒトの体内では、通信に使う電磁波で交信しているわけではない。もう少し回りくどいが、生物としての最大の方法を用いている。

 神経細胞は、生きている限り、ナトリウムやカルシウムなどのイオンを細胞からポンプを使って外に送り出している。こうしたイオンは、プラスの電気を持っているので、神経細胞の内側はマイナスになっている。神経細胞の膜の内側と外側は、おおよそ50mVの電位差がある。

 神経が興奮すると、細胞膜に小さな穴が開き、ものすごい速度でナトリウムやカルシウムイオンが細胞内に流れ込む。この小さな穴がどうして開くのかについては、研究者が一生を捧げても解明しきれないほど複雑なメカニズムが働いているようなので、ここでは省略させていただく。

※このコンテンツは、当科顧問橘滋國先生の著書である「体の反射のふしぎ学ー足がもつれないのはなぜ?」(講談社 ブルーバックス 1994年)を元に改変・編集したものです。

このサイトの監修者

亀田総合病院
脊椎脊髄外科部長 久保田 基夫

【専門分野】
脊椎脊髄疾患、末梢神経疾患の外科治療