成人の季節性インフルエンザ 2017/2018シーズン update 〜その1 インフルエンザの分類と診断〜
今年も、インフルエンザの流行を認めてきております。
2017/2018シーズンは、今のところ、A(H1N1)pdm09が最も多く、次にB(Yamagata)が報告されております。
本稿では、その1として、インフルエンザの分類と診断について解説します。
概念
・インフルエンザは、インフルエンザAもしくはBウイルスにより世界中で流行する急性呼吸器疾患である。
・インフルエンザウイルスは、オルトミクソウイルス科の1本鎖RNAウイルスで、A,B,Cの3血清型に分類されるが、流行するのはA型とB型である。
・WHOは、世界的に、インフルエンザにより29万〜65万人の死亡者が出ていると推測している。
(Lancet. 2017 Dec 13. pii: S0140-6736(17)33293-2.)
分類
1 季節性インフルエンザ
・常時、地球上で流行しているインフルエンザ。
・温帯地域では冬に患者数のピークを認めるため、「季節性インフルエンザ」と呼ばれる。
(川名明彦.感染と抗菌薬 2016;20:309-313)
・1985年以降、インフルエンザウイルスは、A型のH1N1およびH3N2に加えて、B型の山形系統とVictoria系統の混在流行が続いている。
(中島啓,青島正大.感染と抗菌薬 2016;20:309-313)
・流行株の情報については、表1のウェブサイトで得ることができ、参考になる。
表1流行情報が得られるウェブサイト
世界の流行状況 | WHO influenza update http://www.who.int/influenza/surveillance_monitoring/ updates/latest_update_GIP_surveillance/en/ |
日本の流行状況 | 国立感染症研究所 https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/a/flu.html |
2 新型インフルエンザ
・遺伝子再集合により、新しい亜型ができると、これまで流行していた季節性インフルエンザウイルスと抗原性が変わり、人類が免疫を持たないため大流行することがある。このようなウイルスを、感染症法では、「新型インフルエンザ」と呼ぶ。
(川名明彦.感染と抗菌薬 2016;20:309-313)
・近年では、2009年A(H1N1)pdm09ウイルスによるパンデミック(世界的大流行)を認めた。A(H1N1)は、現在は季節性インフルエンザとして扱われている。
3 鳥インフルエンザ
・近年鳥のインフルエンザA(H5N1)とA(H7N9)が、稀にヒトに感染し、重症化する例が報告されている。重症肺炎やARDSを起こし、40-50%の致死率を認めている。
(川名明彦.感染と抗菌薬 2016;20:309-313)
・今のところ、ヒトへの感染性は低く、パンデミックを引き起こす可能性は低いと考えられているが、注意深く監視されている。
成人の季節性インフルエンザの診断
・突然の発熱(38~39℃)、咽頭痛、咳などの上気道症状に加えて頭痛、関節痛、筋肉痛などの全身症状を認める。潜伏期間は1〜2日である。
(青島正大 編. 亀田流驚くほどよくわかる呼吸器診療マニュアル 羊土社2015年4月 東京)
・インフルエンザ流行中は、急性の発熱と呼吸器症状による臨床診断が可能である。
・表2に示すような特定の患者群において、検査結果が、臨床判断や感染管理に影響を及ぼすなら、インフルエンザの診断検査が推奨される。
(Harper SA. Clin Infect Dis. 2009;48(8):1003. )
表2インフルエンザの診断検査が推奨される患者
インフルエンザ流行中 | 合併症リスクの高い患者が、急性の発熱と呼吸器症状を呈して5日以内 |
外来の免疫不全患者が急性の発熱と呼吸器症状を呈した場合(発症からの日数に関係なし。免疫不全者は、数週間から数カ月インフルエンザウイルスを保有しうるため) | |
入院予定患者が急性の発熱と呼吸器症状を呈した場合(発症からの日数に関係なし。市中肺炎患者も含む) | |
入院後の患者が発熱と呼吸器症状を呈した場合 | |
通年(インフルエンザ流行中でない時期も) | インフルエンザのアウトブレイクを経験した施設における医療従事者、居住者、訪問者が急性の発熱と呼吸器症状を呈して5日以内 |
インフルエンザのアウトブレイクに疫学的に近接した者(家族、インフルエンザ疑いの患者に接触した者、インフルエンザ流行地域から戻った旅行者) |
(Harper SA et al. Clin Infect Dis. 2009;48(8):1003. )
・インフルエンザ迅速検査は、15分以内で結果が出るが、PCRやウイルス培養に比べて、感度が低いため、偽陰性に注意する必要がある。159例の研究を対象としたmeta-analysisでは、感度62%、特異度98%であった。
(Chartrand C et al. Ann Intern Med. 2012;156(7):500.)
・インフルエンザの迅速検査は、検体採取の施行時期と部位で感度が異なることに注意する。インフルエンザウイルスの増殖・排出は発症時点から24-48時間であり、その後は、急速に減少するので、抗原検査はこの時期に行わないと感度が低くなる。
(青島正大 編. 亀田流驚くほどよくわかる呼吸器診療マニュアル 羊土社2015年4月 東京)
・インフルエンザのウイルス培養、PCRは、診断のゴールドスタンダードであるが、時間と手間がかかるため、本邦では日常診療では用いられず、ウイルスの追跡や疫学調査などの目的で行われる。
参考文献
- 中島啓,青島正大.感染と抗菌薬 2016;20:309-313
- 青島正大 編. 亀田流驚くほどよくわかる呼吸器診療マニュアル 羊土社2015年4月 東京
- Lancet. 2017 Dec 13. pii: S0140-6736(17)33293-2.
- Harper SA. Clin Infect Dis. 2009;48(8):1003.
- Chartrand C et al. Ann Intern Med. 2012;156(7):500.
- 川名明彦.感染と抗菌薬 2016;20:309-313
このサイトの監修者
亀田総合病院
呼吸器内科部長 中島 啓
【専門分野】
呼吸器疾患