Caplan症候群

(著者 呼吸器内科医員 藤岡遥香、編集 中島啓)

カプラン症候群(Caplan症候群)は、関節リウマチ(RA)と塵肺を併発した患者に見られる特徴的な肺病変を指す症候群です。カプラン症候群は1953年にAnthony Caplan医師によって初めて報告されました。以下にこの症候群の主要な特徴と重要な点をまとめます。

概念
Caplan症候群とは、炭鉱労働者のように粉塵(特に石炭やシリカ)を吸入する職業に従事する人が、関節リウマチ(RA)とともに特有の肺病変を発症する状態である。イギリスの医師Anthony Caplanによって1953年にはじめて報告された1。以前は主に石炭粉塵の職業的暴露と関連していたが、現在はシリカ、アスベストを含む粉塵曝露も原因になりうると言われている。リスクが高い職業として、石炭鉱夫、アスベスト作業員、砂金採掘者、サンドブラスター、採石場作業員、炭素電極製造業者などが含まれる。また、ゴム粉塵、アルミニウム製造、シリカ系洗浄剤の包装、ジュエリーの研磨や人工石材の製造も関連性がある2

疫学
肺結節と粉塵暴露の有無を比較した疫学データはほとんどない。Caplanの研究では、炭鉱労働者におけるリウマトイド肺塵症の有病率は0.4%と報告している1。アメリカの採鉱に従事した炭鉱労働者において、RA発症リスクが一般的な男性よりも3-4倍高いことが示された3。中国の研究によると、じん肺患者のうち結合組織疾患の有病率は13.8%だった4

病態
発症メカニズムは不明である。粉塵への曝露がきっかけで免疫反応を引き起こし、リウマチ結節に類似した肺結節が形成されるのではないかと推測されている5。シリカは病原体関連分子パターン(PAMP)として認識され、マクロファージを刺激し、TNF-αやIL-1などのサイトカインを放出させ、マクロファージのアポトーシスと慢性的な炎症のサイクルを引き起こし、線維芽細胞の堆積や組織破壊をもたらす。さらにサイトカインは免疫系を刺激し、自己抗体や免疫複合体の産生を増加させる6

病理
組織学的特徴によって、リウマチ結節とCaplan症候群の結節を診断することができる。リウマチ結節は中心部に好酸性の壊死領域があり、その周囲に壊死層が続き、組織球が柵状に並ぶ。最外層には肉芽組織と慢性炎症が見られる7。Caplan症候群の結節は、古典的タイプと珪肺型の2つのサブタイプに分類される。古典的タイプは、均一な壊死を伴う大きな結節と軽度の珪肺症を示す。珪肺型は小さな結節が特徴的で、広範な線維化を伴うこともある。Caplan症候群の結節は粉塵を含んでいて、結節の中心部に壊死領域があり、黒い石炭粉塵と壊死組織の層が交互に現れ、その周囲に多形核白血球、マクロファージ、巨細胞を含む炎症細胞が取り囲む8

症状
Caplan症候群では軽度の気流閉塞を伴うことがあるが多くの場合は無症状である6。一方、珪肺型の場合は胸膜痛、乾性咳嗽、労作時呼吸困難、倦怠感といった症状を伴うこともある2。RAの症状としては、関節痛、朝のこわばり、関節腫脹がある。

検査
RAでは複数の自己抗体が検出され、特に抗CCP抗体はRAに対して非常に特異的である。Caplan症候群の患者の約70%がリウマトイド因子陽性であることが報告されている9。Caplan症候群における抗CCP抗体やIgAサブタイプのリウマトイド因子の重要性は明確にされていない。

画像所見
Caplan結節はリウマチ性結節に似た画像所見を示す。CT画像では0.5〜5 cmのサイズで、肺の中央から外側3分の1に多く分布する6。Caplan結節は数週間から数か月で急速に進行し、その後は安定して長期間変化せずに持続する。空洞化や石灰化を示すこともある。特に成長する大きな結節は融合して進行性大陰影線維症(PMF)の結節性浸潤を形成することがある。PMFが進行すると、瘢痕形成と構造の歪みが認められる。

参考文献10より引用

治療
Caplan症候群の治療は主に支持療法である。RAの治療は、ガイドラインに従って行われるべきである。動物実験では、HLA-DR4陽性マウスが粉塵へ曝露することで、炎症性反応が促進され、サイトカインやケモカインのレベルを上昇させることが示された。特定のサイトカインを標的とした治療がCaplan症候群の肺病変に奏功するか、さらなる研究が期待される11

予後
Caplan症候群に関連する合併症として、空洞化した結節への二次感染や気管支胸膜瘻の形成がある6。合併症により重症な呼吸不全を伴うことがある。

まとめ
Caplan症候群を予防するためには、粉塵およびシリカへの職業的曝露を最小限に抑えることが重要である。人工石材には約90%のシリカが含まれており、世界中の労働者に重大なリスクをもたらしている。建設業に携わる、リスクのある人の健康状態を慎重に観察することが重要である2

参考文献

  1. Caplan A. Certain unusual radiological appearances in the chest of coal-miners suffering from rheumatoid arthritis. Thorax. 1953;8(1):29-37.
  2. Nemakayala DR, Surmachevska N, Vaqar S, Ramphul K. Caplan Syndrome. StatPearls. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing
    Copyright © 2024, StatPearls Publishing LLC.; 2024.
  3. Blanc PD, Trupin L, Yelin EH, Schmajuk G. Assessment of Risk of Rheumatoid Arthritis Among Underground Hard Rock and Other Mining Industry Workers in Colorado, New Mexico, and Utah. JAMA Netw Open. 2022;5(10):e2236738.
  4. Xu W, Ma R, Wang J, Sun D, Yu S, Ye Q. Pneumoconiosis combined with connective tissue disease in China: a cross-sectional study. BMJ Open. 2023;13(4):e068628.
  5. Miall WE, Caplan A, Cochrane AL, Kilpatrick GS, Oldham PD. An epidemiological study of rheumatoid arthritis associated with characteristic chest x-ray appearances in coal-workers. Br Med J. 1953;2(4848):1231-1236.
  6. Schreiber J, Koschel D, Kekow J, Waldburg N, Goette A, Merget R. Rheumatoid pneumoconiosis (Caplan's syndrome). Eur J Intern Med. 2010;21(3):168-172.
  7. Gómez Carrera L, Bonilla Hernan G. Pulmonary manifestations of collagen diseases. Arch Bronconeumol. 2013;49(6):249-260.
  8. Scadding JG. The lungs in rheumatoid arthritis. Proc R Soc Med. 1969;62(3):227-238.
  9. Payne RB. Serum protein fractions in rheumatoid pneumoconiosis without arthritis. J Clin Pathol. 1962;15(5):475-477.
  10. Groner LK, Green DB, Weisman SV, et al. Thoracic Manifestations of Rheumatoid Arthritis. Radiographics. 2021;41(1):32-55.
  11. Poole JA, Mikuls TR, Thiele GM, et al. Increased susceptibility to organic dust exposure-induced inflammatory lung disease with enhanced rheumatoid arthritis-associated autoantigen expression in HLA-DR4 transgenic mice. Respir Res. 2022;23(1):160.

このサイトの監修者

亀田総合病院
呼吸器内科部長 中島 啓

【専門分野】
呼吸器疾患