呼吸器は、酸素化と換気に分けて考える。

呼吸を評価する際は、「酸素化と換気」に分けて考えることが重要です。

酸素化とは、酸素が血液に取り込まれることです。PaO2 60mmHg以上(SpO2 90%以上)を目標とし、酸素化が不良な場合は、吸入酸素濃度を増やすことで対処します。通常はSpO2モニターでリアルタイムにモニタリングします。

換気とは、血液がCO2を肺胞に放出し、それが呼吸によって体の外に出されることです。
CO2の値を目標にするのではなく、呼吸性アシドーシスによるアシデミアの程度を指標とし、 pH 7.2〜7.25以上を保つことを目標とします。(pH 7.2未満では人間の臓器機能の維持が困難になるため)

換気不全に対しては補助換気で対処する必要があり、挿管人工呼吸管理、もしくは非侵襲的陽圧換気(NPPV)を行います。
PaCO2のモニタリング機器については広く普及はしていないため、通常、機器によるモニタリングは困難です。
ただし、高CO2血症では、意識障害が生じるため、バイタルサインの1つである意識レベルで、モニタリングが可能です。海外のある著名な集中治療医が「私は、呼吸管理をするときに血液ガスはほとんど取らない。なぜなら意識レベルでPaCO2は判断可能だからだ」と言う話を聞いた事があります。

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例えば、COPDを基礎とする患者が気道感染で受診し、血液ガス分析でpH 7.19、PaO2 55mmHg、PaCO2 80mmHgを認めたとします。
この場合、酸素化については、PaO2 55mmHgであり、経鼻酸素投与による対応で十分な値です。
しかし、pH 7.19mmHg < 7.2というのは、生命の危険を意味する値であり、ただちに補助換気が必要と判断します。

また、この患者の普段のPaCO2の値は、次図の式で計算できます。

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本症例を具体的に計算してみますと、「80--(7.4--7.19)/0.008」=54mmHgとなりますので、この患者を治療して行く際は、最終的にPaCO2 54mmHgまで改善させるのが治療の目標となります。

もし、肺結核後遺症の患者が気道感染で受診し、血液ガス分析でpH 7.38、PaO2 55mmHg、PaCO2 70mmHgである場合は、どうすれば良いのでしょうか?ただちに補助換気は必要でしょうか?

この場合は、pH7.38に保たれており、患者の高CO2血症(換気不全)は急に発症したものではなく、慢性的に生じており、腎性の代償が働いているものと考えられます。よって、慌てて補助換気を行う必要はありません。

PaO2 55mmHgで酸素化障はあるので酸素吸入は必要です。ただし、CO2ナルコーシスを防ぐために吸入酸素濃度を高くしすぎないように注意する必要があります。

人工呼吸器抜管後の患者などにおいても、「この患者は酸素化に問題があるのか?換気不全があるのか?」を考えておきます。

例えば換気不全がある患者が抜管後にSpO2が下がって来た場合に、「酸素化が悪いから酸素投与しよう」と単純に対応してしまうと、CO2ナルコーシスを誘発するだけでしょう。

このような患者は、多くの場合SpO2が下がると同時に、意識レベルも低下しており、血液ガス分析をすれば高CO2血症が確認されるはずです。よって、正しい対応としては、補助換気(気道確保ができるならNPPV)を行うことになります。

このサイトの監修者

亀田総合病院
呼吸器内科部長 中島 啓

【専門分野】
呼吸器疾患