【活動報告】フェニックスAAPHM通信 from 鴨川 その12

AAHPM終了からはや10日以上経ってしまいました。亀の歩みで投稿してきた報告もあとわずか。今しばらくお付き合いください。
 
Concurrent Session
SA510 Critical conversations: Opioids in Hospice and Palliative Care - Balancing Access and Safety
 
Town Hall(対話集会)形式でホスピス・緩和ケア領域におけるオピオイドをめぐる諸問題について討議するセッションでした。飛行機の時間が迫っていたので最初の部分しか出られず、実際の議論には参加できなかったのですが、ハンドアウトから重要なデータなどを抄訳します。


【オピオイド依存:事実と数字】

○2015年薬物乱用と診断された12歳以上の米国人2050万人
 200万人が処方された痛み止め関連
 59万1千人がヘロイン関連
 
○2015年の致死的薬物乱用は52404件
 米国における突然死の主因となっている
 20,101件が処方された痛み止め関連
 12,990件がヘロイン関連
○2012年米国で出されたオピオイドの処方箋は2億5900万件
 全ての成人に少なくともひと瓶の薬が行き渡る


【重要なメッセージ】

○重篤な疾患を持つ患者に高品質の緩和ケアを提供する際にタイムリーで効果的な疼痛および他の症状緩和を提供することは必要不可欠であり、オピオイド鎮痛剤はその過程に重要な役割を果たす
 
○米国において、オピオイドは依存に関連して増え続ける死および他の問題に結びついている
 
○全米知事会、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)、麻薬取締局(DEA)、各州の医療/看護/薬学委員会、各州の司法長官など様々な方面からこの危機を乗り越えようとする試みがなされている
 
○多くの州でこの危機をどうにか抑えるための法整備が進んでいる
 
○法案/法律ではがん患者やホスピスケア・緩和ケアを受けている患者については免除規定を設けているが...
 条文が指すところが明らかでない
 既存の政策と新しい提案が矛盾する場合もある
 オピオイド関連死が今後減少しなかった場合は
 免除規定が削除されないとも限らない


【パネルディスカッション】

HPNA, NHPCO, AAHPMから代表者が登壇し、各団体がオピオイドの利用と安全についてどのような策を推進しているかについて発表する

  • 政策の表明
  • 権利擁護への取り組み
  • 教育資源について
  • 他の資源について


【HPNA(全米ホスピス緩和ケア看護協会)より】

○ケアのニーズは複雑化している
 オピオイド使用に関する評価とリスク同定が必要
 ホスピス緩和ケアの全期間でオピオイドが必要か?
  新規発症?侵襲的治療中?がんサバイバー?EOL?
 
○アクセス
 処方医を減らす、保険請求を制限する
 保険会社による事前許可、処方箋の変更
 薬剤の不足
 EOLにおける疼痛問題:Hospice comfort kitの使用を減らす
 多職種による協働
 
○患者/家族/市民への教育
 恐れと神話:安全に保管し処理する
 
○職業人教育
 学会で講演
 臨床フォーラムの開催
 講習会
  ELNEC: End-of-Life Nursing Education Consortium
  認定コース:ACHPN、CHPN
 Eラーニング
 分科会やメーリングリストの活用
  APN、生命倫理学、公共政策など
 ホスピス緩和ケア看護雑誌(学会誌)
 出版
 
○今後の展開
 障壁/ギャップ/ニーズを知るためにアンケート実施
 現存する教育資料に重要な情報を組み込んでいく
  会議:学会総会、臨床フォーラム
  出版
  看護助手TIPSシート
 「わかる」から「できる」への変化
  質疑応答や試験を通じて達成
 政策を再検討、ギャップのあるところに情報を届ける
 患者/家族に情報伝達を行う
  オピオイドにまつわる神話と事実
  安全な保管と処理
 コミュニケーション戦略および広報計画を立てる


【NHPCO(全米ホスピス緩和ケア協会)】

○NHPCOが取り組んでいる問題
 麻薬その他の物質を家庭やホスピスで処理する方法
 残薬回収について
 濫用防止策:薬を処方する側が防止策を行うべきか?
 PDMP(処方薬監視プログラム:Prescription Drug Monitoring Program)
  ホスピスが除外されている
 CEPOP(Collaboration for Effective Prescription Opioid Policies)
  全米でオピオイド処方を効率化する取り組み
 全国的な議論の一部をホスピス緩和ケア提供側がになう方法
 
○家庭で薬物を処理する方法
 DEA(麻薬取り締まり局)による通達:2014/9/9
 家庭における変更点
  薬物は「ultimate user」に属する
  ホスピス職員は患者から薬物を「回収」しない
   患者が薬物を処理する手助けをするべき
  家族が処理できない場合は、法的命令が下る場合あり
  処理方法は自治体のルールに従う
 
○Ultimate Userとはだれか
 定義:自らまたは自らの家族が使用するために統制薬品を合法に取得し所有する者
 患者家族の役割:ホスピスケアを受けている患者の家族は統制薬品を処理してよい
 ホームホスピス・在宅医療提供者の役割:
  違法性阻却条件がなければ患者の所有物である統制薬品を処理しない
 
○残薬回収プログラム
 4200の法的執行機関が参加
 5400カ所で回収
 893,498ポンド(447トン)の残薬を回収
 回収量上位5州
  テキサス(40トン)
  カリフォルニア(32トン)
  ウィスコンシン(31トン)
  イリノイ(24トン)
  マサチューセッツ(24トン)
 郵送回収用封筒の使用
 薬物を無効にする封筒の利用
 
○PDMP:処方薬監視プログラム
 ホスピス患者やがん患者は除外されている
  ミズーリ州以外では行われている
 緩和ケアの患者は除外されにくい
 より広い疾患が対象で、終末期ではなく慢性疼痛が主訴のため
 参考URL:
 http://www.pewtrusts.org/~/media/assets/2016/12/prescription_drug_monitoring_programs.pdf
 ホスピス患者を除外している州
  アリゾナ
  ケンタッキー
  マサチューセッツ
  ニューヨーク
  オハイオ
  テネシー
  ウィスコンシン


【AAPHM(米国ホスピス緩和ケア学会)】

○AAHPMの関心
 オピオイド濫用は公衆衛生的問題であるとの認識
 正当なニーズがある患者に対して薬物への適切なアクセスを保障
  バランスの取れた公共政策
  適切でエビデンスに基づく処方
  リスクマネジメント
 
○全国的なネットワークの一員として働く
 AMAオピオイド濫用撲滅委員会メンバーとして
 Collaborative of REMS Education (CO*RE)創立メンバーとして
 AMA代表者会議の疼痛緩和ケア部門議長として
 
○ホスピス緩和ケア提供者に対して公共政策が与える影響
 連邦レベル
  慢性疼痛へのオピオイド処方に関するCDCガイドライン
   https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/65/rr/rr6501e1.htm
   元来は緩和ケア・EOLケアを念頭に置いていない
   州レベルの法律や政策、保険適応に影響する
  Comprehensive Addiction and Recovery Act
   Opioid epidemic対策法
   この法律から複数の処方ガイドラインが派生する可能性あり
  FDAが全てのオピオイド処方者に対し教育の必須化を促進
  DEA:2017年米国で製造されるオピオイド製剤の総量規制
州レベル
 2016年 220のオピオイド関連法が成立
  多くが医療行為についての法律
   処方の量規制、日数規制、ナロキソンの必須化
  州医事当局によるオピオイド処方規制
   ホスピス臨床に影響あり(サウスカロライナ、オハイオ)
 
○AAHPMが最も優先する公共政策
 医学的適応のある患者について処方薬への速やかで効果的なアクセスを保証する一方で、処方薬の濫用・誤用・流用を抑制する社会の要請を認識した上で個人と社会の安全を最大化するために医療関係者・規制当局・産業関係者と協働する。
 
○AAHPMメンバーに推奨されていること
 疼痛評価と処方に関する知識を深める
  Opioid Prescribing: Safe Practice, Changing Lives
   http://aahpm.org/self-study/rems
   http://www.medscape.org/viewarticle/852369
 AAHPM UNIPAC (自習用教材)第3巻 
  Assessing and Treating Pain
 学会セッションとWebセミナーの録画
 AMA情報センターへの州別特別教育プログラム提供
  https://www.ama-assn.org/content/state-medical-society-opioid-education-resources
 各州のPDMP(処方薬監視プログラム)へ登録する
  PDMPトレーニング・技術支援センター
  http://www.pdmpassist.org
 バランスの取れた公共政策を推進する
  州レベルで提言を行い、議員と交流し、証言する
  AAHPM立法アクションを利用し議員へコンタクトする
   (訳注:ロビー活動)
  効率的処方薬監視プログラムのためのガイドラインを用いる
  State Pain Policy Advocacy Networkをチェックし情報を得る
  AAHPM Connectフォーラムで州レベルの医療政策論議に参加
  2016年の学会総会における公共政策フォーラムを復習する
   Opioid Prescribing Under Fire: How You Can Advocate for Balanced Public Policy

(江川)

このサイトの監修者

亀田総合病院
疼痛・緩和ケア科部長 関根 龍一

【専門分野】
病状の進行した(末期に限らない)癌や癌以外のあらゆる疾患による難しい痛みのコントロール、それ以外の症状の緩和