日本エンドメトリオーシス学会

大寒です。1年で一番寒い時期ですがニュースでは各地の暖冬の影響を報じています。先日、勝浦のカワヅザクラの狂い咲きを紹介しましたが、全国あちらこちらで咲いているようで、狂い咲きというよりは早咲きなのかもしれません。春が待ち遠しいですが、やはり、寒い冬があってこその日本の四季だなぁ、としみじみ感じている古澤です。


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1月18日、19日と下関で第41回日本エンドメトリオーシス学会が開催されました。エンドメトリオーシスとは子宮内膜症のことです。この学会は子宮内膜症と子宮腺筋症に特化した学会です。割とこじんまりとした学会ですが基礎研究的な内容から臨床的な内容まで扱う非常に面白い学会で冬の楽しみの一つです。
子宮内膜症は治療の難しい疾患です。患者さん年齢、背景、ニーズ、疾患の程度を考慮して手術、薬物療法、あるいは経過観察を組み合わせて治療しますが、基本的に長期にわたって付き合っていかなければならない疾患です。従来は妊娠したら良くなる、あるいは閉経すれば治療は終了、なんて言われていましたが、近年、実はそうとも言えないよ、と言われ始めています。


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私自身も数年前に内視鏡学会で内膜症合併妊娠の当科での周産期予後について演題を出したことがありましたが、近年子宮内膜症が周産期に影響を与えるとの報告が多数出てきています。大規模な調査で前置胎盤、早産症例が内膜症合併症例で増加することがわかっており、胎児発育遅延や妊娠高血圧症候群(以前は妊娠中毒症と呼ばれていました)も増加する可能性が高いとされています。また、妊娠初期に妊娠前から指摘されていたチョコレート嚢腫(子宮内膜症による卵巣嚢腫で卵巣の中に茶色い古い血液が貯留した状態)が急に増大したり、形態が変化したりして悪性腫瘍との判別が難しくなることも時々経験します。また、妊娠中にチョコレート嚢腫が破裂することも稀にあります。「妊娠したからもう大丈夫とは言えない」というのがこれからの内膜症症例に対する周産期管理です。


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また、閉経後についてはどうか。子宮内膜症は「慢性炎症性疾患」の一つです。若い時に内膜症が発症し、長期にわたって慢性的な炎症にさらされることで動脈硬化のリスクが高まります。本邦や米国の臨床研究で子宮内膜症女性が心筋梗塞や脳卒中などの心血管系疾患のリスクであることが証明されています。内膜症に対する手術療法が心血管疾患のリスクを低下させる可能性、低用量ピルが血管機能を改善し、悪玉コレステロール(LDLコレステロール)の減少や善玉コレステロールの上昇など、脂質代謝の改善に効果があることもわかってきています。

下関の水族館、海響館です。下関市街からバスで10分(私は歩いたので20分くらい)の唐戸地区にあります。


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子宮内膜症の悪性化も大きな問題の一つです。子宮内膜症の癌化の機序はまだ明らかになっていませんが、内膜症病変の出血がヘモグロビンや鉄による酸化ストレス(最近よく聞く言葉ですね)を招き、酸化ストレスによるDNA損傷が関わっていると言われているようです。この「鉄」と内膜症の癌化について奈良県立医大のグループがいくつかの発表をしており、興味深かったのが、「内膜症が癌化すると良性の内膜症性嚢胞(つまり、チョコレート嚢腫)より内容液の鉄濃度が低くなる」という報告でした。これを利用して画像診断で嚢腫内容の鉄濃度から良性、悪性を鑑別するという試みが研究されていて、MRIのような大規模な機械の他、経膣超音波のような小さな機械も開発されつつあるようです。

海響館はフグとペンギンに力を入れているようです。トラフグ、もうすぐ行くから待ってろよ。


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内膜症は女性にとって思春期から閉経後まで長きに渡って管理が必要な疾患です。思春期の月経痛は将来的な内膜症発症のリスクと言われ、早期の介入が予防につながるかもしれません。「月経は痛いもの、我慢するのが当然」という認識は間違いです。低用量ピルや黄体ホルモン療法などを用いて適切な長期的な管理をすることで多くの女性を辛い痛みや不妊症から解放することができます。更には早産などの産科的異常、その先の心血管系疾患や卵巣癌の予防もできるのです。

ポーキュパーンフィッシュ。ハリセンボンの仲間ですが棘を折りたたむことができないのが特徴です。ポーキュパインはヤマアラシのことです。


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あれ、最近顔を見ないなと思ったら、こんなところにいたのかい。


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お勉強のあとのお楽しみ。お刺身、唐揚げ、南蛮漬け、ちり鍋、雑炊、ヒレ酒・・・。せっかく下関に来たのでちょっと贅沢。下関には房総地区と共通点があります。下関は捕鯨基地としても有名なんです。というわけで前日はクジラを食べちゃいました。房総とはやや食べ方の違いがあるようで面白いです。南房総和田のクジラも負けてはいません。クジラのタレは美味しいですよ。


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関門海峡ってこんなに狭いんだ!
想像していたよりも九州が近くてびっくり。トンネルを歩いて九州に渡れるそうです。巌流島もすぐそこ、もっと時間があれば観光するところはたくさんありそうです。またなんか学会やらないかな。


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本州の最西端の下関ですので「ものすごく遠い・・・」と思っていたのですが、羽田から山口宇部空港までは1時間ちょい、宇部空港からは下関までバスで1時間半くらいかかりますが、新幹線で京都に行くのとかかる時間はあまり変わりませんね。今回は学会終了後もう1泊させてもらって翌日朝の便で帰ってきました。わずか3~4日だけ目を離したら、なんとキャベツが二つヒヨドリにやられてしまいました。不在の間、鴨川は雪が降って荒れ気味の天気だったようで、かぶせていた網が外れていました・・・。

このサイトの監修者

亀田総合病院
産婦人科主任部長 大塚 伊佐夫

【専門分野】
婦人科悪性腫瘍