第32回日本内視鏡外科学会 その2

前回の続きです。
30以上の会場の内、婦人科の会場は常時2会場くらいでしょうか、胃や大腸などはどの時間帯も6〜9会場でセッションが開催されています。今回は婦人科ではセンチネルリンパ節郭清や傍大動脈リンパ節郭清を含む悪性腫瘍手術に関するワークショップやパネルディスカッション、高難易度子宮内膜症手術、子宮腺筋症に対する温存手術、ロボット支援手術などのシンポジウムやパネルディスカッションが開催されましたが、いつもそうですが、婦人科に関しての正直な印象としては夏に開催される産科婦人科内視鏡学会とあまり変わりがないかな。


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この学会の面白い所の一つは医工連携の展示で、工学系の大学の研究室や、それこそ、何かのドラマに出てきたような下町の製作所のような中小企業が我々の発想とはまた違った発想の面白い、凄い技術や製品の展示をしていることです。これはある大学系の研究施設からの展示で、術者の鉗子の動きとトレースして評価するというシステム。我々の感覚だと鉗子の先端を追いかけることを考えてしまいがちですが・・・


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このシステムは鉗子の手元についた、このサイコロのようなマーカーをカメラで追いかけて鉗子の動きを画面上に描出するというものでした。


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挑戦してみました。こんな感じで評価してくれますが、へたくそです。
手元のマーカーの動きをトラッキングして手技にかかる時間、鉗子の移動距離、移動速度、加速度手振れを定量化して評価をするんだそうです。


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これも工学系の研究室からの展示です。近年、ロボット支援手術が広まりつつありますが、ロボットの弱点である感触の欠如を補うため、鉗子の先端の抵抗、弾性を術者の手元にフィードバックするシステムです。毎回バージョンアップされています。


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初日は良い天気でした。横浜の夜景、って感じですね。


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私達の日常の中にもAIが徐々に浸透してきています。空港の監視カメラが怪しい人物を自動的に検出したり、囲碁や将棋で人間に勝っちゃったり。ネットでの買い物の傾向や、行動パターンからこれから欲しがりそうなものを勝手に提案してくるのには私は「余計なお世話」と思ってしまう方です。医療分野では画像診断の分野で応用されつつあり、もしかすると近々画像読影はAIの仕事になってしまうかもしれません。深層学習とか強化学習とか、私には理解の及ぶところではありませんが、もの凄いスピードでどんどん賢くなっていき、人間のように見落としをしません。上の写真は手術の鉗子の形状を学習して高精度で認識できるようになっているシステムです。


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さらに、術中画像から血管や腸管や、神経など、解剖学的に手術工程の目印になる構造を学習させて認識することで、今、手術のどの工程を行っているかを判定できるようになる、というシステムです。紫色に腸管が示され、薄緑色に腹膜の向う側の尿管が示されています。


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それにより、今手術はどの段階まで進行して、かつ、手術の手技が上手くいっているのかを判定できます。万一、予定外の出血が起こると・・・上のようにアラートが出てしまい、手術室中にサイレンが鳴り響いて上級医がすっ飛んでくるってわけです。
術前のCT画像から臓器の3D映像を構築して術野の画像と重ねる、なんていうのも何年か前から出てきましたが、実際の術野では臓器は動いたり、動かされたり、ひしゃげたりするので上手く一致しない場合があります。AIを用いた術野画像からの解析なら、術者が見ている画像にリアルタイムで隠れた臓器の位置が示されるのです。「300メートル先、右折です。右折レーンがあります。」っていうのと同じようなもんですな。


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これはCT画像からの学習による臓器の自動抽出と命名制度。かなりの制度で血管名を同定できるようになっているそうです。恐らくは今後、術前の画像解析によるデータと、術中画像の解析が組み合わさってさらに高い精度なナビゲーションシステムが出来上がっていくのでしょう。「右45度方向に尿管があります。ご注意ください。」とか「今縛ったのは子宮動脈ではありません、糸をほどいてください」なんていわれちゃうのかな?いや、間違った操作をしようとすると緊急ブレーキが作動して鉗子が動かなくなるんだろうな。エアバッグもふくらむかもしれないな。
そのころにはもう引退していたいな、と思ってしまうのですが、技術の進歩のスピードが速すぎて逃げ切れなさそうです。実際、スピードが速すぎて法律が追い付かない問題もあります。自動車の自動運転での事故の責任の所在と同様、結局このようなナビを用いて手術をして事故が起きた場合も責任は術者にあります。AIに言われるとおりにやればいい時代が来るわけではありませんし、完全な自動手術もそう簡単には実現しないでしょう。AIも教師データに含まれない、きわめて稀なケースや癒着とか既往の疾患、手術により著しく偏位や変形した臓器は検出できません。我々が知識を蓄え、技術を磨かなければならないことに何も変わりはありません。AIの進歩により、我々がストレスを感じずに安全に早く手術を終えることができるようになることで、勉強する時間や、患者さんと接する時間が増えることが理想なのではないかと感じました。

このサイトの監修者

亀田総合病院
産婦人科主任部長 大塚 伊佐夫

【専門分野】
婦人科悪性腫瘍