エンドメトリオーシス学会

この週末は第40回エンドメトリオーシス学会でした。今回は会場が東京、虎ノ門ヒルズフォーラムでした。虎ノ門ヒルズには初めて訪れます。新橋SL広場を抜けて、飲み屋街を抜けてテクテク、う〜ん、いつの間にこんなおしゃれなビルができてしまったのか・・・(もう開業して5年近くなるようですが)。
最近、鴨川グランドタワーより高い建物を見上げると目がくらんでしまう古澤です。

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東京の空も気持ちの良い快晴です。

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この学会はエンドメトリオーシス(=子宮内膜症)と関連疾患である子宮腺筋症に特化した学会です。特定の疾患に特化した学会というのはちょっと珍しいですね。
大きな学会ではないのですが、基礎研究から臨床まで幅広い演題がでており、シンポジウムやワークショップも複数開催され非常に面白い学会で、毎年楽しみにしている学会の一つです。

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以前は、結構マニアックな学会と認識されていたかもしれませんが、婦人科、あるいは女性診療に関わる先生方には是非参加をお勧めしたい学会です。子宮内膜症という病気は近年増加傾向にある疾患であるというだけでなく、元々、一般に考えられていた以上に、潜在的に多くの患者さんがいる疾患であると考えられるようになってきました。
非常にありふれた病気なのですが、様々な年齢層の女性の生活の質に大きな影響を及ぼす疾患と考えられるようになってきています。

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「月経関連疾患の就業への影響とその対策」と題したシンポジウムがありました。ご存知かもしれませんが、子宮内膜症・子宮腺筋症は月経随伴症状(月経痛、月経過多など)、あるいは慢性疼痛により女性の就業に大きな影響を与える疾患です。内膜症とは直接関係しない場合もありますが、月経前症候群というのも女性にとって非常に不快な症状を呈します。今回の学会では、企業の産業医(この先生は婦人科出身の女性医師でした!)厚生省、経産省、そして衆議院議員の先生からの発表もあり、女性の就業支援に対する企業として、行政としての取り組みを聞くことができました。
国策としての「働き方改革」が叫ばれる中でも、これらの取り組みはまだまだ始まったばかりで、多くの女性はその恩恵にあずかれる段階には至っていません。しかし、この疾患がより多くの国民に認知されることできっと変わってくると思います。
今回は働く女性にスポットが当てられていましたが、専業主婦もいますし、さらに重要なのはより若年の学生、学童への支援と教育です。そして、私を含めた男性にとっても職場の同僚、配偶者や恋人、そして子供と、決して他人事ではありません。月経がない男性への支援はないのか?と思う方もあるかもしれませんが、女性が働きやすくなれば我々男性も働きやすくなるんです。

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ここでは詳しく書きませんが、月経随伴症状による企業の生産性の低下はとても大きなものなんだそうです。
人口の半分は女性です。研修医の皆さん、我々産婦人科医は日本国民の2人に一人を占める女性の幸福を担うだけでなく、その家族の男性や子供たちの幸せにもかかわることのできる素晴らしい職業です。

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今回の学会でもう一つ話題になっていたのが薬物療法についてです。
子宮内膜症、あるいは月経困難症に対する薬物療法として、いわゆる低用量ピルは禁忌がなければ第一選択薬として非常に重要なことは言うまでもありませんが、従来の周期的投与(3週間内服、1週間休薬など)から最近は連続投与にシフトしてきています。最大120日連続投与できる製剤が2年ほど前に発売され、昨年また別のメーカーから新しい長期投与タイプの製剤も発売されました。私も現在、従来型の周期投与から連続投与への移行を多くの患者さんに勧めています。

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子宮内膜症はひとたび発症してしまうと、女性の一生に付きまとう、非常に質の悪い疾患です。しかし、近年、発症が予防できる可能性、あるいは早期介入により悪化させない管理の可能性が言われています。
月経痛が強い若年女性は将来的に子宮内膜症を発症するリスクが大きいこと、これを一般の方々に知ってもらう必要があります。「たかが月経痛」ではありません!特に初経以後、学業やクラブ活動に支障をきたすような月経痛は要注意であることを若年女性(あるいは女児)の母親に知ってもらわなければいけません。母親世代の多くは「月経痛なんて鎮痛剤を飲んで我慢すればいい」「私だって我慢してきた」「中学生(時に小学生)が婦人科を受診するなんてとんでもない」と考えがちです。そして「こんな年齢からピルを飲むなんて絶対ダメ!」となります。治療の障壁が母親であるケースは実に多いんです。我々産婦人科医にとって患者本人だけでなく母親への教育も重要な役割になってきています。月経の症状に関して、婦人科受診に関して、ピルに関して、多くの誤解と偏見があります。お母さんたちが悪いのではありません。きちんと知らせてこなかった私たちの責任なんです。
手術の腕を磨くことはもちろん大事ですが、「しなくて済む手術」をしないで済むようにするのが私たちの最も良い仕事です。
女性の皆さん、月経痛は我慢しなくていいんです。いや、我慢しちゃいけないんです。

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何のオブジェなんだ?おしゃれすぎて、私には理解不能です。
帰りの電車でこの記事を書いています。東京の学会は(観光がないので)ずっと学会場にいて疲れるね・・・。
あ〜ぁ、明日からまた仕事だ。

このサイトの監修者

亀田総合病院
産婦人科主任部長 大塚 伊佐夫

【専門分野】
婦人科悪性腫瘍