第31回 日本内視鏡外科学会 その2

やっと晴れ間が見えるようになりましたが、相変わらず、寒いです。慣れない土地で、バス乗り場やら、地下鉄乗り場やら、勝手がわからず無駄に歩き回っています。普段、スニーカーばかりなので履きなれない革靴で靴擦れが辛い古澤です。

post100_1.jpg今回は同行者がいないので食事以外はおとなしくホテルで過ごしました。夜の中州です。この寒い中、屋形船が出ていました。

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最近、テレビで4K導入の話がありますが、内視鏡手術は4Kは当たり前、8Kの時代です。内視鏡の世界ではいわゆる「ハイビジョン」は既にlow visionなんですと。4Kは亀田の手術室にも入っているらしいです。「らしいです」というのは、私の手術では使わせていただいていないので、詳細は定かではないということです・・・。
8Kで何がすごいのか?下手くそな手術をきれいな画像で見てもうまく見えるわけではありません。従来の画質では、ハイビジョンでは、そして4Kでは見えなかったものが見える、ということだそうです。綺麗な女優さんの小じわやシミが見えてしまうのはちょっと残念ですが、今まで見えなかったような、微細な血管や、線維が見えることで手術の可能性がもっと拡がるんです。

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da vinciの先を行く、手術支援ロボットの開発についても沢山の夢のある演題がありました。企業の研究者とか、工学系の大学研究員なども多数の発表をしているのがこの学会の特徴です。da vinciの欠点である触覚のfeed backのなさをカバーするために空気圧で触覚を術者(というか、操作者)にfeed backできるシステムの研究です。

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この方のお話も面白かったですね。
人間は動作を学習する際に、連続する一連の動作を、通して覚えようとしても覚えられないんだそうです。「ヒトは連続な動作を離散化して記憶し、離散情報から連続動作を再現できる」とおっしゃっていました。こう書くと難しいことを言っているようですが、皆さんなんとなく心当たりがあるのではないでしょうか?
ベテランの手術映像を見ながら手術手技を追体験するシステムの開発のお話でしたが、すごいのは、ただ単に「エア手術」をするのではなく、臓器との接触イベントを感覚として学習者に返すんです。

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AIと手術の融合に関する話題も今回は非常に多かったですね。
そりゃそうですね、掃除機やら冷蔵庫、果ては部屋の電気をつけるだの消すだのまでAIが入り込んできているんですから。更に、将棋や碁では人間もかなわなくなってきているんですから。
今まではAIと医療の融合ではどちらかというと画像読影など診断領域が主体でした。ビッグデータとディープラーニングで人間の目をはるかに超える診断能力を発揮できると注目されています。(特に、ここ最近、いやなニュースもいくつかありましたしね)

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内視鏡手術におけるAI活用にはいくつかの方向があるようですが、一つは過去の症例データから解剖学的な臓器の位置関係を手術画像の中に指し示す、ナビゲーションとしての役割。他の臓器の陰にかけれて見えない血管や神経の位置を指し示すことで臓器損傷を防ごうというものです。「ここに99.5%の確率で総胆管がありますよ」みたいなことを術者が見ている画面上にマーカーで示してくれるわけです。これが実用化されれば、術中に迷子なることはなくなりますね。(画像は無断で載せると問題になるかもしれないので私の拙い模写です)
更に、AIを用いた教育についての研究もありました。
空港の監視カメラなどの映像から、顔認証だけでなく、挙動不審な人物を抽出して追跡することでテロリストの侵入を捉える技術が紹介されているのをニュースで見たことがあります。同じようにAIで動きの不規則さを捉えて、手術映像の中の鉗子の動きから適切でない動きを抽出したり、出血を指摘することもできるようです。上手な鉗子の動きと、下手な動きの違いをAIが識別します。下手な術者では鉗子が小刻みに震えたり、同じ動きを何度も繰り返したりするのだそうです、なるほど。

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「暗黙知」という言葉、知ってます?私は初めて聞いたのですが、本学会で度々出てきました。最近の流行りなのかな?
「暗黙知」とはウイキペディアによると、「認知の過程あるいは言葉に表せる知覚に対して、(全体的・部分的に)言葉に表せない・説明できない身体の作動を指す」と分かるような分からないようなことが書いてありました。要するに、(ベテランが)いつも当たり前のようにやっていることのように、背景に沢山の理論があるにもかかわらず、説明することが困難な事を指すのかな。例えば、自転車に乗るには沢山の難しい技術を身に付けなければならず、一度乗れるようになりさえすれば、乗り方をずっと忘れない。ところが、乗り方を言語で説明するとなると、これが極めて難しい・・・なんてことが暗黙知なんだそうです。
この「暗黙知」は臨床の場では沢山あるのですが、これを若手にどのように伝えていくか。かつては(我々が教育を受けた時代は)「見て盗め」と言われました。しかし、これからは若手にうまく与えていかなければいけません。言葉で説明できない分、今後はそこに様々な技術が投入されていくんでしょうね。

あぁ、また鴨川に帰ってきちゃった・・・。また博多行きたいなぁ。

このサイトの監修者

亀田総合病院
産婦人科主任部長 大塚 伊佐夫

【専門分野】
婦人科悪性腫瘍